先輩たちの心の声に翻弄されています!

七瀬

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第2章

第12話 遙真様のために side:親衛隊

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遙真様が入学して、1ヶ月もしないうちに俺たち親衛隊はできた。

最初は偶然だった。同じ日に何人かが、遙真様に惹かれて、自然と周りに集まった。

だけど、時間が経つにつれて、それは組織化していった。

3年生から1年生まで、30人以上のメンバーが、遙真様を守るという大義名分の下に集まった。

遙真様を見ると、胸が高鳴った。
あの透き通るような肌。長い睫毛。完璧な横顔。
何もかもが、他の誰とも違っていた。

──だから、誰にも触れさせたくなかった。

最初、それは「守りたい」という気持ちだと思っていた。でも、時間が経つにつれ、その気持ちは歪んでいった。

遙真様のそばにいるのを許されたのは、ただ二人──幼なじみの藤原千隼と神崎奏多だけだった。
正直、初めのうちは憎らしくて仕方がなかった。けれど、二人といる時の遙真様は、まるで花が咲いたように笑ったり、驚いたような顔を見せたり、普段は決して見られない表情を浮かべるのだ。

そんな姿を見るたび、胸の奥がざわついた。
羨ましさなのか、悔しさなのか、自分でもわからない。
けれど、やがて気づいた。
あの二人がいるからこそ、遙真様は笑えるのだと。それを認めるのは少しだけ悔しいけれど、同時に、どこか救われる気もした。

しかし、不破と橘が近づきすぎたとき、俺たちは彼らを遠ざけた。幼なじみでもない彼らは遙真様に近づく資格なんてないのだ。

「遙真様は俺たちが守る」

その言葉を繰り返しながら。

でも、本当のところ、それは妬ましかった。

二人が遙真様と話しているのが、笑っているのが、近くにいるのが。全部、全部、妬ましかった。

田中と長谷川が話しかけようとしたときも、同じだった。

「遙真様に近づくな」

その声には、怒りが込められていた。
自分たちだけが遙真様を独占したい。
その欲望を、「守る」という言葉で誤魔化していた。

俺たちは、遙真様の周りに見えない壁を作った。

その壁の内側に、遙真様を閉じ込めることで、遙真様を独占していた。

完璧な庭園の花のように。
誰にも触れさせない。
誰にも傷つけさせない。

でも、本当は、誰にも近づかせたくないだけだった。


****


今日、それが壊れた。

階段から落ちる遙真様。

あの一瞬、心臓が止まった。
俺たちは何もできなかった。

遙真様を守るはずだったのに。
遙真様を守ってやることができなかった。

その無力感に、俺たちは絶望した。

そして、5限が始まって少し時間が経った頃。

窓の外を何気なく見ていると、遙真様が見えた。
心臓が高鳴った。あの子だ。遙真様だ。

だけど、次の瞬間、その高鳴りは、急速に冷え込んでいった。

遙真様は、一人じゃなかった。

金髪の外国人が、遙真様の肩に手を置いていた。
遙真様は、その外国人に寄りかかっていた。

こんな様子、俺たちは見たことがない。

遙真様は、いつも一人で歩いていた。
俺たちの視線を受けながら、静かに教室に向かっていた。

でも、今は違う。

その外国人のそばにいる遙真様は、少し笑っていた。

その笑顔を見たとき、俺の胸は締め付けられた。
遙真様のその笑顔は、誰のためのものなのか。
その外国人のためのものなのか。
それなら、俺たちは何だったのか。

遙真様を守ってきた俺たちは、何だったのか。

外国人は、遙真様を車に乗せた。
黒いセダン。高級そうな車。

二人は去っていった。

放課後、親衛隊の会議が開かれた。
いつもの場所──3年生の空き教室。

集まったメンバーたちの表情は、いつもと違っていた。

不安。怒り。そして、深い喪失感。

佐藤が立ち上がった。

彼は俺たちのリーダーで、遙真様への想いも一番強い男だ。

だから、その表情には、他の誰よりも深い絶望があった。

「あの外国人は誰だ?」

その声は、震えていた。

「彼氏に違いない」

田代がそう言った。
その言葉が、空気を切り裂いた。

彼氏。

その言葉が、俺たちの心を揺さぶった。

遙真様に、彼氏がいるだと?
俺たちが知らないうちに?
俺たちが守ってるはずの遙真様が?

「階段から落ちたのは、本当だったんだ。だから、その外国人が迎えに来たんだ」

別の1年生が言った。

「あの優しさ……ただの知り合いじゃない。あんなふうに肩を支えるか?あんなふうに笑いかけるか?」

その言葉を聞いて、何人かが顔を伏せた。
遙真様の笑顔。
俺たちは、あんな笑顔を見たことがない。

「俺たちは遙真様を守るはずだったのに……」

1年生の誰かがつぶやいた。

その言葉に、全員が沈黙した。
重い空気が、教室を満たした。
俺たちが守るはずだったのに。
俺たちが遙真様を独占するはずだったのに。

外国人が現れた。

そして、遙真様を奪っていった。

「その外国人の正体を調べろ」

佐藤の声は、冷たかった。

でも、その冷たさの下には、深い怒りが隠れていた。

「名前、年齢、どこから来たのか。全部、把握する必要がある」

「了解」

メンバーたちが返事をする。
でも、その返事は、いつもより重かった。

「遙真様がどこにいるのか。何をしているのか。全部、知る必要がある」

佐藤は、もう遙真様を「守る」とは言わなかった。

『把握する』

その言葉の意味は、大きく異なっていた。

俺は、何も言わずにその光景を見ていた。
心の中には、複雑な感情が渦巻いていた。
遙真様を守りたいという気持ち。
遙真様を独占したいという気持ち。

そして、遙真様が自分たちのコントロールから外れていくことへの、深い恐怖。

後悔も感じていた。

俺たちが遙真様の周りに壁を作らなかったら。
俺たちが遙真様を独占しようとしなかったら。

もしかして、遙真様はもっと自由だったのかもしれない。
もっと笑っていたのかもしれない。
階段から落ちなかったのかもしれない。

でも、今さらそんなことを言っても、遅い。
遙真様は、外国人と一緒に去ってしまった。
遙真様への執着が、どんどん形を変えていくのを感じていた。

守りたいという気持ちから、支配したいという気持ちへ。

支配したいという気持ちから、取り戻したいという気持ちへ。

その変化に気づきながらも、誰も声を上げない。

みんな、その感情に溺れている。
遙真様という名前を呟くだけで、心が満たされる。
遙真様のためなら、何だってできる。
その感情は、もう愛ではなく、執着になっていた。

でも、誰もそれを認めようとしない。俺も含めて。

だから、会議は続く。

外国人の正体を調べる。
遙真様を『把握する』。
その名目の下で。

その夜、俺は一人で考えていた。

本当に俺たちは、遙真様を守ってるのか。
それとも、遙真様を檻に閉じ込めているのか。

その答えは、いまだに出ない。

だけど、一つ確かなことがある。
遙真様は、俺たちを必要としていない。
それなのに、俺たちは遙真様を手放すことができない。

その矛盾に気づきながら、俺たちは遙真様のために動き続ける。

遙真様のために。

その言葉を繰り返すことで、俺たち自身の心を誤魔化しながら。

そして、それが間違っていることに、気づいていながら。


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