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14. 角打ちで会いましょう
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翌日の朝。
ふわりと意識が浮かび上がるような、そんな優しい感覚で目が覚めた。見慣れぬ部屋の景色。記憶が一瞬混乱して戸惑うけれど、スウェットのパジャマ越し、背中がぽかぽかと温かくて安心する。
背後から巻きついている腕をそっと持ち上げ、静かに体を回転させると、恋人の寝顔を正面から眺める。普段はあまり見ることもない、瑛士の目をつむった顔。穏やかな寝顔。朝らしく、少し伸びた髭。案の定、髪の毛は寝癖が付いている。
私の、愛する人。
そんな言葉が自然と心に湧いてきて、思わず視線を泳がせてしまった。昨日からの怒涛の展開を思い返すと恥ずかしくなる。ずいぶんと、色んな感情を晒してしまった。そしてその後の、あんなことやそんなこと……。
かぁっと頬が上気して、目を伏せた。でも、心も体も満たされたのは、確かだ。
満足の息をついたら、頭上でくぐもった笑い声が聞こえ、はっとする。いつの間に!
「視線感じて起きたら、彩乃がうつむいたままどんどんと赤くなっていった。ねえ、なに考えていたの?」
「別に……」
あなたとの、そんなことやこんなこと。とは言えずに、視線をそらす。
「っと、おはよう彩乃」
「うん。おはよう」
思い出したように言うから、そのまま素直に挨拶を返した。途端、ベッドの中でぎゅっと抱きしめられ、口付けられる。
「え、瑛士っ」
「朝起きたら腕の中に彩乃がいるって、いいね」
起き抜けの、髭も生えて寝癖もある男の気の抜けた笑顔が、なんでこんなに可愛く見えるのか。これがきっと惚れた弱みというやつなんだ。なんだか私も気が抜けて、へらっと笑ってしまった。手を伸ばし、寝癖を直すように手で梳きながら、瑛士の顔を覗き込む。
「私も瑛士の体温感じて、嬉しかった」
言った途端にぎゅっとされる。いきなりそれは、苦しい! そして、あ……。
「朝の、生理現象?」
下半身にあたる感触に、浮かんだ疑問が口から漏れる。
「それだけじゃないって」
ちょっとむっとした感じで否定された。
「彩乃がここにいるって思ったら、勃ちました。……ねぇ、このまま、いい?」
後半、耳元でささやくのはズルいと思う。うっかり流されそうになるけれど、ちょっと待て。今日は平日だ。
「瑛士、仕事でしょ?」
ベッドの中、抱きしめられたままでわざと難しい顔をして聞いてみる。瑛士の手が私の全身を優しく撫でてくるけれど、これに気を取られてはいけない。
「今、何時?」
「んっ、もう七時」
「あと二時間ある。在宅ワークだから、通勤時間のロスタイム無し」
「あんっ」
つい高い声をあげてしまった。昨夜ですっかり体が瑛士の手を覚えてしまっている。
「けじめ必要! シャワー浴びて、朝ご飯食べて、着替えたら、二時間あっという間だから!」
「シャワー、ね。うん、分かった。効率的にやろう」
ふわりと意識が浮かび上がるような、そんな優しい感覚で目が覚めた。見慣れぬ部屋の景色。記憶が一瞬混乱して戸惑うけれど、スウェットのパジャマ越し、背中がぽかぽかと温かくて安心する。
背後から巻きついている腕をそっと持ち上げ、静かに体を回転させると、恋人の寝顔を正面から眺める。普段はあまり見ることもない、瑛士の目をつむった顔。穏やかな寝顔。朝らしく、少し伸びた髭。案の定、髪の毛は寝癖が付いている。
私の、愛する人。
そんな言葉が自然と心に湧いてきて、思わず視線を泳がせてしまった。昨日からの怒涛の展開を思い返すと恥ずかしくなる。ずいぶんと、色んな感情を晒してしまった。そしてその後の、あんなことやそんなこと……。
かぁっと頬が上気して、目を伏せた。でも、心も体も満たされたのは、確かだ。
満足の息をついたら、頭上でくぐもった笑い声が聞こえ、はっとする。いつの間に!
「視線感じて起きたら、彩乃がうつむいたままどんどんと赤くなっていった。ねえ、なに考えていたの?」
「別に……」
あなたとの、そんなことやこんなこと。とは言えずに、視線をそらす。
「っと、おはよう彩乃」
「うん。おはよう」
思い出したように言うから、そのまま素直に挨拶を返した。途端、ベッドの中でぎゅっと抱きしめられ、口付けられる。
「え、瑛士っ」
「朝起きたら腕の中に彩乃がいるって、いいね」
起き抜けの、髭も生えて寝癖もある男の気の抜けた笑顔が、なんでこんなに可愛く見えるのか。これがきっと惚れた弱みというやつなんだ。なんだか私も気が抜けて、へらっと笑ってしまった。手を伸ばし、寝癖を直すように手で梳きながら、瑛士の顔を覗き込む。
「私も瑛士の体温感じて、嬉しかった」
言った途端にぎゅっとされる。いきなりそれは、苦しい! そして、あ……。
「朝の、生理現象?」
下半身にあたる感触に、浮かんだ疑問が口から漏れる。
「それだけじゃないって」
ちょっとむっとした感じで否定された。
「彩乃がここにいるって思ったら、勃ちました。……ねぇ、このまま、いい?」
後半、耳元でささやくのはズルいと思う。うっかり流されそうになるけれど、ちょっと待て。今日は平日だ。
「瑛士、仕事でしょ?」
ベッドの中、抱きしめられたままでわざと難しい顔をして聞いてみる。瑛士の手が私の全身を優しく撫でてくるけれど、これに気を取られてはいけない。
「今、何時?」
「んっ、もう七時」
「あと二時間ある。在宅ワークだから、通勤時間のロスタイム無し」
「あんっ」
つい高い声をあげてしまった。昨夜ですっかり体が瑛士の手を覚えてしまっている。
「けじめ必要! シャワー浴びて、朝ご飯食べて、着替えたら、二時間あっという間だから!」
「シャワー、ね。うん、分かった。効率的にやろう」
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