騎士団長が大変です

曙なつき

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【短編】

騎士団長と南の島 (7)

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おまけ


 王都へ戻ってきたバーナードは、珍しくどこか疲れた様子だった。
 王宮魔術師のマグルが「南の島は楽しくなかったのか」と聞くと、「楽しかったさ」と答えていたけれど、どこか気怠そうな様子である。
 よく見ると、詰襟の下に口づけの痕が見える。
 マグルは内心、口笛を吹いていた。
 彼の妻であるフィリップとは相当楽しんだように見えていた。あの美貌の副騎士団長を組み敷いて散々啼かせたのだろう。
 ……実際、啼かされていたのはバーナード騎士団長の方であったが。



 バーナードはマグルに、紙袋を差し出した。

「南の諸島の土産だ」

「ありがとう」

 マグルは受け取って、早速紙袋を開ける。

 そこには不気味な黒く塗りつぶされた人形が入っていた。

「………………なにこれ」

 マグルがその人形を手に尋ねると、バーナードの解説が始まった。

「南の諸島では大きな災厄が起こるのを避けるために、そうした黒い人形を枕元に飾るらしい。その人形は持ち主の災厄を吸い込むんだ」

「…………前々から思っていたんだけど、バーナード、君のその土産の選定眼はおかしくないか」

 前回のザッハトリア土産も、羊毛で作られた“魔除け”だった。
 羊の人形の木型にぐるぐると羊毛を巻きつけ、小さな鍋やおたまといったミニチュアをくくりつけているものだった。ザッハトリア王国には、悪魔祓いのため、羊にそういった金属の小物をくくりつけ、音を鳴らさせながら家の周囲を走り回らせる風習があった。
 そして今度は災厄を祓う南の諸島の黒い人形である。

「そうか? 前回の土産がミニチュアの羊だったから、今回は人形にしたんだ」

 確かに、その黒い人形をマグルへの土産に買おうとしたところ、フィリップもあまり賛同しかねるといった表情をしていた。
 でも。

「ほら、ちょうどサイズも合っていいだろう」

 そう言って得意げな表情で笑うバーナード。
 前回の羊毛で作られた羊の人形の背に、今回南の諸島で購入した黒い人形を跨がせたのだ。
 確かに、奇妙なほどしっくりと二つの人形は馴染んでいた。

 羊毛の羊人形の背にある、黒い人形。

「………………」

 礼を言うべきか迷うようなそぶりを見せたが、一応、マグルは言った。

「…………ありがとう」

「どういたしまして」

 


 その後、マグルの部屋のその黒い人形を背にした羊毛羊人形が、夜な夜な動き回っているという奇怪な噂が流れたが、その真相は定かではなかった。
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