77 / 560
【短編】
傷病の騎士の、妻たるものの務め (九)
しおりを挟む
第九話 勝負に負けた執事
翌朝、目が覚めた時にはバーナードの姿は既に寝台の傍らになかった。
仕事に行ってしまったのだろう。
フィリップは寝台から起き上がる。
そこでぎょっとしたのは、寝台の傍らの椅子に、執事のセバスが座っており、どこかやつれ果てた彼がじっとフィリップを凝視していたからだ。
彼はテーブルの上の二つの魔道具を指さして、言った。
「これは……マグル副王宮魔術師長からの差し金か」
「…………そうです」
すると、セバスの形相が恐ろしいものに変わった。
それは鬼のようにと言っても良いもので、目は血走り吊り上がり、唇は噛み締められて血が滲んでいた。
あの柔和そうな顔立ちから、一瞬にして変わったのだった。
「あの魔術師のこせがれが!!」
憎々し気に叫び、やがて肩を落とした。
小さな声で言った。
「マグル副王宮魔術師長に伝えてください。……今回はお前の勝ちだと。次回は私が必ず破ってみせると」
「…………どういう意味ですか」
それに、執事のセバスは顔をのろのろと上げて言った。
「ああ、あなたは聞いておらぬのですね。私とマグルは、マグルが魔術の勉強を始めた時から、常に勝負を繰り返して来たんです。あのガキは坊ちゃまの親友と言っていますが、坊ちゃまを悪の道に引きずり込もうとする悪魔の化身です」
「………………」
「坊ちゃまが剣の鍛錬をしていると、いつの間にか現れて街へ連れ出したり、坊ちゃまが勉強をしていても、アレは邪魔をしにきて」
そういえば、マグルとバーナードは幼馴染みだと聞いていた。
ずっと前から、マグルはこの執事のセバス達と戦い続けていたのだ。
「アレは魔術が使えるから、坊ちゃまをいつも魔法を使って連れ回すんです。とんでもないガキです」
目に浮かぶようだ。
マグルが怒り狂うセバスの前から、子供のバーナードを連れて逃げ回る姿が。
きっと彼らは楽しかっただろう。
「こんな怪しげな魔道具をこしらえて、私の邪魔ばかりする。ああ、今回はあいつの勝ちです。私がいくら攻撃魔法をぶつけても、アレの作った結界はびくともしなかった」
その言葉に、フィリップはぎょっとした。
え、主人の眠る寝室に向かって、この執事は攻撃魔法をぶちかましていたの?
え、おかしくないか?
バーナードと致している寝室の外で、そんなことが行われているとは想像だにしなかった。
そしてマグルはマグルで、この“結界魔道具”を渡す時に「最上級の攻撃魔法が頭上で炸裂しても大丈夫なほどの、高強度の結界を生成できる。僕が知る限り、史上最強の強度だ」と誇らしげに述べていたではないか。
ああ、ここにその、最上級の攻撃魔法を頭上に炸裂させようとする執事がいたことを、マグルは知っていたのだ。
「でも、次回は負けません。そう伝えください」
執事セバスは睨みつけるようにフィリップを見つめて、そう告げた。
翌朝、目が覚めた時にはバーナードの姿は既に寝台の傍らになかった。
仕事に行ってしまったのだろう。
フィリップは寝台から起き上がる。
そこでぎょっとしたのは、寝台の傍らの椅子に、執事のセバスが座っており、どこかやつれ果てた彼がじっとフィリップを凝視していたからだ。
彼はテーブルの上の二つの魔道具を指さして、言った。
「これは……マグル副王宮魔術師長からの差し金か」
「…………そうです」
すると、セバスの形相が恐ろしいものに変わった。
それは鬼のようにと言っても良いもので、目は血走り吊り上がり、唇は噛み締められて血が滲んでいた。
あの柔和そうな顔立ちから、一瞬にして変わったのだった。
「あの魔術師のこせがれが!!」
憎々し気に叫び、やがて肩を落とした。
小さな声で言った。
「マグル副王宮魔術師長に伝えてください。……今回はお前の勝ちだと。次回は私が必ず破ってみせると」
「…………どういう意味ですか」
それに、執事のセバスは顔をのろのろと上げて言った。
「ああ、あなたは聞いておらぬのですね。私とマグルは、マグルが魔術の勉強を始めた時から、常に勝負を繰り返して来たんです。あのガキは坊ちゃまの親友と言っていますが、坊ちゃまを悪の道に引きずり込もうとする悪魔の化身です」
「………………」
「坊ちゃまが剣の鍛錬をしていると、いつの間にか現れて街へ連れ出したり、坊ちゃまが勉強をしていても、アレは邪魔をしにきて」
そういえば、マグルとバーナードは幼馴染みだと聞いていた。
ずっと前から、マグルはこの執事のセバス達と戦い続けていたのだ。
「アレは魔術が使えるから、坊ちゃまをいつも魔法を使って連れ回すんです。とんでもないガキです」
目に浮かぶようだ。
マグルが怒り狂うセバスの前から、子供のバーナードを連れて逃げ回る姿が。
きっと彼らは楽しかっただろう。
「こんな怪しげな魔道具をこしらえて、私の邪魔ばかりする。ああ、今回はあいつの勝ちです。私がいくら攻撃魔法をぶつけても、アレの作った結界はびくともしなかった」
その言葉に、フィリップはぎょっとした。
え、主人の眠る寝室に向かって、この執事は攻撃魔法をぶちかましていたの?
え、おかしくないか?
バーナードと致している寝室の外で、そんなことが行われているとは想像だにしなかった。
そしてマグルはマグルで、この“結界魔道具”を渡す時に「最上級の攻撃魔法が頭上で炸裂しても大丈夫なほどの、高強度の結界を生成できる。僕が知る限り、史上最強の強度だ」と誇らしげに述べていたではないか。
ああ、ここにその、最上級の攻撃魔法を頭上に炸裂させようとする執事がいたことを、マグルは知っていたのだ。
「でも、次回は負けません。そう伝えください」
執事セバスは睨みつけるようにフィリップを見つめて、そう告げた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,100
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる