騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

騎士団長と媚薬 (一)

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 その日、珍しくもバーナードは仕事が早く終わり、フィリップの屋敷へとやって来ていた。
 生憎とフィリップは仕事上の外出の予定が入っていたため、バーナードは一人、彼の屋敷にいる。

 ここ最近、次第に気候も春めいてきた。
 冬の間、積もった雪を掻き出すために使っていたスコップも、もう玄関先に出しておく必要はなかろうと、バーナードはスコップを持ち上げ、家の中の収納部分に運んだ。もちろん、ちゃんと土をはらい、綺麗に拭いての上である。

 収納庫の奥にそれを運んでいる時、その箱の存在に気が付いた。
 収納庫のサイドにある棚の一番下に置かれていた。
 それは木箱だった。
 掌に載るほどの小さな箱であったが、組紐で結わえられ、なんとなく中には貴重なものが入っているのではないかと思われる様子だった。
 中身はなんだろうと思い、バーナードはその木箱を持つと、居間のテーブルの上に置いた。

 好奇心から、組紐を解く。

 木製の蓋を開けて中身を取り出す。
 それは、白い陶器製の丸い容器であった。金彩が施され、水辺に裸の女神達が水遊びをしている意匠であった。

「……」

 こんな華やかな陶器の容器は、明らかにフィリップの趣味ではない。
 だから仕舞いこんでいたのだろうと思った。

 容器の中身は軽いもののようだった。
 蓋を開けてみると、中には小さな紙に包まれた飴玉がいくつも入っていた。

 大きさは小指の先ほどの小さな飴玉で、一つ一つが綺麗な色紙に包まれているのだ。

 どこか高級感のある飴玉である。


 そして、陶器の容器の横に小さなカードが添えて入っていることに気が付いた。

 カードを見ると、“王立騎士団 騎士一同”とある。

 バーナードは奇妙に思った。

 騎士団のいかつい男達が、なぜ、フィリップへこのような贈り物をしたのか理解できなかった。
 もしや、自分は知らなかったのだが、フィリップは“甘党”なのだろうか。

 それならば、早く教えてくれればよかったのに。
 バーナードは甘党ではないが、フィリップがもし甘党というのならば、出かけた先で、銘菓など買って帰ってくるのもやぶさかではなかった。

 
 彼は飴玉を一つ取り上げると、色紙から取り出した。薄桃色の小さな宝石のような綺麗な飴玉であった。
 彼はそれを無造作に口の中へ放り込んだ。





 それが彼の悲劇のはじまりだった。
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