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第十三章 失われたものを取り戻すために
第十七話 話し合い
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三日後、アルバート王子とルーシェは、再度カルフィーの屋敷を訪ねたのだった。
今回は、カルフィーからきちんと話が通されていたのだろう。屋敷の前で門前払いされることなく、門をくぐらされ、これまた立派な大邸宅に招かれ、応接室の中へと案内される。
今回も幼い子供の姿をしているルーシェは、アルバート王子のそばに座っている。
緊張で強張った顔をしていた。
三日間、宿の中でルーシェとアルバート王子は話し合っていた。
三橋友親は、屋敷の地下の水場で、カルフィー魔術師とケイオスの手によって、“人ではないもの”に変えられたのだろうと二人は結論付けていた。
カルフィー魔術師とケイオスは、ルーシェ達の前でこう言っていたからだ。
『人じゃないものになることを嫌がっていたけれど、ようやくあいつも覚悟を決めたんだ』
そして、水の中で目を覚ました友親の両眼は、血のように真っ赤で、肌も白くなっていた。異様な様子だった。最後に見た友親の姿は、自分を抱き締めるケイオスの首筋に、鋭い歯を突き立てたそれだった。
「吸血鬼にさせられたのだろう」
アルバート王子はそう言った。
魔族の中には、血を好む魔族がおり、それは人を仲間にする能力があった。
カルフィー魔術師とケイオスも、人ではない混じり合ったものだという噂を聞いたことがあった。伴侶が人間なら、当然、魔族に迎えたいと望むだろう。弱すぎる人間ならなおもそう望むはずだ。
「…………」
もう、転換は済んでいるとカルフィー魔術師は言っていた。
だから、友親は人間ではないものに変わってしまっている。
そのことに酷くショックを受けているルーシェの頭に、アルバート王子は手をやり、優しく撫でてやりながら言った。
「お前は、トモチカ殿が人間じゃなくなったとしたら、友人であることをやめるのか」
その言葉に、ルーシェはふるふると頭を強く振った。
「やめない!!」
「そうだろう。魔族になったとしても、トモチカ殿は、お前の大切な友人のままだ」
「……うん」
それから、アルバート王子はぽんとルーシェの頭を軽く叩いた。
「大体、お前だって人間じゃないだろう。竜じゃないか」
その言葉に、ルーシェは、はたとその事に気が付いたように目を丸くして、それからなんとも言えぬ表情で笑った。王子の胸に飛びこむようにして抱きつく。
「うん。そうだった。俺だって人間じゃないんだった」
でも友親は、この世界で再会した、竜であるルーシェの親友でいてくれた。
だから友親が、例え人間ではなくなったとしても、ルーシェは彼の友でありたいと願った。
それでも、人ではないものに変わってしまった三橋友親と、再度改めて会うこの場は緊張する。
アルバート王子の隣に座るルーシェは緊張いっぱいの表情で、膝の上に拳を置いて座っていた。
やがて、応接室の扉が開いた。
先頭に立って大股で入って来たのは、ガッシリとした大柄な男、友親の護衛を務める伴侶のケイオスだ。
そしてケイオスの後ろにカルフィー魔術師が続き、最後に杖をつき、足を引きずりながら友親が入って来た。
ルーシェは、友親の姿を食い入るように見つめた。
足を引きずっているところを見ると、その身が吸血鬼になった後でも、足の傷は癒されなかったようだ。
地下の水場で見た時、友親の肌の色は血の気を失ったように真っ白で、唇も色を失っていた。両眼も真っ赤であった。だが、今目の前にいる友親の顔色は普通のものに戻っている。唇も赤く、その瞳も茶色である。以前と同じ姿形をしていたが、雰囲気がガラリと違っていた。
以前の友親は凡庸だった。現世から異世界へやって来たものの常で、その顔立ちも薄く、異国めいたものだった。今も、この世界の人間達よりも小柄で薄い顔立ちは変わらない。
しかし、今の友親には妙な迫力があり、色気もあった。
優しい色合いの茶色の瞳は変わらないはずなのに、目が離せない。その瞳の奥底に、窺い知れない何かが渦巻いていた。
「友親」
ルーシェが立ち上がって、その名を呼ぶと、友親は眉を寄せて「なんか、変なところを見られちゃったな……」と困ったような表情で笑って言った。
あの水場で、地下の冷たい水の中に浸って横たわっていた友親と、目の前の友親の姿が一致しない。真っ赤な両眼を開けて、ケイオスの首筋に歯を突き立てていた友親の姿が、夢の中の出来事だったのではないかと思うほどだった。
でも、友親は「変なところを見られた」と言うことで、人間から吸血鬼への転換があの場所で行われていたことを、自覚しているようだ。
友親は両脇を、ケイオスとカルフィーに挟まれるようにして、長椅子に座った。
ルーシェは、恐る恐る、友親に尋ねた。
「その、お前……人間じゃなくなったという話を聞いたんだけど」
「ああ。吸血鬼になった。カルフィーがそうだったんだ。こいつは純血の吸血鬼じゃないんだけど、それなりに力がある吸血鬼で、俺を吸血鬼にしたんだ」
あっけらかんと友親は答える。
今更、ルーシェに隠すつもりはないようだ。
カルフィーは迷惑そうにため息をついている。
「お前達がああして邪魔をしたので、友親は途中で起きないといけなかったんだ。勝手にあそこまで入ってくるなど、迷惑もいいところだ!!」
「……」
その言い様に、ルーシェはカチンと来て言い返したかったが、悔しそうな顔をして黙り込んでいる。だが、膝の上でぐっと小さな拳を握り締めていた。
この場に友親がいなければ、カルフィーに対して「お前はなんてことを友親にしてくれたんだ!!」と喚き散らしたいところだった。
友親はカルフィーを睨みつけた。
「黙れ、カルフィー」
「だって、本当に迷惑しただろう。お前の足だって本当はあの後治して」
「黙れと言っている、カルフィー」
瞬間、部屋の空気に圧が加えられたように、濃密になり、息苦しくなる。
カルフィーはパクパクと口を開く。友親の茶色の瞳が、一瞬赤く光る。慌てて、ケイオスが友親に声を掛けた。
「トモチカ、止めろ。カルフィーが苦しそうだ」
「……いいか、カルフィー。ユキに無礼な口を利くな」
そう言って強い視線でカルフィーを睨みつける友親を見て、内心、アルバート王子は考え込んでいた。
人間から吸血鬼に転換した友親は、随分と力を持ったように見える。今まで友親よりも上位の立場にあったカルフィーを凌駕しているようだ。一睨みで、カルフィーは抑えつけられている。
それは随分とおかしなことだと、アルバート王子は思っていた。
少し吸血鬼のことを調べたが、普通、吸血鬼にされた者は、吸血鬼にした者(親吸血鬼)に支配されることが多い。この場合、親吸血鬼はカルフィーのはずで、友親はその支配下にあるはずだ。カルフィーの命令に友親は逆らえないはず。なのに、二人の関係を見たところ、それが逆に働いている。友親の方が、カルフィーよりも強いように見える。
カルフィーは無言で頷き、黙りこんだ。
ケイオスが、落ち着くように友親の手を握ると、友親は再度ため息をついて頷いていた。
ルーシェは小さな声で謝った。
「いつも、なんかタイミングが悪くてごめんな」
「いや、いいんだ。ユキ」
友親はルーシェを見つめ、優しく笑いかける。
「俺にお前がわざわざこうして会いに来るなんて、何か大事な用件があったのだろう」
「うん」
三橋友親は前世の頃からそうだった。親友の沢谷雪也に優しい。
今も優しいのだ。そこは変わっていなかった。
だから、ルーシェはポツリポツリと、母国ラウデシア王国へサトー王国が攻撃して来た話を告げたのだ。
自分達が西方三か国を軍務で巡っている間に、ラウデシア王国の王都に“星弾”が撃ち込まれ、それは黄金竜マルキアスの守護で守られたこと。だけど、黄金竜マルキアスの眠る北方の大森林地帯を、竜騎兵団もろともサトー王国が“消失”させた話をすると、友親は頭を両手で抱えていた。
「……佐藤優斗。あいつは本当に、強引すぎる」
「ああ」
「それで、“消失”状態を解消するために、“魔素”が使える俺と委員長の助けが必要なわけか」
「そうなんだよ。友親、助けてくれないか!!」
「分かった。お前と一緒に行こう」
友親は即断である。
親友の沢谷雪也が困っているのである。助けるのは当然であった。
それに慌てたのがカルフィーとケイオスの二人であった。
「待て、トモチカ。そんな簡単に決めることじゃない。サトー王国と敵対することになるんたぞ」
そうケイオスが言うと、友親は「今更それを言うのか」とケイオスに言い返す。
カルフィーも首を振っている。
「今は戦時だ。こいつらを手伝うって、それはラウデシア王国へお前が行くということだろう? トモチカ、お前がこの国を出て行くのは危険だ。ここに留まっていた方がいい」
大きな邸宅もあり、守るための私兵もたくさんいる。
ここへ留まっている限り、友親の守りを固めることが出来る。
だが、友親は首を振った。
「佐藤優斗の最終目標は大陸全土の制覇だ。この場所にもそのうち攻めてくるぞ」
「その時は逃げればいい。トモチカ、お前は魔族になったんだ。あちらへ渡ればいいんだ」
あちら、魔の領域のことを言っているのだろう。
この大陸全土にサトー王国が侵略の手を伸ばしたとしても、この世界から逃げることが出来るとカルフィーは言っているのだ。
「俺はユキと一緒に戦う。もういい加減、逃げるのは止めないといけない。俺達は、佐藤に引導を渡すべきなんだ」
そのキッパリとした友親の物言いに、部屋の中の者達は言葉を失う。
「佐藤は止めないといけない。……これも今更だけどな。でも、委員長もユキも、俺もいる」
友親は手を一度開いて、それからそれを握り締めた。
「異世界へ転移してきた者がみんな揃うんだ。きっと、佐藤を止められるはずだ。そうだろう、ユキ」
そう友親に見つめられたルーシェは、頬を紅潮させて何度も頷いた。
「うん。それに、俺の王子もいるんだ!! 絶対にやれるよ!!」
それからルーシェは、アルバート王子が“勇者の剣”を手に入れた話を友親に話したのだ。
その話を聞いた友親は、アルバート王子の顔を、しばらくの間、黙り込んで、じっと見つめ続けていた。
何故か、納得したような様子でポツリとこう言ったのだ。
「ああ、鈴木もいるのか」と。
今回は、カルフィーからきちんと話が通されていたのだろう。屋敷の前で門前払いされることなく、門をくぐらされ、これまた立派な大邸宅に招かれ、応接室の中へと案内される。
今回も幼い子供の姿をしているルーシェは、アルバート王子のそばに座っている。
緊張で強張った顔をしていた。
三日間、宿の中でルーシェとアルバート王子は話し合っていた。
三橋友親は、屋敷の地下の水場で、カルフィー魔術師とケイオスの手によって、“人ではないもの”に変えられたのだろうと二人は結論付けていた。
カルフィー魔術師とケイオスは、ルーシェ達の前でこう言っていたからだ。
『人じゃないものになることを嫌がっていたけれど、ようやくあいつも覚悟を決めたんだ』
そして、水の中で目を覚ました友親の両眼は、血のように真っ赤で、肌も白くなっていた。異様な様子だった。最後に見た友親の姿は、自分を抱き締めるケイオスの首筋に、鋭い歯を突き立てたそれだった。
「吸血鬼にさせられたのだろう」
アルバート王子はそう言った。
魔族の中には、血を好む魔族がおり、それは人を仲間にする能力があった。
カルフィー魔術師とケイオスも、人ではない混じり合ったものだという噂を聞いたことがあった。伴侶が人間なら、当然、魔族に迎えたいと望むだろう。弱すぎる人間ならなおもそう望むはずだ。
「…………」
もう、転換は済んでいるとカルフィー魔術師は言っていた。
だから、友親は人間ではないものに変わってしまっている。
そのことに酷くショックを受けているルーシェの頭に、アルバート王子は手をやり、優しく撫でてやりながら言った。
「お前は、トモチカ殿が人間じゃなくなったとしたら、友人であることをやめるのか」
その言葉に、ルーシェはふるふると頭を強く振った。
「やめない!!」
「そうだろう。魔族になったとしても、トモチカ殿は、お前の大切な友人のままだ」
「……うん」
それから、アルバート王子はぽんとルーシェの頭を軽く叩いた。
「大体、お前だって人間じゃないだろう。竜じゃないか」
その言葉に、ルーシェは、はたとその事に気が付いたように目を丸くして、それからなんとも言えぬ表情で笑った。王子の胸に飛びこむようにして抱きつく。
「うん。そうだった。俺だって人間じゃないんだった」
でも友親は、この世界で再会した、竜であるルーシェの親友でいてくれた。
だから友親が、例え人間ではなくなったとしても、ルーシェは彼の友でありたいと願った。
それでも、人ではないものに変わってしまった三橋友親と、再度改めて会うこの場は緊張する。
アルバート王子の隣に座るルーシェは緊張いっぱいの表情で、膝の上に拳を置いて座っていた。
やがて、応接室の扉が開いた。
先頭に立って大股で入って来たのは、ガッシリとした大柄な男、友親の護衛を務める伴侶のケイオスだ。
そしてケイオスの後ろにカルフィー魔術師が続き、最後に杖をつき、足を引きずりながら友親が入って来た。
ルーシェは、友親の姿を食い入るように見つめた。
足を引きずっているところを見ると、その身が吸血鬼になった後でも、足の傷は癒されなかったようだ。
地下の水場で見た時、友親の肌の色は血の気を失ったように真っ白で、唇も色を失っていた。両眼も真っ赤であった。だが、今目の前にいる友親の顔色は普通のものに戻っている。唇も赤く、その瞳も茶色である。以前と同じ姿形をしていたが、雰囲気がガラリと違っていた。
以前の友親は凡庸だった。現世から異世界へやって来たものの常で、その顔立ちも薄く、異国めいたものだった。今も、この世界の人間達よりも小柄で薄い顔立ちは変わらない。
しかし、今の友親には妙な迫力があり、色気もあった。
優しい色合いの茶色の瞳は変わらないはずなのに、目が離せない。その瞳の奥底に、窺い知れない何かが渦巻いていた。
「友親」
ルーシェが立ち上がって、その名を呼ぶと、友親は眉を寄せて「なんか、変なところを見られちゃったな……」と困ったような表情で笑って言った。
あの水場で、地下の冷たい水の中に浸って横たわっていた友親と、目の前の友親の姿が一致しない。真っ赤な両眼を開けて、ケイオスの首筋に歯を突き立てていた友親の姿が、夢の中の出来事だったのではないかと思うほどだった。
でも、友親は「変なところを見られた」と言うことで、人間から吸血鬼への転換があの場所で行われていたことを、自覚しているようだ。
友親は両脇を、ケイオスとカルフィーに挟まれるようにして、長椅子に座った。
ルーシェは、恐る恐る、友親に尋ねた。
「その、お前……人間じゃなくなったという話を聞いたんだけど」
「ああ。吸血鬼になった。カルフィーがそうだったんだ。こいつは純血の吸血鬼じゃないんだけど、それなりに力がある吸血鬼で、俺を吸血鬼にしたんだ」
あっけらかんと友親は答える。
今更、ルーシェに隠すつもりはないようだ。
カルフィーは迷惑そうにため息をついている。
「お前達がああして邪魔をしたので、友親は途中で起きないといけなかったんだ。勝手にあそこまで入ってくるなど、迷惑もいいところだ!!」
「……」
その言い様に、ルーシェはカチンと来て言い返したかったが、悔しそうな顔をして黙り込んでいる。だが、膝の上でぐっと小さな拳を握り締めていた。
この場に友親がいなければ、カルフィーに対して「お前はなんてことを友親にしてくれたんだ!!」と喚き散らしたいところだった。
友親はカルフィーを睨みつけた。
「黙れ、カルフィー」
「だって、本当に迷惑しただろう。お前の足だって本当はあの後治して」
「黙れと言っている、カルフィー」
瞬間、部屋の空気に圧が加えられたように、濃密になり、息苦しくなる。
カルフィーはパクパクと口を開く。友親の茶色の瞳が、一瞬赤く光る。慌てて、ケイオスが友親に声を掛けた。
「トモチカ、止めろ。カルフィーが苦しそうだ」
「……いいか、カルフィー。ユキに無礼な口を利くな」
そう言って強い視線でカルフィーを睨みつける友親を見て、内心、アルバート王子は考え込んでいた。
人間から吸血鬼に転換した友親は、随分と力を持ったように見える。今まで友親よりも上位の立場にあったカルフィーを凌駕しているようだ。一睨みで、カルフィーは抑えつけられている。
それは随分とおかしなことだと、アルバート王子は思っていた。
少し吸血鬼のことを調べたが、普通、吸血鬼にされた者は、吸血鬼にした者(親吸血鬼)に支配されることが多い。この場合、親吸血鬼はカルフィーのはずで、友親はその支配下にあるはずだ。カルフィーの命令に友親は逆らえないはず。なのに、二人の関係を見たところ、それが逆に働いている。友親の方が、カルフィーよりも強いように見える。
カルフィーは無言で頷き、黙りこんだ。
ケイオスが、落ち着くように友親の手を握ると、友親は再度ため息をついて頷いていた。
ルーシェは小さな声で謝った。
「いつも、なんかタイミングが悪くてごめんな」
「いや、いいんだ。ユキ」
友親はルーシェを見つめ、優しく笑いかける。
「俺にお前がわざわざこうして会いに来るなんて、何か大事な用件があったのだろう」
「うん」
三橋友親は前世の頃からそうだった。親友の沢谷雪也に優しい。
今も優しいのだ。そこは変わっていなかった。
だから、ルーシェはポツリポツリと、母国ラウデシア王国へサトー王国が攻撃して来た話を告げたのだ。
自分達が西方三か国を軍務で巡っている間に、ラウデシア王国の王都に“星弾”が撃ち込まれ、それは黄金竜マルキアスの守護で守られたこと。だけど、黄金竜マルキアスの眠る北方の大森林地帯を、竜騎兵団もろともサトー王国が“消失”させた話をすると、友親は頭を両手で抱えていた。
「……佐藤優斗。あいつは本当に、強引すぎる」
「ああ」
「それで、“消失”状態を解消するために、“魔素”が使える俺と委員長の助けが必要なわけか」
「そうなんだよ。友親、助けてくれないか!!」
「分かった。お前と一緒に行こう」
友親は即断である。
親友の沢谷雪也が困っているのである。助けるのは当然であった。
それに慌てたのがカルフィーとケイオスの二人であった。
「待て、トモチカ。そんな簡単に決めることじゃない。サトー王国と敵対することになるんたぞ」
そうケイオスが言うと、友親は「今更それを言うのか」とケイオスに言い返す。
カルフィーも首を振っている。
「今は戦時だ。こいつらを手伝うって、それはラウデシア王国へお前が行くということだろう? トモチカ、お前がこの国を出て行くのは危険だ。ここに留まっていた方がいい」
大きな邸宅もあり、守るための私兵もたくさんいる。
ここへ留まっている限り、友親の守りを固めることが出来る。
だが、友親は首を振った。
「佐藤優斗の最終目標は大陸全土の制覇だ。この場所にもそのうち攻めてくるぞ」
「その時は逃げればいい。トモチカ、お前は魔族になったんだ。あちらへ渡ればいいんだ」
あちら、魔の領域のことを言っているのだろう。
この大陸全土にサトー王国が侵略の手を伸ばしたとしても、この世界から逃げることが出来るとカルフィーは言っているのだ。
「俺はユキと一緒に戦う。もういい加減、逃げるのは止めないといけない。俺達は、佐藤に引導を渡すべきなんだ」
そのキッパリとした友親の物言いに、部屋の中の者達は言葉を失う。
「佐藤は止めないといけない。……これも今更だけどな。でも、委員長もユキも、俺もいる」
友親は手を一度開いて、それからそれを握り締めた。
「異世界へ転移してきた者がみんな揃うんだ。きっと、佐藤を止められるはずだ。そうだろう、ユキ」
そう友親に見つめられたルーシェは、頬を紅潮させて何度も頷いた。
「うん。それに、俺の王子もいるんだ!! 絶対にやれるよ!!」
それからルーシェは、アルバート王子が“勇者の剣”を手に入れた話を友親に話したのだ。
その話を聞いた友親は、アルバート王子の顔を、しばらくの間、黙り込んで、じっと見つめ続けていた。
何故か、納得したような様子でポツリとこう言ったのだ。
「ああ、鈴木もいるのか」と。
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