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帰還編
取り戻された後継者 (4)
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げんなりした私は、見合い申し入れの書状を指先でつまんでひらひらさせながら愚痴をこぼした。
「私の存在を知ってるなら、伴侶の存在も聞き及んでるはずなのにねえ」
「姫と一緒だよ。聞きたいことしか聞こえない耳なんだろ、きっと」
私の愚痴に、ライナスは呆れたような、でも少し面白がっているような顔で言葉を返した。
あのお姫さまと一緒か……。そう聞くと、遠征中にライナスが感じたであろう精神的疲労のつらさが想像できるような気がした。何を言っても自分に都合よく解釈して、まともに会話が成立しない感じだったんじゃないだろうか。
伯父さまは私たちのやり取りを聞いて、書状の入っていた封筒を手に取って差出人の名前を確認すると、不愉快そうに眉間にしわを寄せて鼻を鳴らした。
「まったく厚顔無恥にもほどがある。よくもまあ臆面もなく、うちに手紙などよこせるものだ」
「何か確執がある人なんですか?」
伯父さまが負の感情をこれほど露わにするのは、初めて見た。不思議に思って尋ねると、伯父さまはじっと私の顔を見つめてから、ゆっくり口を開いた。
「きみの村に魔獣を引き入れた犯人の親類だよ」
伯父さまの言葉を聞いて、思わず私は盛大に顔をしかめる。汚いものに触れてしまったような気がして、つまんでいた書状を伯父さまの机の上に投げ捨てた。
私のその動作を見て、ライナスが吹き出した。
「もうさ、そのとおり書いて返事してやったら?」
「え? 何を書くってこと?」
「お前が権力を使って野放しにさせた犯罪者に、両親と弟を殺された。家族の仇と見合いだなんて、死んでもお断りですって」
それを聞いて、私と伯父さまも笑ってしまった。かなうことなら面と向かって言ってやりたい。どんな顔をするだろうか。でも仮に実際に言ってやったとしても、たいして相手はこたえないような気がした。
「書いたってどうせ、ご自分に都合の悪いことは目に入らないんじゃない?」
「あり得る」
実際に何と返信するかは、伯父さまにお任せすることにした。当たり障りのない文面で、しかしきっぱりとお断りしてくださるだろう。
言ってやりたいことはあるけれども、私たちから直接何かを言う必要はない。なぜなら、いずれ彼らは裁かれることが決まっているからだ。
王太子さまが王宮から数人の文官をこの屋敷に派遣し、父によって書かれたあの本の写しを交代制で夜を徹して作っている。あれを元にして調査をした上で、過去に遡って裁く予定なのだそうだ。写しができた分から順に、秘密裏に調査を進めているらしい。
写しを作成する文官たちだけでなく、調査が始まると憲兵も屋敷を出入りするようになった。ジムさんもちょくちょく顔を出す。なかなか慌ただしい日々だ。
ジムさんは、裁きのための調査に加えて、もちろん封印のための準備も進めている。「秘密裏の調査のため」という名目で屋敷に顔を出しているわけだ。調査に動員されている者のうち半数ほどは、実は封印準備のために働いている。「秘密裏の調査」を偽装に使ってしまうあたり、情報統制には念が入っている。万が一、誰かに何かを嗅ぎつけられそうになったとしても、「秘密裏の調査」だと言えば言い訳が立つだけでなく同時に口止めもできる。
ライナスと私も、準備と調べ物で忙しかった。
下調べのためにあちこち出歩く必要があったし、当日の衣装や小物の準備がどうしてなかなか馬鹿にならない。一世一代の晴れ舞台に立つためだとおっしゃって、伯父さまは細部まで手抜かりなく準備することにこだわった。
「私の存在を知ってるなら、伴侶の存在も聞き及んでるはずなのにねえ」
「姫と一緒だよ。聞きたいことしか聞こえない耳なんだろ、きっと」
私の愚痴に、ライナスは呆れたような、でも少し面白がっているような顔で言葉を返した。
あのお姫さまと一緒か……。そう聞くと、遠征中にライナスが感じたであろう精神的疲労のつらさが想像できるような気がした。何を言っても自分に都合よく解釈して、まともに会話が成立しない感じだったんじゃないだろうか。
伯父さまは私たちのやり取りを聞いて、書状の入っていた封筒を手に取って差出人の名前を確認すると、不愉快そうに眉間にしわを寄せて鼻を鳴らした。
「まったく厚顔無恥にもほどがある。よくもまあ臆面もなく、うちに手紙などよこせるものだ」
「何か確執がある人なんですか?」
伯父さまが負の感情をこれほど露わにするのは、初めて見た。不思議に思って尋ねると、伯父さまはじっと私の顔を見つめてから、ゆっくり口を開いた。
「きみの村に魔獣を引き入れた犯人の親類だよ」
伯父さまの言葉を聞いて、思わず私は盛大に顔をしかめる。汚いものに触れてしまったような気がして、つまんでいた書状を伯父さまの机の上に投げ捨てた。
私のその動作を見て、ライナスが吹き出した。
「もうさ、そのとおり書いて返事してやったら?」
「え? 何を書くってこと?」
「お前が権力を使って野放しにさせた犯罪者に、両親と弟を殺された。家族の仇と見合いだなんて、死んでもお断りですって」
それを聞いて、私と伯父さまも笑ってしまった。かなうことなら面と向かって言ってやりたい。どんな顔をするだろうか。でも仮に実際に言ってやったとしても、たいして相手はこたえないような気がした。
「書いたってどうせ、ご自分に都合の悪いことは目に入らないんじゃない?」
「あり得る」
実際に何と返信するかは、伯父さまにお任せすることにした。当たり障りのない文面で、しかしきっぱりとお断りしてくださるだろう。
言ってやりたいことはあるけれども、私たちから直接何かを言う必要はない。なぜなら、いずれ彼らは裁かれることが決まっているからだ。
王太子さまが王宮から数人の文官をこの屋敷に派遣し、父によって書かれたあの本の写しを交代制で夜を徹して作っている。あれを元にして調査をした上で、過去に遡って裁く予定なのだそうだ。写しができた分から順に、秘密裏に調査を進めているらしい。
写しを作成する文官たちだけでなく、調査が始まると憲兵も屋敷を出入りするようになった。ジムさんもちょくちょく顔を出す。なかなか慌ただしい日々だ。
ジムさんは、裁きのための調査に加えて、もちろん封印のための準備も進めている。「秘密裏の調査のため」という名目で屋敷に顔を出しているわけだ。調査に動員されている者のうち半数ほどは、実は封印準備のために働いている。「秘密裏の調査」を偽装に使ってしまうあたり、情報統制には念が入っている。万が一、誰かに何かを嗅ぎつけられそうになったとしても、「秘密裏の調査」だと言えば言い訳が立つだけでなく同時に口止めもできる。
ライナスと私も、準備と調べ物で忙しかった。
下調べのためにあちこち出歩く必要があったし、当日の衣装や小物の準備がどうしてなかなか馬鹿にならない。一世一代の晴れ舞台に立つためだとおっしゃって、伯父さまは細部まで手抜かりなく準備することにこだわった。
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