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1巻

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   序章


 神は眠りにつく際に、世界を精霊王にたくした。
 これは神話にも出てこない、神と精霊達だけの秘密の約束。
 そして精霊王は、今もどこかで世界の管理をおこなっている。


『大変ですわっ! 精霊王様がっ!』
『何事だ』

 精霊王が暮らす時の狭間はざまで、普段は冷静な精霊があわてふためく事態が発生していた。

『精霊王様が出奔しゅっぽんなさりましたっ!』
『なんだって⁉』
『確かに、精霊王様の気配がどこにも感じられないわ。まだ時間があると油断していたのがまずかったわね』
『とにかく、すべての精霊達に精霊王様探索のおれを出すのだ。今の時期、精霊王様はまだご自分のお力をうまく使えないだろう。すぐに見つかると思うが……』

 しかし精霊達の楽観的な予想は裏切られ、精霊王の行方ゆくえはようとしてつかめなかった。


   ◇◇◇


「にー、にー……」
「……子猫?」

 少女は森の中で、鳴き声を上げる子猫を見つけた。

「にゃんっ」

 少女が手を差し伸べると、子猫は嬉しそうにすり寄ってくる。

「猫ちゃん一匹なの? こんなにガリガリにせてかわいそうに……。うちの子になる?」
「なぁーん!」


 ――この一人の少女と一匹の子猫との出会いから、すべてが始まる。



   第一章 能力鑑定


「あら、サラちゃん。ちょうどよかった! サラちゃんもこれから教会かい?」
「サマンサさん、おはようございます! サリーもおはよう!」
「サラお姉ちゃん、おはよう!」

 ある朝、私が手提てさげカゴを持って教会へ続く道を歩いていると、雑貨屋のサマンサさんから声をかけられた。
 今日は週に三回開かれる、教会でのお勉強会の日だ。
 サマンサさんも娘のサリーを連れて教会に行くところだったのだろう。

「悪いけれど、今日もサリーを一緒に連れていってもらっていいかい?」
「いいですよ。サリー、一緒に行こう?」
「うん!」

 サリーは私の六つ年下で、四歳。一人で教会に行くにはまだ早い年頃だ。
 私とサリーが手をつなぐのを見届けて、サマンサさんは急いでお店に帰っていった。
 そのまま二人でしばらく歩いていると、サリーが私の手提てさげカゴをチラチラ見ていることに気づく。
 きっと、いつものようにマーブルが手提てさげカゴの中にいるのか気になっているのだろう。

「マーブルと遊ぶのは教会に着いてからね」

 私の言葉に、サリーは嬉しそうに頬を紅潮させたあと「うん!」と元気よく頷いた。
 マーブルとは、私が飼っている子猫のことだ。
 毛並みは真っ白でふわふわ。虹色の瞳はお日様の光で様々な色に変わって、いつまでも見ていたくなる。
 ちょうど一年前の今頃、森の中をさまよっていたところを、果実採りに行っていた私が偶然見つけて家に連れ帰ったのだ。
 お父さんは、子猫がたった一匹で森の中にいたと聞いて驚いていた。魔物がたくさんいる森を、親猫とはぐれた子猫が生き延びるのは奇跡に近いらしい。
 確かに、拾った時のマーブルはガリガリにほそり、とても弱っていた。
 そんなマーブルを、私は元気になるまでつきっきりで看病した。そのためか、マーブルは私にとても懐いてくれて、それからというもの私達はどこへ行くにもいつも一緒だ。
 今日もマーブルは、勉強道具の入った手提てさげカゴからご機嫌そうにこちらを見上げていた。

「あ! ねーねだ!」
「サラ!」
「ちょうどよかった!」
「今日もよろしくね!」

 サリーと二人で歩いていると、次から次へと声をかけられ、子供達をたくされる。
 私が通るのを家の中から見ていたのではないかという程のタイミングのよさだ。
 私自身もまだ十歳の子供だけど、このククル村の中では最年長だったりする。だから下の子達の世話を頼まれることが多かった。
 教会に向かう子供達の中には、サリーのように勉強会に参加する年齢に達していない子もいる。けれど勉強会の間は神官様がご厚意で誰でも預かってくれるので、家事に仕事に忙しいお母さん達は我が子を教会へ向かわせるのだった。
 教会は村から少し離れた場所にある。
 目的地まであと半分といったところで、私はマーブルの入った手提てさげカゴを頭の上にのせ、疲れたとぐずる子達を両脇に抱えて歩く。
 そうして先を行く元気な子供達に目を光らせながら、さらには後ろを歩く子供達にも声をかけつつ教会に向かった。

「おや、サラちゃん。おはよう」
「おはようございます!」

 小さいとはいえ子供を抱えて歩くなんて、普通ならありえないくらいの怪力っぷりだと思うかもしれない。
 けれど、こんな私を見ても村の人達は何も言わない。
 これが私自身の腕力によるものではなく、魔法を使っているためだと知っているから。
 そう、こんな非力な子供でも、魔法を使えば複数の子供を軽々と抱きかかえることが可能なのだ。
 この世界では、みんな何かしらの魔法を使うことができる。とはいえ、すべての人が私みたいに気軽に使えるわけではないらしい。
 不思議な話だけど、私は教えてもらう前から魔法を使うことができた。
 ちなみに子供を抱える時に使っている魔法は、強化魔法というのだと以前お父さんに教えてもらった。
 普通は、練習せずに魔法は使えない。ましてや自分が知らない魔法を発動することなんてありえないという。
 ところが私は、気づいた時には魔法が使えていた。
 最近では無詠唱で魔法が使えるようになっている。それはとても珍しいことなのだと、お母さんは言っていた。
 なんでかっていうと、魔法を使うには精霊様の協力が必要になるからなんだって。
 この世界にはたくさんの精霊様がいて、どんな精霊様が力を貸してくれるかによって使える魔法や、その効果の大きさが異なるらしい。
 たとえば火の精霊様に好かれている人は火属性の魔法が、水の精霊様に好かれている人は水属性の魔法が得意だ。力のある精霊様にお手伝いしてもらえれば、人が使う魔法も強くなるとか。
 無詠唱だと精霊様を呼ぶのは難しいから、普通はなかなかできないんだそうだ。
 ただ、普通の人間には精霊様のお姿を見ることはできないので、詳しいことはあまりわかっていないみたい。
 私は特に苦手な属性の魔法もないし、これという程得意なものもないけれど、この村にいる誰よりも魔法の扱いがうまいとみんなから言われていた。
 まあ、高度な魔法を使うことはお母さんに禁止されているので、本当のところはどうなのかわからないけどね。
 それに今は、とある理由から、みんなの私に対する期待が重すぎて困っていたりする。

「はあ……」
「ねーね、ため息ついてどうしたの?」
「だいじょーぶ?」

 無意識にため息をついていたようで、抱えている子達が心配そうにこちらを見ていた。

「大丈夫だよ! 心配かけてごめんね」

 おびに高い高いをしてあげると、子供達はきゃっきゃっと楽しそうに声を上げて笑う。
 悩んでても仕方がないし、気持ちを切り替えなくっちゃね。


 教会に着くと、いつものように神官様が教会の入り口でお出迎えしてくれた。

「「「神官様、おはようございます」」」
「「「「ごじゃいます」」」」
「みなさん、おはよう」

 神官様に挨拶あいさつをしたあと、村の集会所としても使われている教会の一室で勉強を教えてもらう。
 教会で勉強するのは五歳以上の子供達なので、四歳以下の子達は部屋の後ろのほうで遊び始めた。

「マーブル、今日もお願いね」

 私はマーブルを手提てさげカゴから抱き上げてお願いする。

「にゃん♪」

 マーブルには子供達が危険な行為をしないか、いつも見守ってもらっていた。
 子供達に何かあるとすぐに鳴き声を上げてくれる、とても頼もしい相棒なのだ。

「マーブルだ!」

 ずっとマーブルと遊びたがっていたサリーが、私に向かって手を伸ばす。どうやらマーブルを抱っこしたいようだ。

「優しくしてあげてね。マーブルも、みんなをよろしく」
「うん!」
「にゃん!」

 サリーがマーブルを抱きかかえるのを、他の子供達がうらやましそうに見ている。そんな子達のために、私はおもちゃ箱に入っている動物のぬいぐるみやお人形をいつものように風魔法で動かした。
 子供達はお人形や動物と一緒になってクルクル回ったり、飛び跳ねたりして楽しそうだ。これでしばらくは大丈夫だろう。

「サラ! 早く席座れよっ。授業が始まらねーだろ」

 ぬいぐるみ達の動きにもっと捻りを加えるべきかと考え込んでいたら、すでに着席していたライリーに怒られてしまった。七歳のライリーは、村の子供達の中では私の次に年長になる。
 ライリーの言う通り、勉強組は既に全員が席に着き、神官様も部屋に来ていて私を待っている状態だった。

「サラは相変わらずどんくさいな」
「うっ。ご、ごめんね」

 毎度のことながら、一つのことに夢中になると周りが見えなくなるのは私の悪い癖だ。
 しょんぼりしていると、ライリーと同い年のネネがフォローしてくれる。

「ライリーったら! サラちゃんが小さい子達のお世話をしてくれるから、ネネ達はお勉強に集中できるのよ。もっと感謝しないと!」

 魔法のおかげか、四歳以下の子には絶大な人気がある私だけれど、これが五歳以上の子達になると少し話が変わってくる。
 男の子達は生意気になり、女の子達はたまに年下の子を見るような目を私に向けるのだ。少し前のライリー達が、キラキラした瞳で私を見ていたのを懐かしく思いつつ、席に着く。

「今日はみんなにお話があります」

 神官様が私達を見回し、ゆっくりと口を開いた。
 私達は、普段は神官様から年齢別に出される問題を解くことが多い。
 しかし、みんな一緒に神官様のお話を聞くこともある。そういう時は、四歳以下の子供達も自然と集まってきて耳をかたむけるのだ。

「いよいよ、サラがサーズ町へ能力鑑定に行く日が近づいてきました。今回はせっかくですので、能力鑑定について話をしようと思います」

 私が暮らしているラーミル王国では、十歳の時と成人する十五歳の時の二回、能力鑑定を受ける義務がある。
 私は今年で十歳。初めての能力鑑定を数日後にひかえていた。
 そしてこの能力鑑定こそが、私の抱える悩みだったりするわけで……

「教会にある魔道具を使っておこなう能力鑑定では、各属性との相性や、習得している魔法、持っているスキル、そして称号の有無うむなど、自らの能力のすべてを知ることができます。魔法を使うことで精霊様とうと、その人に精霊様と同じ属性が備わるのはみなさんもご存じですね? 能力鑑定では、その程度が相性度として明らかになります」

 私が悶々もんもんとしている間も、神官様の説明はどんどん進んでいく。
 みんなにとってはまだ先の話だけれど、私が能力鑑定を受けることもあってか、彼らは真剣に話を聞いていた。

「各属性との相性を知ることは、自分の将来を考える指針にもなります。たとえば三年前に成人したカイは火属性と土属性との相性度が高かったため、十歳の頃に鍛冶かじ職人しょくにんになることを決めました。今は鍛冶かじ職人しょくにんのゲランさんの下で見習いとして頑張っています。もちろん、相性度が低かったからといって、あきらめる必要はありません。その属性の魔法を使うことで相性度が高くなったという話はよく聞きますからね。ただ、もともと相性のよかった属性より伸びが悪いのも事実です。やはり、より力を貸そうとしてくださる精霊様とのほうが、仲を深めやすいので、その属性の魔法をうまく扱えるようになるのでしょう」
「ネネにはなんの属性があるかな? 相性度はどのくらいだろう? 低かったらどうしよう?」
「へんっ! お、俺はもう火と風の魔法が使えるもんね! それなら二つの属性は絶対に持っているだろうし、相性度もそう低くないはず!」

 神官様の言葉にみんながざわざわする。すると神官様が「この村の子達はみんな優秀ですから大丈夫ですよ」と、みんなを安心させるように言ってくれた。
 でも、そのあとに続く言葉は余計だったと思う。

「中でもサラは特別です。きっと能力鑑定では驚きの判定が出るでしょう。私はそう確信しています」

 神官様の言葉で、みんなが一斉にこちらを見たのがわかった。
 そう、私の今の悩みはこれだ!
 みんなの私に対する、この過度な期待はいったいなんなのか。
 能力鑑定でみんなの思うような結果が出なかったらと考えると、すごく不安なのだけれど……
 そんな私の様子に気づくことなく、みんなは楽しそうに会話している。

「サラは精霊様の加護持ちに違いないって、ボクの父さんが言ってた!」
「あたしも聞いた! でも、加護持ちってなぁに?」
「それは先程お話しした、称号に関わります。称号とは、精霊様が私達にさずけてくださるもの。残念ながら、称号をいただける人はそう多くありませんが、さずかった場合には、その内容によって受けられる恩恵が変わります。そして称号は、好意持ちと加護持ちの二つに分けられます。好意持ちは、称号をさずけてくださった精霊様の属性との相性度がずば抜けて高く、称号を持たない者よりも魔法の効果が上がります。一方で加護持ちの称号を持っているのは、現在この国では四人しかいません。特別な称号で、さずかる恩恵も好意持ちよりはるかに大きいという話です。どういった恩恵なのかは私にはわからないのですが、噂では加護をさずけてくださった精霊様のお姿を見ることができるようになるとか」
「サラちゃんは精霊様のお姿を見たことあるの⁉」

 神官様の説明に、みんながこちらを期待のまなざしで見てくる。けれど、もちろんそんな経験はまったくない。
 静かに首を振る私を見て、みんなの顔ががっかりしたものに変わる。

「私が話したことはあくまで噂ですからね。サラの能力を考えれば、十分に加護持ちである可能性は残されていますよ」
「サラちゃんすごい!」
「あ、あははは。あ、ありがとう?」

 みんなに悪気がないことはわかっているので、私は引きつる顔に無理やり笑みを浮かべるのだった。


「お母さん、ただいま」
「にゃん」
「おかえりなさい」

 マーブルと一緒に家に帰ると、お母さんが私のお出かけ用の服をつくろっていた。
 プラチナブロンドの髪と紫の瞳を持つお母さんは、村一番の美人と評判だ。ムートさんという旅商人がお母さんを一目見てすぐに結婚の申し込みをしたと言えば、お母さんの美人っぷりがよくわかるだろうか?
 お父さんの一睨ひとにらみでムートさんはすぐに申し込みを撤回したそうだけど、優しくって、とってもきれいなお母さんは私の自慢だ。

「お父さんは?」
「今日は門番のお仕事だって言ってらしたから、もう少ししたら帰ってくるんじゃないかしら?」

 赤い髪に藍色あいいろの瞳を持つお父さんもなかなかの男前で、この村を守るために結成された防衛団の団長を務めている。村の周辺を巡回して魔物を倒したり、盗賊をやっつけたりと、強くてかっこいいお父さんももちろん私の自慢だ。
 お母さんはお父さんに命を助けてもらったのがきっかけで知り合い、結婚したんだって。その時のお父さんはとても素敵だったのだと頬を染めて教えてくれた。
 まるで物語のような出会いなので、もっと詳しい話を聞きたくなるのだけど、「サラが大人になったらね」といつもなぜかはぐらかされてしまう。
 ちなみにそんな美男美女びなんびじょの両親から生まれた私の外見は、悲しいことに平々凡々へいへいぼんぼん。茶色の髪に瞳は翡翠色ひすいいろで、二人に似たところが一つもない。でも、お祖父様に似ているのだそうだ。
 小さい頃、両親に似ていないと言われる度に落ち込んでいた私に、お母さんはお祖父様の絵姿が入ったロケットペンダントを見せてくれた。
「大好きなお父様に似ていて嬉しい」とお母さんが言ってくれたから、それからは何を言われても平気になった。

「そういえば、今日は能力鑑定について神官様がお話ししてくれたよ。能力鑑定は魔道具を使っておこなうんだね」
「その通りよ。魔道具について他にも習ったことはあるかしら?」

 マーブルを手提てさげカゴから出してやり、らしたタオルで足をいてあげながら、お母さんに今日教えてもらったことを披露ひろうする。

「えっと、魔道具は魔法が付与された道具のことで、とっても希少なものだからすべての町や村に置いておくことができないんだって。だから能力鑑定のためには、大きな町にある教会に行く必要があるんだよね?」
「正解よ。よく勉強したわね」
「えへへー」
「セレナ、サラ、今帰ったぞー!」
「あ! お父さんの声だ!」

 お母さんに頭をでられ喜んでいると、お父さんがたくさんの野菜を両脇に抱えて帰ってきた。

「まあ! マーク、そのお野菜はどうしたの?」
「帰る途中で村のみんなにもらったんだ。数日後にサラが能力鑑定をひかえているだろう? みんなサラに何かしてやりたくて仕方がないみたいだな」
「サラ、明日にでもお礼を言いに行きましょうね。それにしても、食べきれるかしら?」
「……」
「にゃ?」

 二人の話をよそに、私はマーブルの体を抱き上げてぎゅっと抱き締める。
 マーブルが不思議そうに首をかしげるけれど、大人しく抱き締められたままでいてくれた。

「サラ、どうした?」
「……私、精霊様のご加護があると思う?」
「あんなに上手に魔法が使えるのだもの、大丈夫よ」
「うん……」

 ここ数日、能力鑑定を受けるのが不安になっていた。
 もし、みんなの期待にこたえられなかったら……
 うつむいていると、お母さんが私をマーブルごとぎゅっと抱き締めてくれた。

「精霊様のご加護がなかったとしても、大丈夫。あなたは私達のかわいい娘よ。村の人達が何か言ってきたら、お父さんにお仕置きしてもらいましょう」
「かわいい娘のためなら、お父さん頑張っちゃうぞ!」

 お父さんはそう言って、私に向かって力こぶを作って見せてくれる。


 お父さんが頑張ったら、村の人達は無事ではすまなそうだ。
 でも、私のためだと思うと嬉しいな。

「二人とも、ありがとう。もし、加護がなかったとしても気にしないね! だから、村の人達にはお仕置きしないで!」

 二人にお礼を言うと、マーブルが私の手を必死でペロペロとなめてきた。
 まるで僕もいるよと言っているみたい。

「マーブルもありがとう」
「にゃん!」

 そうだよね。なるようにしかならないんだから、あまりくよくよ考えるのはやめよう!
 ――この時の私は、まさか加護の称号がかすむようなとんでもない称号が自分についているとは露知つゆしらず、のんきに笑っていたのだった。


   ◇◇◇


 そして数日後、ついに能力鑑定を受けにサーズ町に行く日がやってきた。
 明け方の出発だったにもかかわらず、村のみんなはわざわざ集まって見送ってくれた。
 それから馬車にられること二時間。私達一家はサーズ町の門の前で検問の順番を待っていた。
 サーズ町は全体を巨大な壁で囲まれていて、門の前には長蛇の列。ククル村とは規模が違いすぎて、その大きさに圧倒されてしまう。
 私が呆気あっけにとられている間にも、少しずつ列は進んでいった。
 お父さんが言うには、このまま順調にいけば一時間程で町に入れるらしい。

「マーブルは教会の中に連れていけるかなぁ」

 私の手に頭をりつけてくるマーブルをでながら、お母さんに尋ねる。

「そうねぇ。神官様におうかがいして、もし無理ならお母さんがマーブルと一緒に外で待ってるわ」

 本当はマーブルを連れてくるつもりはなかった。
 マーブルを一匹で残していくのはかわいそうだけど、お母さんに人ごみでパニックになって逃げ出すかもしれないと言われて、連れていくのをあきらめることにしていた。


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