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第3章 王立魔法学校入学編

閑話 真夜中のお散歩

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いつも読んでいただき、ありがとうございます。
これは168話の続きのお話になります。

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マーブルはモスがゴーレムに命じてサラの体に毛布をかけるのを見届けると、窓辺に飛び乗り前足で窓を押す。
鍵がかかっていて本来なら猫の力では開かないはずの窓はすんなりと開いた。

『お出掛けですか?』
「にー」
『ああ。例の人間の元へ…。サラ様が心配されますから、夜明け前にはお戻り下さい』
「にっ!」
『行ってらっしゃいませ』

マーブルは夜空に向かって軽やかに窓から飛び立つ。
しばらく夜空の上から何かを探すようにぐるぐると下を見渡すマーブル。
そして目当てのものを見つけたのかピンっと髭をたてると、マーブルの体は一瞬でかき消えて、どこにもマーブルの姿を見つけることはできなくなった。


◇◇◇

ジークは夜警の当番が終わり、城の中にある自らの住居に帰宅したところであった。

『明日は非番だったな』
「はい。何処かに行きたいところはありますか?」
『ふむ、特にはないぞ』
「そうですか。では、久方ぶりに僕の実家に足を伸ばそうと思うのですが、よろしいでしょうか?」
『いいぞ』
「ありがとうございます」

近衛騎士であるジークには、小さいながらも一人部屋が与えられていた。
窮屈な軍服を脱ぎ、軽く体を拭くと寝間着に着替える。
明日のためにもう寝ようとベットに手をかけたところで、来訪者があらわれた。 
窓を叩く音に顔をあげると、窓の外から白い猫がこちらを覗いていた。

「もしや、精霊王様?」
「にゃっ」

慌てて窓を開けると、開けた隙間からするりとすり抜け部屋に入ってくる。
マーブルが部屋に入ったと同時に開けた窓が勝手に閉じる、そしてすべてのカーテンが閉じられた。

「これは」
「にっ」

マーブルがひと鳴きすると、いつか見た魔法陣が浮かび上がる。光が消えると、そこには少年姿のマーブルの姿があった。

『ジーク』
「あ」

水の精霊のセヴィに促され、ジークはマーブルに向かって慌てて跪く。

『そう言うのは良いから。僕がお前のところに来たのは、前に命じた事をちゃんと調べてくれたか聞きに来ただけだがら』
「ご足労をかけまして、申し訳ありません」
『ママのいる前では聞けないからね』

マーブルとどうコンタクトを取ればよいか悩んでいたところだったので、マーブルが来てくれたのはジークとしてもありがたかった。
だが、それだけこの件を重要視しているのかがわかって、恐ろしくもあるわけだが……。

『それで、誰かわかったの?』
「はっ。セレスティナ様を罠に嵌めた人物ですが、十一年前に結婚をして現在はダフィル伯爵家当主となっております。名前はジェームズ」

ジェームズ・ダフィルと言えば、国王との謁見の際にフェビラルに突っかかり、あえなく撃沈した人物であるのだが、幸か不幸かそれを知っているものはこの場にはいなかった。
精霊達も不在の時の出来事であったので、ジークとマーブルがそのことを知るのはだいぶ後のことになる。

『わかった!ジェームズ・ダフィルだねっ。……みんな、そう言うわけだからよろしくね』

ジークから名前を聞いた途端、満面の笑顔でマーブルは誰かに向かって話し始める。
なにが始まったのかわからず首をかしげるジークとは対照的に、セヴィは青い顔でその光景を眺めていた。

『これで良し!』
「精霊王様?今のは何を……」
『前に言ったでしょ?そいつが魔法を使えないようにしたんだ。僕のママのためなら、みんな喜んで協力してくれるってさ』

以前、悪者が魔法を使う際に精霊からの一切の協力を得られなくすると言っていたことをさっそく実行したらしい。

「サラに聞く前に実行してよろしかったのですか?」
『だから、ママには内緒ね。ママは優しいから、潔白さえ証明されたらそれでいいと思っているようだけど、それじゃ僕の気が済まないからね。魔法が使えないってわかった時、そいつがどうするか楽しみだなぁ』

くすくすと楽し気に話すその姿はとてもかわいらしかったが、話す内容が物騒すぎた。
貴族が魔法を使うことはめったにないが、そのめったにない場面で魔法を使えないとわかった時にどうなるのか、考えるだけで恐ろしい。
だが、ダフィル伯爵がしたことを思えば、妥当な罰なのかもしれない。

『じゃあ、僕はもう帰るね。金髪頭は引き続き証拠集めをしておいてよ』
「かしこまりました」

マーブルは言うだけ言うと、猫の姿に戻りそのまま帰っていった。
既に十年以上の長い時がたってしまった今、過去の罪を認めさせるのはとても難しいだろう。

「父上にも聞いてみるか」

だが、サラの喜ぶ姿が見えるのなら、頑張れると思った。

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