先輩たちの心の声に翻弄されています!

七瀬

文字の大きさ
6 / 20
第1章

第5話


「……はぁ」

不破先輩と橘先輩と出会ってから、俺の日常は少しずつ変わり始めている。心の声が聞こえる能力のことは相変わらず謎のままだけど、二人といる時間は不思議と心地よかった。

「綾瀬、次の時間体育だぞ?」

「…っ!」

思考の渦に沈んでいたせいで、遠くから声をかけられた瞬間、心臓が飛び跳ねた。

振り向けば、長谷川が教室のドアの近くに立って俺の方を見ていた。教室には誰も残っておらず、俺が最後なのだろう。考えすぎて周りが見えていなかった。

「ありがとう、長谷川」

「お、おう」

友達がいないのは辛いが、クラスメイトは事務的な連絡はしてくれる。完全にはぶかれているわけではないのでありがたい。

そして、俺は慌てて更衣室へ向かった。


****


日差しが容赦なく降り注ぎ、グラウンドの白線が陽炎に揺れている。
夏の気配を孕んだ空気はむっとするほど熱く、立っているだけでじんわりと汗がにじんだ。

「それじゃあ、二人組を作って準備体操しろー!」

体育教師の号令に、クラスメイトたちはざわざわと動き出す。
自然に隣同士で組む者、仲のいいグループ同士で集まる者──皆が笑顔で声を掛け合っている。

俺はというと、列の端っこに立ちながら、取り残されるのを待つしかなかった。
案の定、数を数えれば奇数。
あの陽キャ集団が、目配せして小さく輪をつくるのが見えた。

……またか

わざわざ俺と組むかどうかを“決める”ために、彼らはひそひそとじゃんけんを始める。
本人たちはうまく隠しているつもりだろう。
でも、こちらから見れば、まるで俺を避けることを当然のように楽しんでいるようにしか見えない。

嫌われてるんだ。罰ゲームみたいなもんだろ……

胸の奥がじくじくと痛む。
それでも表情には出さないように、黙って立ち尽くした。

「……よっしゃ、俺だな」

手をひらひらと振りながら、長谷川がこちらに歩いてくる。
どうやらじゃんけんの勝者は彼らしい。
勝ったのに、俺と組むはめになる――やっぱり“外れくじ”みたいなもんだ。

「よろしくな」

そう言って差し出された手に、恐る恐る触れる。
その瞬間──頭の中に、鮮明な声が流れ込んできた。

《うわ、綾瀬の肌、柔らか……! しかも細っ! めっちゃ華奢だな……》

……え?

予想だにしなかった言葉に、思わず長谷川の顔を見上げてしまう。
彼は特に変わった様子もなく、むしろ少し照れ隠しのように目を逸らしていた。

……罰ゲームなんかじゃ、なかった……?

ストレッチは淡々と進んでいく。首を回し、肩を伸ばし、背中を反らす。動作一つひとつで、長谷川と軽く手や腕が触れ合うたび、俺は無駄に心拍数が上がっていた。

そしてまた──聞こえてしまう。

《なんか力抜けてるな。壊れそうなくらい細い……ほんと、人形みたい》

《綾瀬って無口だから近寄りにくいと思ってたけど、こうしてみると普通に……いや、むしろ可愛いんじゃ》

…か、可愛い……?

その単語があまりにも自分に似合わなくて、頭が一瞬真っ白になる。
俺はずっと、嫌われ者で、目立たない存在で……せいぜい「暗い」と思われているくらいだと信じていたのに。

視線を泳がせると、長谷川はいつも通り、少し汗ばんだ額を拭いながら真剣に動きを合わせている。俺が彼の心の声を聞いて動揺しているなんて、まるで気づいていない。

いや、そもそもこれは“俺に向けられた好意”じゃなくて、ただの感想みたいなものだろ。アイドルを見て可愛いって言うのと同じ……そうに決まってる

「おい、ちゃんと伸ばせ。ほら」

長谷川が俺の腕を軽く引っ張った。驚いてバランスを崩しかける。

「わっ……」

「おっと、大丈夫か」

慌てて支えてくれた長谷川の掌が、また俺の肩に触れる。

《近っ……思ったより顔整ってんのな。睫毛なが…》

やめろ……!

心の声が生々しすぎて、思わず赤面しそうになる。
俺は慌てて距離をとり、「だ、大丈夫」とだけ言って背を向けた。

周囲では他のクラスメイトたちが笑い合っている。
「お前柔らけーな!」とか「力入りすぎだろ!」なんて、気楽な声が飛び交う。
その輪に入れない自分が情けなくて、けれど今は少しだけ、その孤独が和らいでいる気がした。

嫌われてるんじゃない……少なくとも、長谷川には


****


試合を終えて、クラス全員が水筒を手に一息つく。焼けつく日差しの下で息を整えながら、俺もタオルで汗をぬぐった。

「お前、思ったより走れてんじゃん」

隣に腰を下ろした長谷川が、笑い混じりに声をかけてくる。

「……いや、全然」

俺は肩で息をしながら顔をそむけた。

「お前さ、もっと堂々としてりゃいいのにな」

長谷川はタオルを首にかけながら、当たり前のように言った。

「……俺には無理だよ」

苦笑して返すと、彼は「そうか?」と肩をすくめる。
その仕草が妙に気楽で、力の抜けた笑顔に、心の緊張が少し溶けていくのを感じた。

授業が終わるとまた孤独な日常に戻るだろう。
でも、今この瞬間だけは──。
俺は確かに“普通に”受け入れられている。

それだけで、胸の奥がふっと軽くなった。



感想 0

あなたにおすすめの小説

地味な俺は、メイクしてくるあいつから逃げたい!!

むいあ
BL
___「メイクするなー!帰らせろー!!」___ 俺、七瀬唯斗はお父さんとお母さん、先生の推薦によって風上高校に入ることになった高校一年生だ。 風上高校には普通科もあるが、珍しいことに、芸能科とマネージメント科、そしてスタイリスト科もあった。 俺は絶対目立ちたくないため、もちろん普通科だ。 そして入学式、俺の隣は早川茜というスタイ履修科の生徒だった。 まあ、あまり関わらないだろうと思っていた。 しかし、この学校は科が交わる「交流会」があって、早川茜のモデルに選ばれてしまって!? メイクのことになると少し強引な執着攻め(美形)×トラウマ持ちの逃げたい受け(地味な格好してる美形)

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

春野くんち―僕の日常は、過保護な兄弟たちに囲まれている―

猫に恋するワサビ菜
BL
春野家の朝は、いつも賑やかで少しだけ過保護。 穏やかで包容力のある長男・千隼。 明るくチャラめだが独占欲を隠さない次男・蓮。 家事万能でツンデレ気味な三男・凪。 素直になれないクールな末っ子・琉生。 そして、四人の兄弟から猫のように可愛がられている四男の乃空。 自由奔放な乃空の振る舞いに、兄たちは呆れながらも、とろけるような笑顔で彼を甘やかす。

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜

小屋瀬
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。 主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。 他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆ 〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定) アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。 それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 【超重要】 ☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ) また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん) ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな! (まぁ「長編」設定してますもん。) ・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。 ・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。 ・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。

魔王様の執着から逃れたいっ!

クズねこ
BL
「孤独をわかってくれるのは君だけなんだ、死ぬまで一緒にいようね」 魔王様に執着されて俺の普通の生活は終わりを迎えた。いつからこの魔王城にいるかわからない。ずっと外に出させてもらってないんだよね 俺がいれば魔王様は安心して楽しく生活が送れる。俺さえ我慢すれば大丈夫なんだ‥‥‥でも、自由になりたい 魔王様に縛られず、また自由な生活がしたい。 他の人と話すだけでその人は罰を与えられ、生活も制限される。そんな生活は苦しい。心が壊れそう だから、心が壊れてしまう前に逃げ出さなくてはいけないの でも、最近思うんだよね。魔王様のことあんまり考えてなかったって。 あの頃は、魔王様から逃げ出すことしか考えてなかった。 ずっと、執着されて辛かったのは本当だけど、もう少し魔王様のこと考えられたんじゃないかな? はじめは、魔王様の愛を受け入れられず苦しんでいたユキ。自由を求めてある人の家にお世話になります。 魔王様と離れて自由を手に入れたユキは魔王様のことを思い返し、もう少し魔王様の気持ちをわかってあげればよかったかな? と言う気持ちが湧いてきます。 次に魔王様に会った時、ユキは魔王様の愛を受け入れるのでしょうか?  それとも受け入れずに他の人のところへ行ってしまうのでしょうか? 三角関係が繰り広げる執着BLストーリーをぜひ、お楽しみください。 誰と一緒になって欲しい など思ってくださりましたら、感想で待ってますっ 『面白い』『好きっ』と、思われましたら、♡やお気に入り登録をしていただけると嬉しいですっ 第一章 魔王様の執着から逃れたいっ 連載中❗️ 第二章 自由を求めてお世話になりますっ 第三章 魔王様に見つかりますっ 第四章 ハッピーエンドを目指しますっ 週一更新! 日曜日に更新しますっ!

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

ひみつのモデルくん

おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。 高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎ 主人公総受け、総愛され予定です。 思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。 後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。