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マレニアの二学期

・マレニアの二学期 - 貴様を退学処分とする!!! -

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 ところがそうやってのん気にしていると、壇上の――カップスープじゃなくて、確か、クラウザーさんだったっけか?
 アイツの強気が突端に崩れだした。

「う、嘘吐けよーっ!?」
「ふふ、そう言うと思ってね、書面にしてもらった。君の、お父上にね」

「な……っっ」
「君はグレイボーンと腐食のカミルが目障りだった。そこで君は、冒険者ギルドに強大な影響力を持つ実家の力を使って、彼らを騙し、死の迷宮に挑ませた」
「しかしところがだ! グレイボーンくんの実力は、君の予想を遙かに上回っていたと来る! ハハハハッッ、滑稽な話ではないかね!!」

 何が書かれていたのやら、クラウザーさんは黙り込んだままだ。
 ジュリオと次官が次々と言葉をまくし立てていった。

「そう、父上が言う通り、彼はあまりに冒険者として異常だった。彼を殺してくれるはずの224レベルの怪物たちは、次々とグレイに狩られてゆき、あまつさえ、『ぬるかった』と、本人に言い放たれる始末だ」
「心中お察しするよ。死ぬはずだった男が涼しい顔をして、平然と死地から帰って来てしまったのだからね」

 動揺にクラウザーさんが一歩後ずさった。
 バロック次官とジュリオはそれを逃がさず、足音を立てて詰め寄った。

「君の敗因は標的の実力を見誤ったこと。そう言えるだろうね」
「うむ、脱線したな。話を続けよう。グレイボーンくんの生還に度肝を抜かされた君だが、君の不幸はさらに重なることになった。……それは他でもない、共犯者の職員の失踪だよ」

「な、なんの話か、わかんねーな……っ! 職員だぁ!? そんなやつ、知らねーよ……っっ! うぐ……っ?!」

 証拠の転写紙でも突き付けられたのだろう。
 その契約書のコピーがある以上、知らないなんて言い訳は通じない。

 バロック親子の見解によると、クラウザーさんは共犯者の口封じに失敗したそうだ。
 しかしなぜ失敗したと、2人はそう言い切れるのだろうか?

「続けるよ。僕たちと司法局は情報を精査した結果、ある結論に至った」
「君の共犯者、ギルド職員チャールズ・ギブソン! 彼は消されたのではなく、自発的に身を隠した! うむ、君とクノル家からすれば、非常にまずい事態であるな?」

「だいぶ回りくどくなったね。では単刀直入に言おう。僕たちは、そのチャールズ・ギブソンさんを、先日見つけ出したんだ」
「な……っっ?!! う、嘘だ……っ、んなわけねーだろっ!! 今頃は親父が……っ、く……っ?!」

 ちなみにリチェルだが、兄に寄り添ってスヤスヤとおやすみ中だ。
 連日の教練に疲れている上に、わけがわからない話だしな。

 生徒たちの大半はこれをエンタメと受け止めて、ジュリオと次官の告発に声を上げて興奮している。
 のん気なものだった。

「天使だ……。そうは思わんか、コーデリア?」
「そろそろご自分の列に、帰って下さいませんこと……?」

「バカな、お前はこれが天使に見えないのか……っ!?」
「いいから戻りやがれですわーっ!」

 立ったまままどろむくらいならばと、リチェルを背中におぶった。
 するとまた大きな歓声が上がった。

「さあ生き証人よ、姿を現したまえ!!」

 と、バロック次官が叫んだような気がする。
 まさか、この場に来ているのか?
 クラウザーさんと結託して、俺をぬるい迷宮に送り込んだ張本人が?

 注目すると演壇の舞台裏から、新しい人影が姿を現した。

「ごぶさたしております、クラウザー様……。急に姿を隠して申し訳ありません……」
「お、お前……っ、今まで、いったいどこにっ?!!」

「私は自供することにしました……」
「な、なぁっ!? 何考えてんだよぉおめーっ!? お、親父たちにぶっ殺されるぞっっ!?」

「捕まってしまった以上、他にないのです。このまま死罪に問われるか、自供し貴方を告発するかの、2択のみなのです……」

 司法取引に応じて、カップスープを売ることにした。
 俺にはそう聞こえる。
 それにしてもよく見つけたものだった。

「ジュリオ・バロックにさえ見つからなければ、話は別でした……。はぁ……」
「うむ、我が息子も、意外とやるものだ!」
「う、嘘だろ……? 自供って……おいっ、何すんだっ、お前らっ?!」

 拘束でもされたのだろうか。
 クラウザーさんは暴れたが、よっぽど拘束に加わったやつが屈強だったのか、すぐに静かになった。

「ククク……投資のかいがあったというものだ。入学主席の座を田舎者に奪われたと聞いた時は、怒りに震えを覚えたが……。まさかこれほどまでに働いてくれようとは、クククッ」
「父上、その話は今夜の晩餐まで堪える約束でしょう……」

 ジュリオと次官の静かなやり取りが聞こえたが、非常に小さかったので俺にしか聞こえなかっただろう。
 次官も次官で、結構親バカだな。

「これが喜ばずにいられるか。目障りなクノル家の連中に、出会い頭にストレートパンチを入れたようなものだよ。フフフッ、素晴らしい……っ」

 政治の話はわからん。
 バロック家とクノール家はそりが合わない、ってことくらいしか。

 いや、だがそこに、話を非常にわかりやすくしてくれる人が現れた。

「ワシがマレニア魔術院学長、ブランチ・インスラーであるっっ!!!!」

 学院長だ。
 最近は女史に萎縮してばかりだったので、なんかその気迫に安心感があった。
 いや、いつも以上に学院長は声がでかかった。

「しゃしゃり出て来んじゃねーぞ、このハゲッッ!!」

 お前は下がっていろと、クラウザーさんはムダな大声で張り合った。
 しかし学院長は臆さなかった。
 学院長が畏れるのは、俺が知る限りセラ女史ただ1人だ。

 まあ、そこはわからんでもない。

「喝ーーッッッ!!!」
「うぉぉっっ?!!」

「クラウザー・ヴォルフガング・クノル!! 本日この場をもってしてっっ、本学院は、貴様をッッ!!」

 学院長が講壇を拳で叩き付けた。
 それもただ叩き付けた物音じゃない。
 木造のそれが真っ二つにぶっ壊されたような、暴力的な破壊音が講堂に轟いた。

「退学処分とするっっ!!! 貴様ら一族には愛想が尽きたっっ、もはや2度と、この学院の敷地をっ、踏ませはせんっっ!!!」

 セラ女史にすくみ上がっていたのが嘘のような、理想の男性像がそこにあった。
 退学を言い渡されたカップスープは膝で床を鳴らして崩れ、休み明けの朝っぱらから始まった告発劇が、これにてようやく終わった。

「ふぇ……?」
「おお、起きたか?」

「あれ……? なんか……雷? したようなー……?」
「気にするな。教室まで送ってやるから、もう少し寝ておけ」

「……あい」

 兄の背中でリチェルは2度寝を決めた。
 あれだけの騒ぎなのにこの程度の反応。
 うちの妹はやはり、大物か……。

 講壇上のジュリオに拳を上げて見せると、俺は一足先に告発の会場から退散した。
 俺には不可能な捜査と告発を、親友のジュリオは見事果たし、黒幕を追い詰めてくれた。

 俺たちを陥れた真犯人は退学処分になった。
 その後、クラウザーさんが具体的にどうなるかは知らん。
 だがこれで、カミル先輩が学年主席に立てるチャンスがやって来る。

 コイツがジーンの死の遠因を作った。
 コイツがカミル先輩を殺そうとしたのは、れっきとした事実だ。
 そう思い返してみると、なんて身勝手で幼稚なやつだろうと、あきれ果てるしかなかった。

 罪状は殺人未遂となるだろう。
 その重い罪にふさわしい罰が下ると願いたい。

 この結末ならば、死んだジーンもきっと満足してくれるだろう。
 あの声のでかいカマ様のいるバー『walrus』で。

 今頃はきっとそうなっていると、俺には確信出来る。
 なぜかと言えば簡単なことだ。
 あのカマ様が、こんなに面白いリアリティーショーを、見逃すはずがない。

 無念は晴らしたぞ、ジーン。
 お前のだみ声をもう2度と聞けないと思うと、こっちは少し寂しい。

 あんなに熱い男だともっと早く知っていたら、俺たちはきっと友達になれていただろう。
 ま、お前はそういうのを嫌がるだろうがな。

 イオニアのジーンの来世にどうか祝福を。
 カマの気まぐれがお前に微笑むよう祈っている。
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