【R18】酒蔵御曹司は意地っ張りちゃんを溺愛したいし、なんならもはや孕ませたい【本編完結】

にしのムラサキ

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誤解

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 全部、嘘かもね──なんて思いながら目を覚ます。

(楢村くんはゴム無しでシたかっただけで、私はホイホイいつも通り楢村くんに逆らえなかっただけ──だったり、して)

 そんな現実が待ってるかも。
 ……いや、楢村くんが結婚したがってるのは(なぜか)本当なんだっけ? 先にお母さんに紹介(?)されちゃってるし……

(謎すぎる……)

 ぱちりと瞬きを繰り返す。
 量販店のクリーム色のカーテン、差し込んでくる夏の朝日。……ていうか、暑っ!
 汗でベトついた身体を動かそうとするけれど、やっぱり無理。楢村くんに抱きこまれているから──

「楢村くん、離して。エアコンつけたい……」

 タイマーになっていたらしいクーラーを動かしたくてそう口を開く。楢村くんは少しだけ眉をひそめたあと、ぱちりと目を開いて私の額にキスをした。

「おはよう」
「……お、おはよ?」

 挙動不審になってしまった私を尻目に、楢村くんがリモコンのボタンを押す。ほどなくして稼働するエアコンに、私はそっと息を吐いた。
 床にはぐちゃぐちゃな浴衣。……まあ、クリーニング出すから……

「瀬奈」

 楢村くんに呼ばれて、また抱きしめ直される。

「とりあえず家探したいんやけど、どう思う」
「家……?」
「いま実家やねん。同居イヤやし……そのうち買うにしても、とりあえず賃貸でマンションかなんか探そうかと」
「……え、あ、うん……?」

 あれ? なんかすっごく話進んでない……?

「どの辺がいい? 職場元町やんな」
「あ、うん……」
「その前に瀬奈のご両親にご挨拶やな」
「はあ」
「来週とか再来週あたり、どうやろ」
「ら、来週?」

 ん、と楢村くんは頷く。

「忙しくなる前に。ほんま急で悪いんやけど」
「え、あ、うん……」

 淡々と言われて、思わず頷く。楢村くんは「で」と話を区切った。

「籍、いついれる?」
「籍」
「今日?」
「ば、ばかじゃないの」

 さすがに突っ込む。
 今日って!

「……ダメか」
「だめに決まってるじゃん!」
「せやんな、ご挨拶もまだやのに」

 そういう問題じゃない。
 そういう問題じゃないんだよ楢村くん──!

(か、考えてることがわかんない……!)

 そう思いながらも、気が付けば身体をまた弄られていて──

「ま、待って。さすがにシャワー……」
「なんで」
「なんでって!」

 なんでって、そりゃ、絶対汗臭いし!
 でも楢村くんはなんでもないことのように返す。

「瀬奈のにおい好きやし」
「す、好き!?」
「好き」

 そう言われて、また抱かれて、ナカにたくさん、出されて──

(……怒涛だった……)

 軽くおでこに手を当てる。
 九月に入ったばかりの、また夏色を浮かべている空には、ぽっかりと入道雲。
 あれから二週間──で、本当にウチの親にも挨拶に行って、今からは楢村くんのお母さんに改めてご挨拶、するところで……

(展開が早過ぎる……)

 追いつけてない。全然追いつけてない。
 結局あのあと生理が来て、赤ちゃんはできていなかったのだけれど……
 ていうか、タイミング見て別れるつもりだったのに──いつの間にやら、後戻りできないところまで来てしまっている。

「瀬奈、こっちや」

 楢村くんに連れられて、二度ほどか取材でお邪魔していた酒蔵の横を抜ける。

「……わあ」

 純日本風のお庭が、裏手にあった。いろはもみじに、苔むした石と小さな池。そこには錦鯉が泳いでいた。ふと目線を向けると鹿威し、っていうんだろうか、かぽーんって鳴る例のやつ。
 シャワシャワとまだまだ健在なセミの声が降り注ぐ。木の葉を擦り抜けて落ちる陽射しが、きらきらと輝いていた。

「綺麗なお庭……」
「餌やる?」

 楢村くんが言ってるのは鯉の話みたいだった。……あれ、なんか……こころなしか、テンション高くない?
 珍しい彼のテンションにやや困惑しつつ、気がつく──もしかして、あれ、おうち……?

(でかっ)

 お庭の先に見えたのは、晩夏の陽光に照らされた純和風の邸宅。
 そう、家じゃない。邸宅。邸宅だこれ。

「な、なにこれ」
「? 古いやろ」
「いやあ、古いっていうか……」
「明治の初めらしいわ。建ったの」

 クソ古いやろ間取り使いづらいねん、と楢村くんはなんでもないように言った。なんて答えたらいいものか迷って「へぇーん」とだけ、なんとか返して……そこで。

「おい坊、──あ、今日嫁さん一緒か。ほんなら若社長~」
「田中さん、ほんまその呼び方やめてください」

 お庭の向こう側、酒蔵のほうから作業服の男性が楢村くんを呼ぶ。

「ちょお来てや!」
「俺休みなんすけど!」
「休みなんてまだ坊には早い! いつも言ってるやろ、責任感もっと持て」

 楢村くんは唇に「むう」って感情を一瞬浮かべて、それから私を見る。

「瀬奈、ちょっとだけここいてくれるか? まだ時間あるし鯉でもみとって、すぐ戻る」
「え、あ、うん」

 こくこくと頷く。楢村くんはなんでか私の頭を一瞬撫でて、早足で酒蔵のほうへ向かう。
 ……ご両親と鉢合わせしたら気まずい気もするけれど、まあ一度お会いしてるし……と、池の鯉を見下ろした。
 ふ、と背後に影がさす。
 振り返ると──大きなひと、がいた。思わず眼を瞠る。その人が、あまりに美しい造形をしていたから。
 ──造形、なんて生きている人間に使うのは変なのかもしれないけれど、思わず使っちゃうくらいに綺麗な男の人、だった。
 ギリシャ彫刻のように彫りの深い顔立ち、すうっと流れる眦に、ブルーグレーの瞳。

「こんにちは」

 その人が微笑んで、関西なまりの挨拶をしたことに……一瞬、気がつかなかった。日本語……どころか、その綺麗な唇が言葉を発するとは思わなかったのだ。

「あれ? こんにちは。コーセーの婚約者サンやんな」
「へ? ……ええっと、はい、そ、そうです」

 そうだ楢村くん、昴生だ。一瞬ぽかんとしちゃったや──ていうか、この人喋るんだ。当たり前か、当たり前なんだけれど──
 その人はにっこりと微笑みをたたえた。それだけで、彫刻のようだと思った印象は崩れて、一気に親しみやすい印象へと変わる。不思議な人だと──そう思った。

「こんなところでどうしたん」
「あ、えっと……楢村、くんが、ちょっと呼ばれて」
「ふうん?」

 私はその人を観察する──今更だけれど、楢村酒造の作業着を着ていた。あれ、従業員さん? それにしては楢村くんのこと、「コーセー」って仲良さげに呼んでいたけれど……

「ああ」

 その人は笑みを深めた。そうして続ける。

「はじめまして──自己紹介が遅れました。僕はエリ・ドゥトワ、コーセーのイトコです」
「……」

 私は思いっきり、ぽかんと彼を見つめた。

「えっ、……と。エリ、さん……?」
「ハイ」

 不思議そうに、ニコニコと首を傾げるエリさんに、私は叫びそうになる。

(お、男の人だったー!)

 それから、多分ほっぺた赤い。

(うわ、うわわ、頭の中で勝手に色々想像して、勝手にヤキモチ妬いてたーっ!)

 は、恥ずかしい。
 私は曖昧に笑みを浮かべて「道重瀬奈です……」となんとか自己紹介を返したのだった。
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