170 / 560
【短編】
古代魔術師の持つ本 (5)
しおりを挟む
第五話 王宮副魔術師長との話し合い
「ダメじゃん」
相談がてら、フィリップは王宮副魔術師長でバーナードの親友マグルの許へ足を運んだ。
日中、バーナードは“封印の指輪”をはめているが、夜にはそれをはめていないと聞いた時の、マグルの第一声がそれだった。
「そう……ですよね」
「うん。ダメだよ。むしろ、夜にこそつけておかないとダメだと思う。だって夜は“夢を渡る”かも知れないじゃん。もしそこを魔族に見つかったら、一発でダメだと思うぞ」
「私は何度もそう言っているんです。私の屋敷にいる時は、私がしつこく言うので、渋々と指輪をはめて下さるのですが、団長は自分の屋敷に帰っている時はそうしていないと思います」
「……どうしてバーナードは指輪をはめないのかな」
「おそらくですが、エドワード王太子の御為かと」
「………………え? どうしてそこに殿下のお名前が出てくるの?」
マグルが首を傾げる。
それで、フィリップは説明を始めた。
「どうも団長は、殿下に“淫夢”を見せることについてお約束をしているようです。セーラ妃の妊娠中もその夢で、殿下の欲を発散させていました」
「ああ、だから殿下はここ最近、ずっと安定していらっしゃるのか」
ハーフサキュバスの少年が亡くなった後、また魔力暴走を起こすのではないかと、侍従達も危惧していたが、殿下は落ち着いて生活している。
その“淫夢”の素晴らしさを知っているフィリップは、王太子がそれにハマっているであろうことも予想できていた。
「だから団長は、夜、指輪をはめないんだと思います」
「……………困ったな」
バーナードが、殿下の頼みを断れない理由もわかる。王太子の心身の安定のためには、“淫夢”を見せるのが良い。実際、殿下は落ち着いて生活できている。かつてその身を拓いて伽までした王太子である。望まれれば、応えるのがバーナードだった。
それに対して、殿下は竜剣ヴァンドライデンを貸し与えるなどしていた。互いが互いを補うような関係に至っている。
「ただバーナードの言う、たくさんの人間の中から“淫魔の王女”を探し出すなど難しいという話もわかるな。未だにバーナードが淫魔だということは周りにバレていない。フィリップが満たしているから、飢えて人間を襲うこともないし。普通の人間として働くことができている」
「…………“淫魔の王女の加護”を受けた頃から団長は物凄く強かったですけどね。あの、国際会議の時も、相手の騎士団長を瞬殺でした」
決闘では相手を一瞬で斬りつけ、恐怖の余りに相手の戦意を喪失させていた。
“剣豪”の称号を持ち、魔獣達も易々と倒す彼は、ある意味、人間の中においては頂点にいる、飛び抜けて強い騎士だった。
「強いということだけが目立っているから、まさかあんなにも強い騎士が“淫魔”だなんて思われもしないか。ある意味、カモフラージュされているんだな」
「そうですね。まず、団長が淫魔だなんて思う人間は一人もいないと思います。……殿下を除いて」
「殿下は気づいているのか」
「団長が“淫夢”を見せたり、殿下の許へ夢を渡って行っていたりしますからね。加護でそうしたことができるわけではないので、薄々勘づいておられるのではないでしょうか」
「え……えぇぇ、殿下の許に夢の中、渡っているの? バーナード、大丈夫なの?」
かつて、伽をしてその身を許したことのあるバーナードである。王太子のその彼への執着を、マグルも垣間見たことがあったのだ。
「今のところ、何事もないようです。夢の中で仕事の話をしているとか」
「…………あいつ、何やってんだ、もう」
マグルはフーとため息をついた。
「…………とりあえず、バーナードにはこう言っておけ。知らない人間の夢の中にはもう渡るなと。そうしないと、何か起きた時に、取り返しがつかないぞ」
「はい」
バーナードは、自分の身の価値について、軽んじているところがあった。
自身をあくまで王立騎士団の騎士、王家に仕える者だとみなしているせいだろう。
価値は、剣の強さにしか重きを置いていない。
それゆえ、“淫魔の王女”位についての自分の価値を見ようとしない。
誰が騎士の男である自分を求めるであろうかとまで考えているのだ。
だから、彼はエドワード王太子が未だに自分を求めていることにも目を逸らしている。
王太子の想いを信じないでいてくれることは、フィリップにとって有難かった。
けれど、それは“諸刃の剣”でもあった。
その価値を信じない彼は、その価値を求める者達をも見ないようにしていて、それ故にいつか酷い目に遭うのではないかと、フィリップは懸念していた。
「ダメじゃん」
相談がてら、フィリップは王宮副魔術師長でバーナードの親友マグルの許へ足を運んだ。
日中、バーナードは“封印の指輪”をはめているが、夜にはそれをはめていないと聞いた時の、マグルの第一声がそれだった。
「そう……ですよね」
「うん。ダメだよ。むしろ、夜にこそつけておかないとダメだと思う。だって夜は“夢を渡る”かも知れないじゃん。もしそこを魔族に見つかったら、一発でダメだと思うぞ」
「私は何度もそう言っているんです。私の屋敷にいる時は、私がしつこく言うので、渋々と指輪をはめて下さるのですが、団長は自分の屋敷に帰っている時はそうしていないと思います」
「……どうしてバーナードは指輪をはめないのかな」
「おそらくですが、エドワード王太子の御為かと」
「………………え? どうしてそこに殿下のお名前が出てくるの?」
マグルが首を傾げる。
それで、フィリップは説明を始めた。
「どうも団長は、殿下に“淫夢”を見せることについてお約束をしているようです。セーラ妃の妊娠中もその夢で、殿下の欲を発散させていました」
「ああ、だから殿下はここ最近、ずっと安定していらっしゃるのか」
ハーフサキュバスの少年が亡くなった後、また魔力暴走を起こすのではないかと、侍従達も危惧していたが、殿下は落ち着いて生活している。
その“淫夢”の素晴らしさを知っているフィリップは、王太子がそれにハマっているであろうことも予想できていた。
「だから団長は、夜、指輪をはめないんだと思います」
「……………困ったな」
バーナードが、殿下の頼みを断れない理由もわかる。王太子の心身の安定のためには、“淫夢”を見せるのが良い。実際、殿下は落ち着いて生活できている。かつてその身を拓いて伽までした王太子である。望まれれば、応えるのがバーナードだった。
それに対して、殿下は竜剣ヴァンドライデンを貸し与えるなどしていた。互いが互いを補うような関係に至っている。
「ただバーナードの言う、たくさんの人間の中から“淫魔の王女”を探し出すなど難しいという話もわかるな。未だにバーナードが淫魔だということは周りにバレていない。フィリップが満たしているから、飢えて人間を襲うこともないし。普通の人間として働くことができている」
「…………“淫魔の王女の加護”を受けた頃から団長は物凄く強かったですけどね。あの、国際会議の時も、相手の騎士団長を瞬殺でした」
決闘では相手を一瞬で斬りつけ、恐怖の余りに相手の戦意を喪失させていた。
“剣豪”の称号を持ち、魔獣達も易々と倒す彼は、ある意味、人間の中においては頂点にいる、飛び抜けて強い騎士だった。
「強いということだけが目立っているから、まさかあんなにも強い騎士が“淫魔”だなんて思われもしないか。ある意味、カモフラージュされているんだな」
「そうですね。まず、団長が淫魔だなんて思う人間は一人もいないと思います。……殿下を除いて」
「殿下は気づいているのか」
「団長が“淫夢”を見せたり、殿下の許へ夢を渡って行っていたりしますからね。加護でそうしたことができるわけではないので、薄々勘づいておられるのではないでしょうか」
「え……えぇぇ、殿下の許に夢の中、渡っているの? バーナード、大丈夫なの?」
かつて、伽をしてその身を許したことのあるバーナードである。王太子のその彼への執着を、マグルも垣間見たことがあったのだ。
「今のところ、何事もないようです。夢の中で仕事の話をしているとか」
「…………あいつ、何やってんだ、もう」
マグルはフーとため息をついた。
「…………とりあえず、バーナードにはこう言っておけ。知らない人間の夢の中にはもう渡るなと。そうしないと、何か起きた時に、取り返しがつかないぞ」
「はい」
バーナードは、自分の身の価値について、軽んじているところがあった。
自身をあくまで王立騎士団の騎士、王家に仕える者だとみなしているせいだろう。
価値は、剣の強さにしか重きを置いていない。
それゆえ、“淫魔の王女”位についての自分の価値を見ようとしない。
誰が騎士の男である自分を求めるであろうかとまで考えているのだ。
だから、彼はエドワード王太子が未だに自分を求めていることにも目を逸らしている。
王太子の想いを信じないでいてくれることは、フィリップにとって有難かった。
けれど、それは“諸刃の剣”でもあった。
その価値を信じない彼は、その価値を求める者達をも見ないようにしていて、それ故にいつか酷い目に遭うのではないかと、フィリップは懸念していた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,100
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる