ハーレム学園に勇者として召喚されたけど、Eランク判定で見事にボッチです~なんか色々絡まれるけど、揉め事は全て暴力で解決~

榊与一

文字の大きさ
52 / 65

第52話 足し算

しおりを挟む
ビートと共に、空を飛んで魔神帝の封印へと俺は向かう。
もちろん一旦地上に戻り、服は身に着けている。
フルチンで動き回るのもアレだかしな。

その際中、ビートの前世について話を聞かされた。

「俺ならその場で全員処刑だな」

確実に。

「人は弱い生き物なんだよ、墓地君。彼らもきっと怖かったんだと思う」

ビートの口調からは、恨みつらみを感じられない。
どうやら、自分を裏切った奴等を恨んではいない様だ。

……お人好しもここまで来ると、もはや病気だな。

ビートの考えや思考が、俺には全く理解できない。
けどまあ、本人がそれで納得してるのなら構わないだろう。

「それにもう200年も前の話だからね。皆死んでるのに、今更復讐も何もないさ」

「ま、そりゃそうだ」

血を引いてる奴ら――王家の奴等――はいるが、ただ子孫ってだけのそいつらに何かするのは流石に筋が通らない。

……まあそれでも、俺ならぶん殴るぐらいはするけど。

理不尽?
世の中ってのは、理不尽に出来てるもんなんだよ。

「あそこだ!」

遠方に、白くてデカいドーム状のエネルギーの塊が見えた。
どうやらあれが、カモネギを裏切って生み出された封印の様だ。

「リリス!」

その封印の真上に、リリスが浮かんでいた。
不敵な笑みを浮かべて。
どうやら、俺達を待ち構えていたみたいだ。

「尻尾撒いて逃げた癖に、随分と堂々としてるじゃねーか。そんなに死にてーのか?」

リリスを殺して蘇生させる――だるまさんが転んだ作戦は、もう実行するつもりはなかった。
即時に蘇生したら魔神帝が離れない可能性が高いのと、特殊な生命体であるリリスは蘇生できない可能性があるからだ――ビートに言われて気づいた。

「ほう……私を殺すのかね?果たして貴様達にそれが出来るかな?」

リリスが高度を下げる。
そしてその足が結界に触れ、そして――

「――っ!?」

「リリスが封印の中に!?」

――その下半身が白い結界の中に飲み込まれていく。

「この宝玉は封印と繋がっていてな。中から外に出る事は出来ないが、こうやって外部の物を取り込むぐらいのコントロールは出来る」

どんどんとリリスの体が結界の中に消えていく。

「くくく……娘を助けたければ、この結界をどうにかする事だな」

最後にそう告げると、魔神帝の姿は完全に封印に消えてしまう。

「言われなくても、最初からそのつもりだっての」

作戦はこうだ。
まず、俺とビートの力押しで結界を破壊する。
そしてリリスをビートが押さえ、その間に俺が魔神帝をボコボコにするという、隙の無い完璧な物だ。

余談だが、魔神帝と自分で決着付けたいだろうと、最初俺がリリスを押さえる役目を買って出たのだが「君に彼女を任すのは不安がある」とビートには断られている。

信頼ゼロ!

魔神帝を倒した後なら、全力でぶん殴ってもきっと許される筈だ。

「墓地君、僕に合わせてくれ」

「へいへい」

ビートが力を拳に溜め、結界に叩きつける。
それに合わせて、俺も全力で結界を殴りつけた。

『ピキィ』と乾いた音が響き、結界に大きな亀裂が入る。

「へ、楽勝だな」

「流石に……今の僕と墓地君のパワーには、この封印も耐えられないさ」

亀裂が封印全体に広がっていき、そして崩壊する。
まるでガラスを割ったかの様に表面が粉々に砕け散り、光の粒子へと変わっていった。

「ん?なんだ?」

「これは……」

――異変。

光の粒子が、まるで吸い込まれるかの様に封印の中央に急激に吸い込まれていく。
その中心部分には、男女の人影があった。
魔神帝とリリスだ。

「リリス!」

リリスは項垂れる様な姿で、ピクリとも動かない。
そしてその横にいる魔神帝の胸元には、赤く光る宝玉が輝いていた。

「なんだ?吸い込んでるのか!?」

奴の胸元の宝玉に、砕けた封印の欠片――光の粒子が凄い勢いで吸い込まれていくのがハッキリと見える。

果てしなく嫌な予感がしてしょうがない。
何故なら、ボスってのはパワーアップするのが定番だからだ。

「させるかよ!」

変身やパワーアップ中は手を出さないのがお約束?
漫画の見過ぎだ。
現実で、相手に力を付けるチャンスなんざくれてやる必要などない。

「墓地君!待ってくれ!」

俺が突っ込もうとした途端、魔神帝はリリスの首を掴んで前に出し、その首筋に鋭い爪先を向ける。
来たらリリスを殺すという脅しなのだろう。
それに反応したビートが、俺の動きを制して来る。

「お前なぁ……」

「頼む……墓地君」

「ちっ、どうなっても知らないぞ」

ビートの気持ちは……まあ俺にだって分からなくもない。
何せ、200年近くもリリスとの再会を待っていた訳だからな。

――光がドンドンと、赤い宝玉に吸いこまれていく。

「はははははははは!!」

やがて、全ての光を吸収し終えた魔神帝が高笑いを上げた。
正に御機嫌って感じだ。

「封印を破壊してくれて感謝する。お蔭で、カモネギの遺した力を吸収する事が出来た。今の私は無敵だ!!」

嫌な予感がしつつも、俺は魔神帝の力を確認する。
そして思わず呟いた。

「マジかよ……」

魔神帝の力は、元々はカモネギと同程度だ。
話を聞く限りだと、10億ぐらいだと推測できる。

だが、モネギの力を吸収した奴の今の力は――

「20億とか、洒落になってねぇぞ……」

10億足す10億は20億?
足し算で丸々パワーアップするとか……どんなシンプルな造りだよ。

「ふざけんな」

そう俺は吐き捨てた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...