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四角なの丸なの?
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あと半日で新年、っていう大晦日のお昼頃。相変わらずやたらとだだっ広い玄関で謙一さんは靴を履いたあと、振り向いて少し楽しげに言った。
「もしかしたら、荷物が届くかもしれない」
「荷物ですか?」
ん、と謙一さんは頷く。
「もし届いたら、この辺りに置いておいてくれ。重たいから」
「重い……? なにがくるんですか」
「なんだと思う?」
「……んー?」
重いもの。なんだろう?
首を捻っている間にさらりと髪を撫でられて、ちゅ、と重なる唇。
(あったかい……)
謙一さんの男性らしい指の先が、頬を優しくくすぐる。そのまま耳朶へ移動して、ムニムニと弄られて、つい微かな笑みが浮かんだ。
離れていく唇が寂しい。
至近距離で、ばちりと重なる目線──。
「君はほんとうに可愛すぎるなぁ!」
破顔、って言葉がぴったりなくらいの、謙一さんの表情に心がぽわんとしてしまう。
「……っ、可愛くはない、ですけれど」
「認めなさい、君は可愛い」
ぽんぽん、と脳天に柔らかく手のひらが数回、落ちてきた。
「すぐ帰る」
耳朶をくすぐる、柔らかくて低い声。きゅ、と胸の奥がちょっと痛くなる。──好き、って。
「……いってらっしゃい」
なんだか甘ったるい雰囲気。照れた私の目線はやや下。頬が熱い、かも。
じきに扉が開く音、それから閉まってかちゃんと鍵がかかる。
「……それにしても、おせちかぁ」
謙一さんのお知り合いが料理関係の方らしくて、おせちをひとつ融通してもらったとのこと。どんなのだろ。
(おせちがあるなら、お雑煮はつくりたい……かな)
私はパタパタとスリッパを鳴らして、台所へ向かう。材料は、実は買ってあった。
「……悩んだ挙句、角餅」
お餅のパックを手に取って、スマホ片手にレシピを確認。レシピといっても「金沢 お雑煮」で検索しただけなんだけれど……。
「どっちなんだろ!?」
どうにも二種類ほどあるらしい。焼いた角餅のやつと、紅白餅のやつと……。
どちらにしろ、具材はシンプルなようなんだけれど、お雑煮の主役はもちろんお餅。石川県は角餅と丸餅の境界線上にあるみたいで超悩んで……結果、金沢では角餅! という口コミを信じてみることにしたのでした。
(聞けばいいんだろうけど)
お出汁をとるために鍋にお水をいれつつ、うーんと悩む。でもだって、サプライズしたいんだもんなぁ。びっくりしてくれるかなぁ。
レシピ通りにカツオで出汁をとっていると、インターフォンが鳴った。
モニタで確認して、マンションの玄関の鍵を解除する。
「重いもの、届きましたよう」
ひとりごとを言いつつ、ふと気がつく。
「サイン……」
や、柳でいいのかな? いやダメだよね私の名前じゃないと! えっでもどっちなの!?
ワタワタしている間に、もう一度インターフォンが鳴る。これは来客用エレベーターのインターフォンで……ああセキュリティちゃんとしてるとこって、ちょっと面倒くさいなぁ!
なんて庶民的なことを考えているうちに、今度は玄関のインターフォン。モニタには見慣れた宅配業者の制服が映った。
「は、はーい」
IHヒーターのスイッチを消してから玄関に向かって、ドアを開ける。
「こんにちは、柳さんっすね」
にこやかなお兄さんの背後には、台車に乗った大きな段ボール。たしかに、ちょっと重そうな……なんだろう?
「はい、あの、でもその、本人ではなくて、ええと」
「お荷物どちらに? 先に入れちゃいますね、大きいので」
「ええと、この辺りに……」
謙一さんに言われたあたりを指差すと、お兄さんはさっさと玄関の中に段ボールを運び込んでくれた。
「うし。サインお願いしまーす」
「あの、私の名前でいいんでしょうか」
「大丈夫っす~」
特に悩む必要はなかったらしい。だって、代わりに荷物受け取るなんて初めてなんだもの……。
伝票にサインをすると、お兄さんは「あっした!」と体育会な挨拶をのこして去っていった。
「……さて、なんなんだろう?」
大理石らしい玄関の三和土に座り込んで確認。貼り付けてある伝票には「電気炬燵」の四文字。
「こたつ……?」
「炬燵はいいなと思ったんだ」
突然上から声が降ってきて、慌てて見上げる。
「わぁっ謙一さんっ、びっくりしました」
本気で驚いてる私を見て、謙一さんは目尻に柔らかく皺を寄せた。
「ただいま、麻衣」
「……っ、おかえりなさい」
返事をしながら、思う。ずるい。
(ずるいってば、ああいう顔は……)
またもや頬が熱い気がする。両手で頬を包んだ。ちょっとヒンヤリ。
(ああいう、愛おしいですみたいな顔をするのは──ほんとに、ずるい)
身体の芯から蕩けるみたいになってしまう。好きが溢れて、勝手に漏れていってしまいそう。
謙一さんが、唐突に私の横に座り込んだ。
「わ、謙一さ……」
「君な」
ため息をつくように、謙一さんが私を覗き込む。
「そういう顔はやめてくれ」
「っ、へ? ど、どういう」
「──可愛すぎる、顔」
頬を撫でてくる、指先。指先から熱くて、感情が伝わってきて。
「そういう、……好きですみたいな顔をされると我慢が効かなくなるだろう」
「し、」
思わず顔を覆う。……っ、してました!? してましたか、出てましたかっ……!
「してませぇん……」
蚊の鳴くような声がでた。ああ、なんかもう、色々バレてる。
「嘘つきだなぁ」
喉の奥で、謙一さんが笑った。おそるおそる顔を上げる。視線が絡んで、謙一さんの優しい瞳が、ほんの少し嗜虐的に笑みを描いた。
「もしかしたら、荷物が届くかもしれない」
「荷物ですか?」
ん、と謙一さんは頷く。
「もし届いたら、この辺りに置いておいてくれ。重たいから」
「重い……? なにがくるんですか」
「なんだと思う?」
「……んー?」
重いもの。なんだろう?
首を捻っている間にさらりと髪を撫でられて、ちゅ、と重なる唇。
(あったかい……)
謙一さんの男性らしい指の先が、頬を優しくくすぐる。そのまま耳朶へ移動して、ムニムニと弄られて、つい微かな笑みが浮かんだ。
離れていく唇が寂しい。
至近距離で、ばちりと重なる目線──。
「君はほんとうに可愛すぎるなぁ!」
破顔、って言葉がぴったりなくらいの、謙一さんの表情に心がぽわんとしてしまう。
「……っ、可愛くはない、ですけれど」
「認めなさい、君は可愛い」
ぽんぽん、と脳天に柔らかく手のひらが数回、落ちてきた。
「すぐ帰る」
耳朶をくすぐる、柔らかくて低い声。きゅ、と胸の奥がちょっと痛くなる。──好き、って。
「……いってらっしゃい」
なんだか甘ったるい雰囲気。照れた私の目線はやや下。頬が熱い、かも。
じきに扉が開く音、それから閉まってかちゃんと鍵がかかる。
「……それにしても、おせちかぁ」
謙一さんのお知り合いが料理関係の方らしくて、おせちをひとつ融通してもらったとのこと。どんなのだろ。
(おせちがあるなら、お雑煮はつくりたい……かな)
私はパタパタとスリッパを鳴らして、台所へ向かう。材料は、実は買ってあった。
「……悩んだ挙句、角餅」
お餅のパックを手に取って、スマホ片手にレシピを確認。レシピといっても「金沢 お雑煮」で検索しただけなんだけれど……。
「どっちなんだろ!?」
どうにも二種類ほどあるらしい。焼いた角餅のやつと、紅白餅のやつと……。
どちらにしろ、具材はシンプルなようなんだけれど、お雑煮の主役はもちろんお餅。石川県は角餅と丸餅の境界線上にあるみたいで超悩んで……結果、金沢では角餅! という口コミを信じてみることにしたのでした。
(聞けばいいんだろうけど)
お出汁をとるために鍋にお水をいれつつ、うーんと悩む。でもだって、サプライズしたいんだもんなぁ。びっくりしてくれるかなぁ。
レシピ通りにカツオで出汁をとっていると、インターフォンが鳴った。
モニタで確認して、マンションの玄関の鍵を解除する。
「重いもの、届きましたよう」
ひとりごとを言いつつ、ふと気がつく。
「サイン……」
や、柳でいいのかな? いやダメだよね私の名前じゃないと! えっでもどっちなの!?
ワタワタしている間に、もう一度インターフォンが鳴る。これは来客用エレベーターのインターフォンで……ああセキュリティちゃんとしてるとこって、ちょっと面倒くさいなぁ!
なんて庶民的なことを考えているうちに、今度は玄関のインターフォン。モニタには見慣れた宅配業者の制服が映った。
「は、はーい」
IHヒーターのスイッチを消してから玄関に向かって、ドアを開ける。
「こんにちは、柳さんっすね」
にこやかなお兄さんの背後には、台車に乗った大きな段ボール。たしかに、ちょっと重そうな……なんだろう?
「はい、あの、でもその、本人ではなくて、ええと」
「お荷物どちらに? 先に入れちゃいますね、大きいので」
「ええと、この辺りに……」
謙一さんに言われたあたりを指差すと、お兄さんはさっさと玄関の中に段ボールを運び込んでくれた。
「うし。サインお願いしまーす」
「あの、私の名前でいいんでしょうか」
「大丈夫っす~」
特に悩む必要はなかったらしい。だって、代わりに荷物受け取るなんて初めてなんだもの……。
伝票にサインをすると、お兄さんは「あっした!」と体育会な挨拶をのこして去っていった。
「……さて、なんなんだろう?」
大理石らしい玄関の三和土に座り込んで確認。貼り付けてある伝票には「電気炬燵」の四文字。
「こたつ……?」
「炬燵はいいなと思ったんだ」
突然上から声が降ってきて、慌てて見上げる。
「わぁっ謙一さんっ、びっくりしました」
本気で驚いてる私を見て、謙一さんは目尻に柔らかく皺を寄せた。
「ただいま、麻衣」
「……っ、おかえりなさい」
返事をしながら、思う。ずるい。
(ずるいってば、ああいう顔は……)
またもや頬が熱い気がする。両手で頬を包んだ。ちょっとヒンヤリ。
(ああいう、愛おしいですみたいな顔をするのは──ほんとに、ずるい)
身体の芯から蕩けるみたいになってしまう。好きが溢れて、勝手に漏れていってしまいそう。
謙一さんが、唐突に私の横に座り込んだ。
「わ、謙一さ……」
「君な」
ため息をつくように、謙一さんが私を覗き込む。
「そういう顔はやめてくれ」
「っ、へ? ど、どういう」
「──可愛すぎる、顔」
頬を撫でてくる、指先。指先から熱くて、感情が伝わってきて。
「そういう、……好きですみたいな顔をされると我慢が効かなくなるだろう」
「し、」
思わず顔を覆う。……っ、してました!? してましたか、出てましたかっ……!
「してませぇん……」
蚊の鳴くような声がでた。ああ、なんかもう、色々バレてる。
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