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始まりの村 1
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奥行きがなくても、正面と真横と真後ろしか向けなくても、装備を同じにすると誰が誰だか分からなくなってしまっても…。
私はこの世界が皆が大好きだったし、守りたいと思った。だから守る為の冒険は全然苦じゃなかった。共に泣き、笑い、支え合える素晴らしい仲間に出会うことも出来た。最後は、死闘をくぐり抜け念願の魔王討伐まで果たす事が出来た。だから20年の間、嫌になったことなんて一度もない。
例え、11才の旅の出発から魔王を倒して世界に平和を取り戻し、「平和をもたらした乙女」となるまでを何百回、いや何万回繰り返そうとも。
そう、ドット絵の世界の冒険で嫌になることなんてなかったのに──。
「あ~、なんでこーなっちゃった?もぅイヤ!ホント無理っ!」
ダンッと持っていたジョッキ樽を乱暴に置いて、そのままカウンターに突っ伏す。
私の名前はリディア。ドット絵の時は11才、今のビジュアル重視のハイグラフィックなゲーム設定では16才の体をしてる。
しかし、20年間の戦いの記憶と経験はばっちり覚えており、実質中身は31。乙女と名乗るには痛い年齢だ。
「女の子がそんなになって、何かあったのかい?」
ウッド調の綺麗な室内に、雰囲気のあるバーカウンター。
そのカウンター越しに優しく話しかけてくれたのは、ドット絵のおじさんだった。彼は宿屋兼酒場であるこの建物の店主だ。
グローブのような手で器用にグミの入った小皿を差し出してくれる。
「ありがと、おじさん」
おじさんと言っても名がないキャラなのでそう呼んでるだけで、別に血の繋がりのある叔父というわけではない。
私はグレープ味を一個、口に放り込んだ。サクリと砕けて味と香りを残しスッと溶ける。この世界でのグミは砂糖菓子のような食感だ。
「グミってさ、もっとプニプニして柔らかい物だと思ってた。それにそれぞれ味も違うし。ハイグラフィックになって味覚とか五感がはっきり感じられるようになったのは嬉しいかな」
「そーなのかい?俺はなったことないから分からないが…、ドットは汚れとか着替えの心配もないし、いちいち表情変える必要もないから楽でいいよ」
「だよね~。電子音じゃなくてちゃんと声で喋ってるんだから感情伝わるし、表情変える必要性を感じないってのはある」
「じぁあ、ハイグラフィックになったことが嫌なのかい?」
「ううん。そーじゃないんだけど…」
会話を続けようとしたらガヤガヤと店内が騒がしくなる。
「おっと、もう12時か。ごめんな、ランチタイムだ」
振り返ると、さっきまでまばらだったテーブル席がドット絵のお客さんで埋まっていた。
「忙しい時間になっちゃったね、長居しちゃってごめん。これ代金」
「まいどー。またおいで」
代金、というワードにテンプレ台詞を言った後、おじさんはもう一回「また今度続き聞いてやるからな」と声をかけてくれる。
慌ただしく汗の滴を飛ばしながら、ランチタイムの12時から14時とディナータイムの18時から21時まで、店内を行ったり着たりするのが彼の設定だ。
騒がしくなった店内から出ると、どこまでも澄んだ綺麗な青空に丸みを帯びた白い雲。心地よい風が頬を撫で髪をなびかせた。
ドットの時には感じることの出来なかった、細かくて繊細な感覚の心地よさにゆっくり深呼吸する。
ここは、私の生まれ育った村。元のゲームではここから旅立つので「始まりの村」と呼ばれている。
一応、ケノノっていう名前もあるんだけど通称の方がメジャーな呼び方なので、村の正式名はあまり知られていない。程よい田舎に最低限必要な設備と規模。最初のレベル上げの拠点にするにはもってこいの村だ。
さっきのバーカウンターのように、シーン撮影用で写実的な風景の所もあるが、基本は慣れ親しんだドット絵。村の人もストーリー上、大切な役割のある人物以外は皆ドット絵。
最初は画素数の違いに戸惑うこともあったけど、今ではだいぶ慣れたものだ。
そんなことをぼんやりと思いつつ歩いていると、前方に見慣れた後ろ姿が目に入った。
私はこの世界が皆が大好きだったし、守りたいと思った。だから守る為の冒険は全然苦じゃなかった。共に泣き、笑い、支え合える素晴らしい仲間に出会うことも出来た。最後は、死闘をくぐり抜け念願の魔王討伐まで果たす事が出来た。だから20年の間、嫌になったことなんて一度もない。
例え、11才の旅の出発から魔王を倒して世界に平和を取り戻し、「平和をもたらした乙女」となるまでを何百回、いや何万回繰り返そうとも。
そう、ドット絵の世界の冒険で嫌になることなんてなかったのに──。
「あ~、なんでこーなっちゃった?もぅイヤ!ホント無理っ!」
ダンッと持っていたジョッキ樽を乱暴に置いて、そのままカウンターに突っ伏す。
私の名前はリディア。ドット絵の時は11才、今のビジュアル重視のハイグラフィックなゲーム設定では16才の体をしてる。
しかし、20年間の戦いの記憶と経験はばっちり覚えており、実質中身は31。乙女と名乗るには痛い年齢だ。
「女の子がそんなになって、何かあったのかい?」
ウッド調の綺麗な室内に、雰囲気のあるバーカウンター。
そのカウンター越しに優しく話しかけてくれたのは、ドット絵のおじさんだった。彼は宿屋兼酒場であるこの建物の店主だ。
グローブのような手で器用にグミの入った小皿を差し出してくれる。
「ありがと、おじさん」
おじさんと言っても名がないキャラなのでそう呼んでるだけで、別に血の繋がりのある叔父というわけではない。
私はグレープ味を一個、口に放り込んだ。サクリと砕けて味と香りを残しスッと溶ける。この世界でのグミは砂糖菓子のような食感だ。
「グミってさ、もっとプニプニして柔らかい物だと思ってた。それにそれぞれ味も違うし。ハイグラフィックになって味覚とか五感がはっきり感じられるようになったのは嬉しいかな」
「そーなのかい?俺はなったことないから分からないが…、ドットは汚れとか着替えの心配もないし、いちいち表情変える必要もないから楽でいいよ」
「だよね~。電子音じゃなくてちゃんと声で喋ってるんだから感情伝わるし、表情変える必要性を感じないってのはある」
「じぁあ、ハイグラフィックになったことが嫌なのかい?」
「ううん。そーじゃないんだけど…」
会話を続けようとしたらガヤガヤと店内が騒がしくなる。
「おっと、もう12時か。ごめんな、ランチタイムだ」
振り返ると、さっきまでまばらだったテーブル席がドット絵のお客さんで埋まっていた。
「忙しい時間になっちゃったね、長居しちゃってごめん。これ代金」
「まいどー。またおいで」
代金、というワードにテンプレ台詞を言った後、おじさんはもう一回「また今度続き聞いてやるからな」と声をかけてくれる。
慌ただしく汗の滴を飛ばしながら、ランチタイムの12時から14時とディナータイムの18時から21時まで、店内を行ったり着たりするのが彼の設定だ。
騒がしくなった店内から出ると、どこまでも澄んだ綺麗な青空に丸みを帯びた白い雲。心地よい風が頬を撫で髪をなびかせた。
ドットの時には感じることの出来なかった、細かくて繊細な感覚の心地よさにゆっくり深呼吸する。
ここは、私の生まれ育った村。元のゲームではここから旅立つので「始まりの村」と呼ばれている。
一応、ケノノっていう名前もあるんだけど通称の方がメジャーな呼び方なので、村の正式名はあまり知られていない。程よい田舎に最低限必要な設備と規模。最初のレベル上げの拠点にするにはもってこいの村だ。
さっきのバーカウンターのように、シーン撮影用で写実的な風景の所もあるが、基本は慣れ親しんだドット絵。村の人もストーリー上、大切な役割のある人物以外は皆ドット絵。
最初は画素数の違いに戸惑うこともあったけど、今ではだいぶ慣れたものだ。
そんなことをぼんやりと思いつつ歩いていると、前方に見慣れた後ろ姿が目に入った。
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