【R18】100日お試し婚〜堅物常務はバツイチアラサーを溺愛したい〜

にしのムラサキ

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四角なの丸なの?

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 あと半日で新年、っていう大晦日のお昼頃。相変わらずやたらとだだっ広い玄関で謙一さんは靴を履いたあと、振り向いて少し楽しげに言った。

「もしかしたら、荷物が届くかもしれない」
「荷物ですか?」

 ん、と謙一さんは頷く。

「もし届いたら、この辺りに置いておいてくれ。重たいから」
「重い……? なにがくるんですか」
「なんだと思う?」
「……んー?」

 重いもの。なんだろう?
 首を捻っている間にさらりと髪を撫でられて、ちゅ、と重なる唇。

(あったかい……)

 謙一さんの男性らしい指の先が、頬を優しくくすぐる。そのまま耳朶みみたぶへ移動して、ムニムニと弄られて、つい微かな笑みが浮かんだ。
 離れていく唇が寂しい。
 至近距離で、ばちりと重なる目線──。

「君はほんとうに可愛すぎるなぁ!」

 破顔、って言葉がぴったりなくらいの、謙一さんの表情に心がぽわんとしてしまう。

「……っ、可愛くはない、ですけれど」
「認めなさい、君は可愛い」

 ぽんぽん、と脳天に柔らかく手のひらが数回、落ちてきた。

「すぐ帰る」

 耳朶をくすぐる、柔らかくて低い声。きゅ、と胸の奥がちょっと痛くなる。──好き、って。

「……いってらっしゃい」

 なんだか甘ったるい雰囲気。照れた私の目線はやや下。頬が熱い、かも。
 じきに扉が開く音、それから閉まってかちゃんと鍵がかかる。

「……それにしても、おせちかぁ」

 謙一さんのお知り合いが料理関係の方らしくて、おせちをひとつ融通してもらったとのこと。どんなのだろ。

(おせちがあるなら、お雑煮はつくりたい……かな)

 私はパタパタとスリッパを鳴らして、台所へ向かう。材料は、実は買ってあった。

「……悩んだ挙句、角餅」

 お餅のパックを手に取って、スマホ片手にレシピを確認。レシピといっても「金沢 お雑煮」で検索しただけなんだけれど……。

「どっちなんだろ!?」

 どうにも二種類ほどあるらしい。焼いた角餅のやつと、紅白餅のやつと……。
 どちらにしろ、具材はシンプルなようなんだけれど、お雑煮の主役はもちろんお餅。石川県は角餅と丸餅の境界線上にあるみたいで超悩んで……結果、金沢では角餅! という口コミを信じてみることにしたのでした。

(聞けばいいんだろうけど)

 お出汁をとるために鍋にお水をいれつつ、うーんと悩む。でもだって、サプライズしたいんだもんなぁ。びっくりしてくれるかなぁ。
 レシピ通りにカツオで出汁をとっていると、インターフォンが鳴った。
 モニタで確認して、マンションの玄関の鍵を解除する。

「重いもの、届きましたよう」

 ひとりごとを言いつつ、ふと気がつく。

「サイン……」

 や、柳でいいのかな? いやダメだよね私の名前じゃないと! えっでもどっちなの!?
 ワタワタしている間に、もう一度インターフォンが鳴る。これは来客用エレベーターのインターフォンで……ああセキュリティちゃんとしてるとこって、ちょっと面倒くさいなぁ!
 なんて庶民的なことを考えているうちに、今度は玄関のインターフォン。モニタには見慣れた宅配業者の制服が映った。

「は、はーい」

 IHヒーターのスイッチを消してから玄関に向かって、ドアを開ける。

「こんにちは、柳さんっすね」

 にこやかなお兄さんの背後には、台車に乗った大きな段ボール。たしかに、ちょっと重そうな……なんだろう?

「はい、あの、でもその、本人ではなくて、ええと」
「お荷物どちらに? 先に入れちゃいますね、大きいので」
「ええと、この辺りに……」

 謙一さんに言われたあたりを指差すと、お兄さんはさっさと玄関の中に段ボールを運び込んでくれた。

「うし。サインお願いしまーす」
「あの、私の名前でいいんでしょうか」
「大丈夫っす~」

 特に悩む必要はなかったらしい。だって、代わりに荷物受け取るなんて初めてなんだもの……。
 伝票にサインをすると、お兄さんは「あっした!」と体育会な挨拶をのこして去っていった。

「……さて、なんなんだろう?」

 大理石らしい玄関の三和土に座り込んで確認。貼り付けてある伝票には「電気炬燵」の四文字。

「こたつ……?」
「炬燵はいいなと思ったんだ」

 突然上から声が降ってきて、慌てて見上げる。

「わぁっ謙一さんっ、びっくりしました」

 本気で驚いてる私を見て、謙一さんは目尻に柔らかく皺を寄せた。

「ただいま、麻衣」
「……っ、おかえりなさい」

 返事をしながら、思う。ずるい。

(ずるいってば、ああいう顔は……)

 またもや頬が熱い気がする。両手で頬を包んだ。ちょっとヒンヤリ。

(ああいう、愛おしいですみたいな顔をするのは──ほんとに、ずるい)

 身体の芯から蕩けるみたいになってしまう。好きが溢れて、勝手に漏れていってしまいそう。
 謙一さんが、唐突に私の横に座り込んだ。

「わ、謙一さ……」
「君な」

 ため息をつくように、謙一さんが私を覗き込む。

「そういう顔はやめてくれ」
「っ、へ? ど、どういう」
「──可愛すぎる、顔」

 頬を撫でてくる、指先。指先から熱くて、感情が伝わってきて。

「そういう、……好きですみたいな顔をされると我慢が効かなくなるだろう」
「し、」

 思わず顔を覆う。……っ、してました!? してましたか、出てましたかっ……!

「してませぇん……」

 蚊の鳴くような声がでた。ああ、なんかもう、色々バレてる。

「嘘つきだなぁ」

 喉の奥で、謙一さんが笑った。おそるおそる顔を上げる。視線が絡んで、謙一さんの優しい瞳が、ほんの少し嗜虐的に笑みを描いた。
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