ハーレム学園に勇者として召喚されたけど、Eランク判定で見事にボッチです~なんか色々絡まれるけど、揉め事は全て暴力で解決~

榊与一

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第51話 始まり

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今より数百年前。
ファーレスには魔法文明が栄えていた。

だが既にそれらは滅び、もうこの世にはない。
何故なら、異世界の勇者によって滅ぼされてしまったからだ。

――かつての魔法文明では、魔法の研究が盛んにおこなわれていた。

それは多種多様に渡り、研究の結果、ファーレスには多くの魔法が生み出されている。
そしてその中の一つに、異世界勇者召喚と呼ばれる物があった。

異世界勇者召喚。
それは異世界に存在する、善良かつ、強力な力を持つ者――すなわち、勇者と呼ぶべき存在を召喚する魔法だ。

その魔法の完成と同時に、ある異世界の勇者が召喚される。
名前はラブ。

召喚された際、彼は重傷を負っていたそうだ。
剣を構え、まるで何かと戦っている最中に呼び出されたかの様な姿だったと言われている。

普通なら何があったかその事情を聴き、手当を施そうとするだろう。
だが呼び出した者達はそうしなかった。
勇者ラブが弱っているのを良い事に、そのまま彼を拘束してしまう。

何故なら、彼らが勇者召喚を行ったその目的は――

強靭な肉体を持つ勇者を、モルモットとして研究をする為だったからだ。

魔神化計画。
通称オース計画は、勇者ラブにとって苛烈を極める者だった。
その激痛に、彼自身が死を願いたくなる程に。

だが彼は必死に耐えた。
何故なら帰るべき、守るべき故郷があったからだ。

――勇者ラブが呼び出されたのは、魔王と呼ばれる邪悪との戦いの最中だった。

後一撃で勝負が決まる。
そんな大事な瞬間に、彼は召喚されてしまったのだ。

彼の頭の中は、その後の、自分が消えた後の事でいっぱいだった。

『自分が消えた後、どうなったのか?』

仲間が追い詰めた魔王の討伐を成功させているなら、それでいい。
だが、もし負けていた場合は……

『自分が元の世界に戻って、何とかしなければならない』

そんな強い思いがあったからこそ、勇者ラブはどんな苦痛にも耐え抜いて見せたのだ。

――そして数年の月日が過ぎた。

勇者ラブを使った研究は順調に進み、異世界人――モルモット――相手とは言え、不老不死が達成されるという大きな成果を上げる事に成功する。

その事に浮かれる研究者達。
そこに大きな隙が出来た。

「実験体が逃げたぞ!」

苦しみながらも常に隙を伺っていたラブは、遂に千載一遇のチャンスを掴む。
そして偶然逃げ込んだ研究室で、ある巨大な宝器マジックアイテムを発見する。
それは異世界を覗き込む事の出来る、最近開発されたばかりの物だった。
その情報を拘束した研究員から聞き出したラブは、自分の世界を映す様に命じる。

「――っ!?これは……そんな……」

大きな鏡面に映し出されたのは、地獄のような風景だった。
自然豊かだった世界は完全に荒廃しており、もはや見る影もない。

「嘘だ……こんな物は何かの間違いだ。私の世界なんかじゃない!」

映っているのは、自分のいた世界ではない。
きっとこのマジックアイテムは、正常に作動していないに違いない。
そう、勇者ラブは思いたかった。

だが鏡がある崩壊した都市を移した事で、その考えは完全に否定される。
崩壊し、滅茶苦茶になっていてもラブには分かってしまったのだ。
そこが、自分の生まれ故郷であった場所だと。

「そんなばかな。そんな事……………は……ははは……」

辛い苦痛を乗り越え、挫けず勇者ラブは耐えて来た。
全ては、自分の世界の為に。

だが、その愛すべき世界は既に完全に滅んでいたのだ。
自分が討ち損ねた魔王の手によって。

「ははは……ははははっははははははっははあっはははははははっはははは」

僅かな希望に縋り、耐え忍んで来た勇者ラブの心は、付きつけられた絶望により完全に壊れた。
そして同時に、その強い衝撃は彼の覚醒を導く。
元々2000万程しかなかった彼の戦闘能力は覚醒により一気に膨れ上がり、ファーレスに置いて、神の領域と呼ばれれている10億――Extraランクにまで達する。

「ひひひひ、ひゃはははははははは!壊してやる!!全て破壊しつくし……生きとし生ける者全てを皆殺しだ!!!」

崩壊した勇者ラブの精神は、完全に闇に落ちた。
以前の記憶の全てが吹き飛び、唯々怒りと憎しみ、そして破壊と殺戮の衝動をもった虐殺者へと生まれ変わる。

残忍な破壊者となった彼は、一夜にして魔法文明の殆どを破壊しつくす。
だが、その全てを破壊しつくす事は無かった。

別に情けを掛けた訳ではない。
不死身へと改造された肉体が、不安定な状態だったからだ。
その強すぎる力ゆえ。

現在の状態では、長時間の活動が厳しい。
そう判断したラブは、長い眠りについた。
自身の体を、完璧な物へと変化させるために。

「くくく……待っていろ。私の肉体が完成したその時こそ、貴様らが滅びる時だ。それまで精々、安寧を貪るがいい」

致命に近いダメージを受けながらも、滅亡を逃れた異世界ファーレス。
文明や魔法技術の大半を失った彼らはその教訓から、勇者召喚を禁忌として封印する。

やがて長い時が過ぎ、何故魔法文明が滅びたのか。
勇者召喚が何故禁忌となったのか。

それらが忘れ去られた頃、勇者ラブは眠りから目を覚ます。
完全なる不死身の肉体を得て。

目覚めた彼は、自身を魔神帝ラヴォースと名乗り侵略を開始する。

だがそれは以前の様に、怒りにかられての破壊ではなかった。
如何にファーレスの人間を苦しめて殺すか、その黒く歪んだ愉悦を満たすための侵略だ。

やがて魔神帝によって追い込まれたファーレスの人々は、かつて禁忌として封印された勇者召喚に手を染める。
それが何故禁忌となったのかも知らずに。

――そして数百年ぶりに、勇者が呼び出される

勇者の名は、カモネギ。
彼はラヴォースと激闘を繰り広げ、そしてその戦いの最中に、ファーレスの王家によって裏切られてしまう。
魔神帝を封じる為に。

それから200年。
魔神帝にかけられた封印が解かれる時がやって来た。
二人の若者の手によって。
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