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涙
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「いや責任感じてさあオレ」
「やから何のや! どつき回すぞコラ」
「ね、ほら」
エリさんは胸ぐらを掴み上げられたまま、私に向かってにっこりと笑う。
「ちょーっと壁ドンしただけでこのキレようやで。ベタ惚れに決まってるやん」
「何の話……」
楢村くんは私とエリさんを交互に見遣る。それからエリさんから手を離して、私を抱きしめた。
「ごめんほんまに──瀬奈、怖かったやろ」
「えっと……えっと?」
「このスケコマシはいまから大阪湾に沈めるといたるからな」
「沈め……?」
全く話についていけてない。
なに、なんなの?
唯一分かるのは、エリさんが壁ドンして楢村くんが大声で怒った(とても珍しい)ってことだけ。
「……なにしてんの、あんたたち」
と、部屋に入ってきたのは楢村くんのお母さん。私は楢村くんの腕から出ようともがくけど、やっぱり全然無理だった。
「いやあ、セナさんがコーセーがほんまに自分のこと好きか分からへんって言うから」
エリさんが飄々とそんなことを言って、私は慌てて彼の方を見る。エリさんはにやりと唇を上げて、肩をすくめる。
ちら、と楢村くんを見上げると──やっぱりあんまり表情はないような気がしたけれど──すこしだけ、悲しそうな顔を……しているようなしていないような?
胸がぎゅっと痛んだ。
なんでそんな顔したの。
「つうかコーセー、ちゃんと好きとか言葉と態度に出さなあかんで」
「──出しとるわ」
「ほななんでセナさんそんな不安そうなんや」
「マリッジブルーちゃうん? 昴成、ほんまアンタは何でも急やねん。いつも言ってるやろ、責任感持って……もうすぐ家庭も持つんやから」
お義母さんも口を尖らせて続けた。
「でもね瀬奈さん、昴成こんな無表情やけどあなたにベタ惚れなんは間違いないから……」
「なんやねん無表情て……んなアホな」
楢村くんが言ったとき、全員が楢村くんを反射的に見つめた。居心地悪そうに、楢村くんはかすかに眉を寄せる。
「……なん?」
「気がついてないんやなあって……いや、まぁええわ」
お母さんが苦笑いする。
「で、エリはなんやの」
「せやからな伯母さん、コーセーがいかにセナさん好きかセナさんに見せたろ思うて……伝わった?」
「えっと……?」
「伝わってないやん! なんで!? セナちゃん強情なだけ? いじっぱりちゃんなん? それともコーセー、なんか過去にしでかしたん? 浮気とか」
エリさんがそう言った瞬間に──楢村くんが息を飲んだ。ふたりは「は!?」と楢村くんに詰め寄る。
「おいコーセー、浮気はあかんぞ」
「ごめんなさい瀬奈さん、そんな息子に育てた覚えはなかったんだけれど」
ヤイヤイと言われて、楢村くんは「浮気なんかするか、アホ」と低く言う。
「ほんならなんでさっきの言葉に反応したんや」
「──」
言葉に詰まる楢村くんに、さもありなんと私は目線をウロウロさせる。
(……まさかセフレだったとは言えないよね……)
私としても気まずい。
なんと言ってこの場をごまかそうか──「セフレみたいに扱ってしまったんや」──って、言うんかーい!
「……は?」
「せやから、瀬奈を……セフレみたいに」
「はぁ!?」
エリさんと、楢村くんのお母さんの声がユニゾンした。
「マジか!? コーセー」
「あんたっ……」
お義母さんに至っては泡を吹きそうな顔になっている。ええと、あの、ど、どうしたら……
「……瀬奈はちゃうで。俺にそんなんされたんが嫌で、イギリスに留学してしまったくらいや」
「……昴成」
お義母さんが拳を強く握る。
「そんな情けないコトしとるとは思わんかった……!」
「……言い訳もできんわ」
「──っ、あの、だ、大丈夫ですから!」
私は慌てて笑顔を作る。それからさすがに、楢村くんの腕の中から脱出した。
「あの、ほら! ちゃんと責任とって、結婚も……」
私はやっと──気がついて、目を瞬く。
(そう、か)
責任。
楢村くんがなぜ私と結婚したがっているのか──やっと、分かった。
(責任、取ろうとしてるんだ……)
罪滅ぼしのつもり、なのかもしれない。
(……ばかに、してる)
悔しい。やっぱり、楢村くんなんか──大嫌い。
なんとか笑おうとした。怒ろうとした。
でも、できなかった。
潤んでいく視界のなかで、エリさんたちが申し訳なさそうな顔で私を見ているのが分かった。
「瀬奈……っ、ほんまに、もう二度と傷つけんから」
楢村くんがそう言ったのが、聞こえた。
私は──私は小さく、頷く。
(それでもいいって、思っちゃったから)
責任からでもなんでも、一緒にいてくれるなら──それでいいって、思ってしまったから。
「やから何のや! どつき回すぞコラ」
「ね、ほら」
エリさんは胸ぐらを掴み上げられたまま、私に向かってにっこりと笑う。
「ちょーっと壁ドンしただけでこのキレようやで。ベタ惚れに決まってるやん」
「何の話……」
楢村くんは私とエリさんを交互に見遣る。それからエリさんから手を離して、私を抱きしめた。
「ごめんほんまに──瀬奈、怖かったやろ」
「えっと……えっと?」
「このスケコマシはいまから大阪湾に沈めるといたるからな」
「沈め……?」
全く話についていけてない。
なに、なんなの?
唯一分かるのは、エリさんが壁ドンして楢村くんが大声で怒った(とても珍しい)ってことだけ。
「……なにしてんの、あんたたち」
と、部屋に入ってきたのは楢村くんのお母さん。私は楢村くんの腕から出ようともがくけど、やっぱり全然無理だった。
「いやあ、セナさんがコーセーがほんまに自分のこと好きか分からへんって言うから」
エリさんが飄々とそんなことを言って、私は慌てて彼の方を見る。エリさんはにやりと唇を上げて、肩をすくめる。
ちら、と楢村くんを見上げると──やっぱりあんまり表情はないような気がしたけれど──すこしだけ、悲しそうな顔を……しているようなしていないような?
胸がぎゅっと痛んだ。
なんでそんな顔したの。
「つうかコーセー、ちゃんと好きとか言葉と態度に出さなあかんで」
「──出しとるわ」
「ほななんでセナさんそんな不安そうなんや」
「マリッジブルーちゃうん? 昴成、ほんまアンタは何でも急やねん。いつも言ってるやろ、責任感持って……もうすぐ家庭も持つんやから」
お義母さんも口を尖らせて続けた。
「でもね瀬奈さん、昴成こんな無表情やけどあなたにベタ惚れなんは間違いないから……」
「なんやねん無表情て……んなアホな」
楢村くんが言ったとき、全員が楢村くんを反射的に見つめた。居心地悪そうに、楢村くんはかすかに眉を寄せる。
「……なん?」
「気がついてないんやなあって……いや、まぁええわ」
お母さんが苦笑いする。
「で、エリはなんやの」
「せやからな伯母さん、コーセーがいかにセナさん好きかセナさんに見せたろ思うて……伝わった?」
「えっと……?」
「伝わってないやん! なんで!? セナちゃん強情なだけ? いじっぱりちゃんなん? それともコーセー、なんか過去にしでかしたん? 浮気とか」
エリさんがそう言った瞬間に──楢村くんが息を飲んだ。ふたりは「は!?」と楢村くんに詰め寄る。
「おいコーセー、浮気はあかんぞ」
「ごめんなさい瀬奈さん、そんな息子に育てた覚えはなかったんだけれど」
ヤイヤイと言われて、楢村くんは「浮気なんかするか、アホ」と低く言う。
「ほんならなんでさっきの言葉に反応したんや」
「──」
言葉に詰まる楢村くんに、さもありなんと私は目線をウロウロさせる。
(……まさかセフレだったとは言えないよね……)
私としても気まずい。
なんと言ってこの場をごまかそうか──「セフレみたいに扱ってしまったんや」──って、言うんかーい!
「……は?」
「せやから、瀬奈を……セフレみたいに」
「はぁ!?」
エリさんと、楢村くんのお母さんの声がユニゾンした。
「マジか!? コーセー」
「あんたっ……」
お義母さんに至っては泡を吹きそうな顔になっている。ええと、あの、ど、どうしたら……
「……瀬奈はちゃうで。俺にそんなんされたんが嫌で、イギリスに留学してしまったくらいや」
「……昴成」
お義母さんが拳を強く握る。
「そんな情けないコトしとるとは思わんかった……!」
「……言い訳もできんわ」
「──っ、あの、だ、大丈夫ですから!」
私は慌てて笑顔を作る。それからさすがに、楢村くんの腕の中から脱出した。
「あの、ほら! ちゃんと責任とって、結婚も……」
私はやっと──気がついて、目を瞬く。
(そう、か)
責任。
楢村くんがなぜ私と結婚したがっているのか──やっと、分かった。
(責任、取ろうとしてるんだ……)
罪滅ぼしのつもり、なのかもしれない。
(……ばかに、してる)
悔しい。やっぱり、楢村くんなんか──大嫌い。
なんとか笑おうとした。怒ろうとした。
でも、できなかった。
潤んでいく視界のなかで、エリさんたちが申し訳なさそうな顔で私を見ているのが分かった。
「瀬奈……っ、ほんまに、もう二度と傷つけんから」
楢村くんがそう言ったのが、聞こえた。
私は──私は小さく、頷く。
(それでもいいって、思っちゃったから)
責任からでもなんでも、一緒にいてくれるなら──それでいいって、思ってしまったから。
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