知りたくもなかった。

第二夜

数時間後、私の知らない番号からスマホが鳴った。彼の友達だった。
「…ゆうき、死んだって」
友達の声が、やけに落ち着いていたのを覚えてる。

⸻

彼の部屋には、簡素な遺書が置いてあった。
「ごめん。生きるのが苦しくなりました。君のせいじゃありません」
それだけだった。

わからなかった。
彼は何も言っていなかったし、むしろずっと優しかった。
笑って、頷いて、「大丈夫」と言ってくれていた。
だから私は、何も気づかなかった。

でも、彼の部屋の引き出しから出てきたノートは、私をひっくり返した。

6月1日
彼女の誕生日。店に出るって言ってた。わかってたけど、想像以上に堪えた。
あの笑顔が、自分のためじゃないってだけで、こんなに壊れるなんて思わなかった。
“応援してる”って、ただの言い訳だったのかもしれない。
僕は、彼女のすべてを愛せる人間じゃなかったんだ。

その日を、私はドレスに包まれて、シャンパンの泡と客の笑い声の中で過ごしていた。
「おめでとう」って言われるたび、営業スマイルを浮かべながら、「ありがとう」と返していた。

⸻

彼の葬儀で、私は彼の友達に会った。
ふたりで話したことはなかった。
「私…、夜の仕事、してました」
そう言ったとき、その友達は少しだけ眉を寄せて、視線を逸らした。
「……そう、なんだ」
たったそれだけ。でも、それで十分だった。
私のことを責めるような、でも悲しむような、その曖昧な目が答えだった。