騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第137話 失うものは

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~幕間~

北部戦線最前線スノウベルトフィールド。

王国領土の中でも大きな面積を誇り、冬季には膝までの積雪が毎年のように積もる高原。

平時には静寂と高原動物の楽園たるソコには、怒号と喧騒が支配し、僅かに足元を覆う雪は、満遍なくドス黒い紅に染まっていた。


「やっぱり無理だ!逃げろ~っ!敵う筈がねぇ!バイオーさん達でも殺されたんだっ!!」

「ひぃいいい!死にたくねぇええ!嫌だああ!!」

エース部隊を壊滅させられ、数に劣る王国騎士団は第2波が押し寄せようと対峙しただけで、敵前逃亡が相次ぐ。我先にと、次々に。


「逃げよーぜ!!今ならまだ間に合う!あの化け物女がいりゃ時間も稼げるだろっ!」

「ああ、死んじまったら終わりだ!!急げ!」

無理もない。予想していたことだ。

もともと激戦につぐ激戦、教え子たち全員の戦死。

自分たちとは異なる強さを持つ私への恐れ。

私への信頼が地に落ちているのはわかっていた。

その上、味方エース部隊の壊滅。

前方の軍勢には、彼らをやった『奴ら』もいるだろう。

……決定的だったね。


アイリス「ふぅ……」

銀色の細い剣を腰元から抜き地面に突き立て、額に巻かれた包帯を締め直す。

……退くわけには行かない。

ここを突破されれば、王国首都への行軍ルートを一直線で魔族に確立されてしまう。

そうなれば、かろうじて耐えている王国は直ぐに陥落するだろうから。

……ギランバルト団長……こんな状況にも関わらず、スリス様を参謀総長から降ろすことに同意して、とうとう援軍を寄越さなかったということは……

やはり貴方は……『そちら側』だったみたいだね。

キールの読みは的中してたわけだ……。


「流麗な金色の長髪に、朝日を浴び輝く銀色の細剣。アイリス=レイフィールド……その名、余が忘れると思うてか。先刻の戦いで余の大牙から逃れようとは思わなんだ」

巨大豚鬼オーク、硬石悪魔ガーゴイル、小鬼のゴブリン、生ける屍スケルトン兵。並みいる軍勢の中から、その巨体を揺らし地面を揺るがす怪物。

竜の鱗や猛虎の大牙、空を覆う黒きコウモリの翼や大蛇の頭を持ち、獸の腕を持つ様々な特徴を身体に現した、巨大な魔族が現れる。


アイリス「第2ラウンドかな♪……私はツイてるよ。なぜなら、貴方のような怪物なら……私の剣は、蒼天を切り裂く極地まで昇華できそうだからね♪

死に行く最後だとしても……極地に到達するのは剣士の誉れだよ。」

銀色の剣を引き抜き相手に差し向ける。

絶望的戦い。だけど、恐怖はない。

もう何の為に戦うかわからない……つまりは、失うものは、何もないと気づいたから。

私が居なくなっても、後に続くものが現れる。

それなら私は思う存分、礎になるまでだ。


「……部下も支えるものもなく、ただ独りで余とこの偉大な軍勢を前にその笑み……余に対する侮辱とみたわ。苦しませて消してやる……貴様はな。精々、余を楽しませよ」

蛇の頭から目の前を覆い尽くす火炎が迫り戦いの幕はあがった。
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