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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第七章 新たなる黄金竜の誕生
第八話 孵化
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シルヴェスター王子とユーリスの卵が孵化したのは、ユーリスが卵を産んでから三月ほど経った頃だった。
黄金竜ウェイズリーは「黄金竜の卵は特別なので、雛竜は好きなタイミングで卵から出てくる」と言っていた。その回答の適当ぶりにユーリスは内心呆れていたが、考えてみれば、黄金竜ウェイズリーが卵から孵る時にも、ユーリスは「待て」と卵の中のウェイズリーに頼んで、孵化を待たせたこともあったと思い出して苦笑いをした。万事に最初から適当な黄金竜だった。
そして夕方、ユーリスが城の自室に戻り、シルヴェスター王子が騎士団から戻ったところで、ユーリスの胸元の卵がブルリと震えたかと思うと、ピシピシと大きなヒビが卵の表面に走り、そのヒビに向けて中の雛がクチバシで突っつき始めた。
ヒビが広がり、卵が割れ始める。
「ヴィー、卵から雛が出てくる!!」
ユーリスが胸元から慌てて卵を取り出す。
真っ白い卵に入ったヒビからの割れ目が大きくなり、割れ目から金色のクチバシが見える。
やがて、その割れ目から急ぐように小さな竜の雛が頭を突っ込み、バリンとその上体を卵から突き出した。白い欠片が飛び散る。同時に、「キュイキュイキュルルルルルルルルルゥゥ」と甘えるような声を上げた後、小さな小さな黄金竜の雛は、飛び上がり、自身の親であるユーリスの胸元にぺったりと張り付いていたのだった。
すりすりと小さな頭をすり寄せる黄金竜の小さな雛。
開いたその両眼は、キラキラと黄金色に輝いている。鱗の一枚一枚も、眩しいほどの黄金色である。
人間のユーリスとの間に生まれた卵からも、黄金竜が生まれたのだ。
「可愛いな」
ユーリスは目を細め、両手でそっと小さな竜の体を抱きしめる。産まれたばかりの小さな竜の雛である。そっと大切に触らないと壊れてしまいそうな気がした。
「キュルキュルゥゥ」
「ああ、可愛い」
シルヴェスターも目の前の竜の赤ん坊を可愛いとは思うが、幾ら可愛いと思っても、それは小さな竜の姿をしているのである。自分にもユーリスにも似たところは見えなかった。成長して人の姿を取ることが出来るようになれば、親である自分達に似たところも出てくるのかも知れないと思うしかなかった。
シルヴェスターの中の、黄金竜ウェイズリーが「代われ」と言ったので、瞬時、シルヴェスター王子の姿が黄金竜ウェイズリーに変わった。
ユーリスは、胸元に小さな黄金竜の雛を抱いたまま、黄金竜ウェイズリーに目をやり、そして胸元の黄金竜の雛に向かって言った。
「ほら、お父さんが、君に会いに来たよ」
お父さんといっても、黄金竜ウェイズリーも今は手乗り雛サイズである。ウェイズリーはユーリスの膝の上に飛んでくると、大きく胸を反らし、威厳を見せるようにして言った。
「キュルキュルルルキューキュー(我が子よ、ようやく産まれたのか)」
その偉ぶった様子が、可愛いやらおかしいやらで、ユーリスは吹き出しそうになる。精一杯威厳を見せようとウェイズリーが背伸びしているのが分かるのだ。
それに対して、ユーリスの胸元にいる小さな小さな黄金竜の雛は、ジロリと黄金竜ウェイズリーを一瞥した後、興味なさげに顔を背け、ユーリスの胸元にしがみついて「キュルルキューキュー」と甘えて鳴くのだ。
威厳も形無しとなった(むしろ無視されている?)ウェイズリーは、ユーリスの膝の上で尻尾をビタンビタンとユーリスの膝にぶつけて不満を表していた。
「キュルキュルルルキュイキュイィィィ!!(なんだこいつは。私はこいつの親なんだぞ!!)」
「ちょっ、ウェイズリー、私の膝に尻尾をぶつけないでくれ」
「キュルキュルキュッキュッ!!(親に対する態度がなっていないだろう!!)」
「そんなことを言っても、まだ生まれたばかりなんだよ、ウェイズリー」
「キュッ」
黄金竜ウェイズリーはぷっくりと頬を膨らませた後、両手を上にあげた。
ユーリスの膝の上で、しばらくの間、両手を上げて立っているウェイズリーの姿を見て、ユーリスは首を傾げる。
「どうしたのかい、ウェイズリー」
「キュルキュルルルキューキュイキュルル(そいつばかり抱っこするな。私をいつものように抱っこしろ)」
そんなウェイズリーに、ユーリスは呆れた眼差しを向けてため息をついた。
「ウェイズリー。今はこの子を抱いているから無理だよ。それに、君は親になったのだから、もう抱っことかせがまなくても」
「キュルキュルキュルキュルキュルルルルルルル!!!!!!」
ビタンビタンとまたユーリスの膝に、自分の尻尾を激しく打ち付けた後、ウェイズリーは飛び上がってユーリスの胸元に張り付く。それに負けじと生まれたばかりのもう一頭の小さな黄金竜の雛もユーリスの胸元にしがみつく。
ユーリスの胸元で、かしましく鳴き喚く二頭の黄金竜の雛達。
ユーリスは、ひどく頭が痛くなっていた。
それから、生まれたばかりの黄金竜の雛と、黄金竜ウェイズリーは常にユーリスの温かくて気持ちの良い安心の出来る大好きな胸元の場所を巡り、激しく争うようになる。
そして大抵の場合、ウェイズリーはユーリスから「君は父親なんだから我慢するように」と諭され、血の涙を流すことになるのだった。
黄金竜ウェイズリーは「黄金竜の卵は特別なので、雛竜は好きなタイミングで卵から出てくる」と言っていた。その回答の適当ぶりにユーリスは内心呆れていたが、考えてみれば、黄金竜ウェイズリーが卵から孵る時にも、ユーリスは「待て」と卵の中のウェイズリーに頼んで、孵化を待たせたこともあったと思い出して苦笑いをした。万事に最初から適当な黄金竜だった。
そして夕方、ユーリスが城の自室に戻り、シルヴェスター王子が騎士団から戻ったところで、ユーリスの胸元の卵がブルリと震えたかと思うと、ピシピシと大きなヒビが卵の表面に走り、そのヒビに向けて中の雛がクチバシで突っつき始めた。
ヒビが広がり、卵が割れ始める。
「ヴィー、卵から雛が出てくる!!」
ユーリスが胸元から慌てて卵を取り出す。
真っ白い卵に入ったヒビからの割れ目が大きくなり、割れ目から金色のクチバシが見える。
やがて、その割れ目から急ぐように小さな竜の雛が頭を突っ込み、バリンとその上体を卵から突き出した。白い欠片が飛び散る。同時に、「キュイキュイキュルルルルルルルルルゥゥ」と甘えるような声を上げた後、小さな小さな黄金竜の雛は、飛び上がり、自身の親であるユーリスの胸元にぺったりと張り付いていたのだった。
すりすりと小さな頭をすり寄せる黄金竜の小さな雛。
開いたその両眼は、キラキラと黄金色に輝いている。鱗の一枚一枚も、眩しいほどの黄金色である。
人間のユーリスとの間に生まれた卵からも、黄金竜が生まれたのだ。
「可愛いな」
ユーリスは目を細め、両手でそっと小さな竜の体を抱きしめる。産まれたばかりの小さな竜の雛である。そっと大切に触らないと壊れてしまいそうな気がした。
「キュルキュルゥゥ」
「ああ、可愛い」
シルヴェスターも目の前の竜の赤ん坊を可愛いとは思うが、幾ら可愛いと思っても、それは小さな竜の姿をしているのである。自分にもユーリスにも似たところは見えなかった。成長して人の姿を取ることが出来るようになれば、親である自分達に似たところも出てくるのかも知れないと思うしかなかった。
シルヴェスターの中の、黄金竜ウェイズリーが「代われ」と言ったので、瞬時、シルヴェスター王子の姿が黄金竜ウェイズリーに変わった。
ユーリスは、胸元に小さな黄金竜の雛を抱いたまま、黄金竜ウェイズリーに目をやり、そして胸元の黄金竜の雛に向かって言った。
「ほら、お父さんが、君に会いに来たよ」
お父さんといっても、黄金竜ウェイズリーも今は手乗り雛サイズである。ウェイズリーはユーリスの膝の上に飛んでくると、大きく胸を反らし、威厳を見せるようにして言った。
「キュルキュルルルキューキュー(我が子よ、ようやく産まれたのか)」
その偉ぶった様子が、可愛いやらおかしいやらで、ユーリスは吹き出しそうになる。精一杯威厳を見せようとウェイズリーが背伸びしているのが分かるのだ。
それに対して、ユーリスの胸元にいる小さな小さな黄金竜の雛は、ジロリと黄金竜ウェイズリーを一瞥した後、興味なさげに顔を背け、ユーリスの胸元にしがみついて「キュルルキューキュー」と甘えて鳴くのだ。
威厳も形無しとなった(むしろ無視されている?)ウェイズリーは、ユーリスの膝の上で尻尾をビタンビタンとユーリスの膝にぶつけて不満を表していた。
「キュルキュルルルキュイキュイィィィ!!(なんだこいつは。私はこいつの親なんだぞ!!)」
「ちょっ、ウェイズリー、私の膝に尻尾をぶつけないでくれ」
「キュルキュルキュッキュッ!!(親に対する態度がなっていないだろう!!)」
「そんなことを言っても、まだ生まれたばかりなんだよ、ウェイズリー」
「キュッ」
黄金竜ウェイズリーはぷっくりと頬を膨らませた後、両手を上にあげた。
ユーリスの膝の上で、しばらくの間、両手を上げて立っているウェイズリーの姿を見て、ユーリスは首を傾げる。
「どうしたのかい、ウェイズリー」
「キュルキュルルルキューキュイキュルル(そいつばかり抱っこするな。私をいつものように抱っこしろ)」
そんなウェイズリーに、ユーリスは呆れた眼差しを向けてため息をついた。
「ウェイズリー。今はこの子を抱いているから無理だよ。それに、君は親になったのだから、もう抱っことかせがまなくても」
「キュルキュルキュルキュルキュルルルルルルル!!!!!!」
ビタンビタンとまたユーリスの膝に、自分の尻尾を激しく打ち付けた後、ウェイズリーは飛び上がってユーリスの胸元に張り付く。それに負けじと生まれたばかりのもう一頭の小さな黄金竜の雛もユーリスの胸元にしがみつく。
ユーリスの胸元で、かしましく鳴き喚く二頭の黄金竜の雛達。
ユーリスは、ひどく頭が痛くなっていた。
それから、生まれたばかりの黄金竜の雛と、黄金竜ウェイズリーは常にユーリスの温かくて気持ちの良い安心の出来る大好きな胸元の場所を巡り、激しく争うようになる。
そして大抵の場合、ウェイズリーはユーリスから「君は父親なんだから我慢するように」と諭され、血の涙を流すことになるのだった。
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