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その12. 笑顔の種類

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 本当は美晴自身を褒めたかったのに、つい洋服だけを褒めてしまった。心の中で健斗がそう反省するが、それでも美晴の頬がぽっと赤くなる。

「ありがとう。久し振りにワンピース買ったから、褒められると嬉しい」
「そういえば、初めての食事のときにも着てましたよね、花柄の」
「うん。あれ買って以来かな。カジュアルなんだけどちょっとだけかしこまりたい、って時にワンピースは便利なんだよね」
「男にとってのジャケットみたいなものか」
「そうなのかな。でも健斗のその格好もいいよ。上背があって体幹がしっかりしているから、何着ても似合う」

 まさか自分が褒め返されるとは思わず、健斗が耐えきれなくて歩き出す。

「えっと、行きましょうか」
「うん」

 笑いながら、美晴も歩き出した。

 演奏会は健斗にとって思いの外、楽しく聴くことが出来た。アマチュアの発表会なので来る客も演奏者の家族や友達などがほとんどだ。純粋に音楽を聴きに来ている人は少ない。そのせいか、誰でも知っていそうな有名曲を中心にプログラムが構成されていて、飽きずに聴き続けていられた。演奏の良し悪しは健斗には分からないが、楽しく聴けたのだからきっとレベルは高いのだろう。

 すべての曲が演奏され、拍手の中で終幕となった。ホールに出ると今まで演奏していた楽団員達もあらわれて、それぞれに挨拶を交わし始めている。

「私も後輩にお花渡してくるね」
「それじゃあ、ここで待っているんで」
「うん、ありがとう」

 美晴はホールをぐるりと見回すと、相手を見つけたようで小走りに向かっていく。女性二人が声を弾ませ話に夢中になる様を、健斗は遠くからぼんやりと眺めていた。すると後輩が視線に気が付いたようで、健斗を見返しぺこりと頭を下げる。健斗も慌てて頭を下げるが、その後もしばらく立ち話は続き、五分ほどして美晴がようやく戻ってきた。

「ごめんね、待たせてしまって」
「まだ話し足りないとかは?」
「大丈夫。どうせ明日も会社で会うんだし」

 言いながら、会場を後にする。このあとどうするか特に決めてはいなかったので、健斗が美晴にたずねた。

「お茶でもして帰る?」
「うん。その前に、デパート寄ってもいい? 地下の食料品売り場でお菓子買いたくて」
「お菓子」

 飲食好きだが今まで甘味を欲しがったことはない。そんな美晴のリクエストに、つい健斗は繰り返してしまった。

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