ハーレム学園に勇者として召喚されたけど、Eランク判定で見事にボッチです~なんか色々絡まれるけど、揉め事は全て暴力で解決~

榊与一

文字の大きさ
36 / 65

第36話 降参?

しおりを挟む
「愛の戦士!リリアンヌ参上よ!」

リリスは目の部位分が隠れる蝶型のマスクに、ピンクのマントを羽織った姿をしていた。
頭上から地上に着地した彼女は、顔の前で横向きのピースサインを作り、力強く名乗りを上げる。

――リリアンヌ、と。

それは俺が読ませた漫画に出て来る、ヒーロー物のヒロインキャラの名だった。
格好もまんまである。

何でコスプレしてるんだ?
このアホは。

「はぁ……なんて美しいんだ……」

周囲からリリスを褒めそやす呟きが聞こえて来る。
周りを見渡すと、その場にいた男連中は全員、熱に浮かされた様な表情で彼女に熱い視線を送っていた。

完全にピンクの光でやられてるな。
ビートの奴も、目をハートマークにして間抜け面をしている。
今の彼には真実の愛が見えているのかもしれない(幻覚)。

但し影響が出てるのは男だけで、何が起きているのか分からない女性連中は、訝し気な顔で突如現れたリリスを見ている。

「わしはゲンブー家に所属するSランク勇者、ロウシンじゃ。すまんが、お嬢さんは何者じゃ?出来ればその光を止めて貰いたいんじゃが?年寄りには堪えるんでのう」

爺さんはあっちが枯れているのか。
もしくは幻覚への耐性があるのか。
ピンクの光に誑かされる事無く、渋い顔でリリスを見ていた。

「あらら、お爺ちゃんには刺激が強すぎたみたいね?罪なわ、た、し」

リリスの体から放たれていたピンク色の光が収まり、周囲を覆っていた気持ち悪い空気が和らぐ。

とは言え、依然男連中の視線はリリスへと釘付けだ。
もう術にかかっていないとはいえ、ビックリする程美人である事には変わりないからな。
ついつい視線が行ってしまうのは、男としての本能だ。

「大人しくしてろって言わなかったか?」

「ボッチーのピンチに、居てもたってもいられなかったのよぉ」

リリスが、さも心配しているかの様な仕草をみせる。
白々しい演技だ。
目の前の奴らが俺の敵じゃない事くらい、絶対分かってるだろうし。

「お嬢さんは、勇者墓地の知り合いなのかね?」

「ええ、私とボッチーはツーカーの仲よ」

「……」

漫画の中で、リリアンヌが主人公に対してよく言っていた台詞な訳だが……
人の言う事ガン無視しておいて、何がツーカーだ。
呆れて物も言えねぇとはこの事だ。

後、そのあだ名は止めろ。

「だから、彼の敵は私の敵よ!かかってらっしゃい!」

これで相手が強敵だったなら、きっと感動できる台詞だっただろう。
だが残念ながら、相手は俺から見たらダンゴムシレベルでしかない。
まあ良くてチワワぐらいか。
茶番にも程がある。

「ぬぅ……」

リリスの言葉に、爺さんが厳しい表情を浮かべる。
女は殴れないとか、そんな感じだろうか?
だとしたら甘ちゃんも良い所である。

――女は殴ってなんぼだぞ、爺さん。

壊れた機械と女は殴るに限る。
うん……いやまあ、流石にそれは冗談だが。
敵なら容赦なく殴るが、俺だって何もしてない女を殴ったりはしないからな。

「分かった。わしらの負けじゃ。勇者墓地からは手を引こう」

爺さんは少し考えこむ素振りをしてから、急に白旗を上げる。

意味が分からん。
この爺さん、痴呆症でも患ってんのか?
だったら、殴って治してやらないといかんな。

「おじい様!一体どういうことですの!!」

爺さんの言葉に、ベヒモスがヒステリックに反応する。
いやまあそうだろうな。
態々戦力集めたのに、急に「やっぱ戦いません。参りました」とか言われたらそうなるわ。

「ベヒモス、聞きなさい。このリリアンヌと言うお嬢さん……とてつもない強大なの力をもつ超越者ばけものじゃ」

「その女が、超越者……」

「わしは相手の放つオーラから、その力がどれ程の物か推し量る能力がある。このお嬢さんから感じたのは、間違いなくカーネルや陛下以上の力じゃ」

「SSランク勇者のカーネル殿や、国王陛下以上って事は……SSSランク……」

「そんな馬鹿な……」

爺さんの一言に、周囲が騒めく。
降参宣言は呆けていたからではなく、リリスの強さに気付いたからの様だ。

つか、俺の方がリリスより強いんだが。
何故それには気づかない?

因みにこの国の王族は、高ランク勇者に負けない程の力を持つと言われている。
なんでも、世界を救った伝説の勇者の血を引いているからだそうだ。
そんで、その血は近親婚で維持されてるとか。

きんも。

なあこの学園に王族が居ないも、そのためだ。

「これ程の力の持ち主を、敵に回すのはゲンブー家にとってマイナスが大きすぎる。お前の悔しい気持ちは分かるが、堪えてくれ」

「くっ……私は……」

「ゲンブー家は、今回の件について正式に謝罪させて頂く。どうか水に流して頂きたい」

爺さんが、リリスに向かって頭を大きく下げた。
それを見て、リリスが満足げにうんうんと頷いている。

何だこの茶番は?
そろそろ怒っていいか?

「仮令そうであったとしても!このまますごすごと引き下がる訳には参りません!」

取り敢えず爺をぶん殴ろうかと考えていたら、ベヒモスが急に大声を上げる。

「ベヒモスよ。我がままを言う出ない。これもゲンブー家の為なのだ」

「でしたら!ゲンブー家ではなく!私一個人として、墓地無双に決闘を申し込みますわ!!」

ベヒモスが、ビシィと音が出そうな勢いで人差し指で俺を指さした。
他人を指さすなって、親に習わなかったのだろうか?

そもそも、人差し指ってのは鼻をほじる為にあるのだ。
それを証明すべく、俺は鼻に突っ込んでホジホジする。

「ベヒモス、馬鹿な事を言うでない!Sランク勇者にお前が勝てる訳などなかろう!」

「おじい様。私はあの男から三度、屈辱を受けました。これはプライドの問題です。敵わなくとも、このまま引き下がるわけにはまいりません。私は戦います!」

「プライドの為に、敵わなくても戦う……か。いじめっ子の癖に、カッコいい事言うじゃねーか」

俺は鼻から指を引き抜き、鼻糞は地面に向かって飛ばす。
あの卑怯な勇者4人と違って、負けると分かって正面切ってサシで俺と戦おうってんだ。
そういう奴は嫌いじゃない。
鼻糞で倒して、馬鹿にするのは止めて置く。

「虐めではないと言っているでしょうが!あの女が醜悪な物を広めようとしていたから、私が教育しただけよ!」

ベヒモスが、遠くにいる女生徒を指さす。
その顔に見覚えがある。
湖の畔で、ベヒモス達に虐められていたクールな女子だ。

ベヒモスに指さされた女生徒は全く動じた様子をみせず、口角を上げて不敵に笑っていた。

「ん?」

彼女の口元が動く。
それは周囲に聞き取れない様な、小さな呟きだ。
だが、神によって力を得た俺にはそれがハッキリと聞こえる。

「至高の美をしらない愚物が……人生の真の喜びも分からない哀れな女に、我が覇道を阻む事など出来ないわ」

と。

なんか……微妙だな。
女生徒の怪しげな言動から、本当に虐めではなく、ベヒモスによる指導だったんじゃないかと思えて来た。

ベヒモスの取り巻は虐めだって事をあの場で認めたが、あの状況じゃ、俺の機嫌を取る為に話を合わせたとも取れなくもないしな。
いやまあ、集団で囲んで顔を扇子で叩いていたんだから、虐めじゃないってのは流石に無理があるか。

「まあいい。相手になってやる」

俺は手を伸ばし、指先をくいくいと動かしてかかって来いと示す。
無謀に挑むその勇気に免じ、先手は譲ってやる。

「私を余り舐めないでくれるかしら。確かに……貴方と私では、天と地ほどの実力差があるわ。でも……私にはこれがある!」

ベヒモスが、胸元から何かを取り出す。
それは亀の形をした、小さなペンダントだった。

「タートル!イン!!」

ベヒモスがそれを天に掲げ、力強く言葉を叫ぶ。
次の瞬間、ペンダントから強烈な光が放たれ、その光がベヒモスの全身を包み込んだ。
どうやらマジックアイテムの様だが……

「――っ!?こ、これは……」

「ふふふ……これはゲンブー家の至宝の一つ。玄武の鎧よ!!」

不敵に笑うベヒモス。
その背中には――巨大な亀の甲羅が背負われていた。
それだけ。

何が至宝だよ。
しょっぼ。

「冗談にしか見えないんだが?」

「侮らないで貰いたいわね。玄武の鎧を身に着けた私の力は、Aランクの勇者にも匹敵するわ」

嘘くせぇ。
そう思いながらも、ベヒモスの戦闘力を確認する。

マジか……3000万もあるじゃねぇか。

元々が300万程度だったので、彼女の戦闘力は亀の甲羅を背負っただけで10倍に跳ね上がった事になる。
この数字はビートよりも上だ。

チラリとビートの方を見る。

亀以下の勇者とか。
可哀想に……いやまあ、鼻糞以下よりマシか。

「よそ見などせず、此方を見なさい!いざ、尋常に勝負よ!!」

亀の甲羅を背負った、ベヒモスが真っすぐ突っ込んでくる。
そして拳を振りかぶり、体重と勢いを乗せ、その拳を振るう。

躱すのは簡単だ。
だが、ベヒモスはプライドをかけて俺に挑んで来た。
その心意気に免じ、この一発は喰らってやる。

「くぅっ!」

ベヒモスの小さな拳が、俺の顔面の中心を捉える。
だが苦悶の声を上げたのは彼女の方だった。

硬い壁を殴ったりしたら、拳を痛める。
それと同じだ。
彼女の非力な拳は、硬い俺の顔面を殴った事で罅が入っていた。

「今度は俺の番だ」

痛めた拳を押さえながら下がるベヒモスの顔面に向かって、今度は俺が拳を振るう。
勿論、俺が手を痛める事などない。
折れたベヒモスの歯が空中に舞い。
彼女は鼻血を吹き出しながら盛大に吹き飛んだ。

「今回は顔面粉砕だけで許してやる」

俺は優しいからな

「ベヒモス!!」

爺さんが、必死の形相で倒れたベヒモスに駆け寄る。
孫の心配をするのも結構だが、次はお前の番だぞ。

え?
相手は降参したんじゃないかだって?

そんなもん知るか。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

処理中です...