上 下
23 / 85
7. 噂ではそう言っている

(2)

しおりを挟む
 独身三十路超えの女二人が揃って力無く、はははと笑う。

「そう言えば結婚式に出席したのに、肝心の独身交流はどうだったの、真紀ちゃん」

 つい心配になって突っ込みを入れてしまった。おひとりさまを決意した私と違い、真紀ちゃんはちゃんと結婚願望のある人だ。御祝儀なんて高い金払っているんだし、コース料理と引き出物もらって帰るだけじゃなく、出会いの場としても活用しなければ。

「いいのがいたら、こんな話で盛り上がるわけ無いでしょ」
「真紀ちゃん……」
「大丈夫。ショータ君の職場のイケメン紹介してもらう約束したから」
「なら良し」

 もはや本来の目的をすっかり忘れ、真紀ちゃんとの世間話ですっかり満足してしまっていた。まあこれはこれで楽しいから、ありかな。

「そうだ。イケメンで思い出したわ、最後の報告。アヤ、大浦君って覚えている? 二年の一学期の終わりに転校しちゃった子」

 すっかり油断したところに不意打ちで瑛士の名前が出てきて、ビクッとしてしまった。

「……うん。覚えているよ」
「大人しそうな優等生って印象だったけど、すんごいイケメンに育ったんだって。で、なおかつ独身」
「あー」

 うん。知ってる。

 とはなぜか言えずに、曖昧な相槌を打ってしまった。そのお陰で、すっかり相談するタイミングを逃してしまう。

「ショータ君に紹介してよって言ったけど、駄目だった。なんか近々結婚するらしくて」
「はい?」

 ガシャンと音を立てて、コーヒーカップを下ろした。

「アヤ、驚きすぎ」
「あ、えっと、力の加減間違えちゃって」

 結婚? え? 誰と? 誰が?

「なんかずっと付き合っている人? あれ、好きだった人? とようやく目処立ったとかって話で。紹介してもらう前だったからいいけどね。これ、下手に仲良くなってからイケメンかっ攫われたら、絶対にダメージ大きかったよね」
「……そうだね」

 へらっと笑ってコーヒーカップに口付けて、もうとっくに飲み干していることに気が付いた。真紀ちゃんもさっきからお冷を飲んでいて、そろそろ店を変えるタイミングなのを知る。

「アヤ、この後どうする?」
「ごめん。今日は家で夕飯食べなくちゃなんだ。最近、まともに親とご飯食べていなくて」
「同居していると、それがあるよね」
「まあね」

 お互いに実家住まいということであっさりと納得してもらい、また今度会おうねと口約束をして別れた。そのまままっすぐ家に帰る。

「あら、おかえりー。早かったわね」
「……ただいま」
「どうしたのよ? 死にそうな顔して」
「……なんでもない」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,401pt お気に入り:2,218

可笑しなお菓子屋、灯屋(あかしや)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:660pt お気に入り:1

転生少女は異世界でお店を始めたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,434pt お気に入り:1,711

【R18】高飛車王女様はガチムチ聖騎士に娶られたい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:596pt お気に入り:252

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:2,665

明日はきっと

BL / 連載中 24h.ポイント:1,079pt お気に入り:1,102

処理中です...