無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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復讐のブルー・ペグランタン編

バレた正体

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 一足先に霧を抜けた私は北支部正門前に向かい、澄連すみれんと合流していた。

「と、いうわけです」

 澄連すみれんから離れてから、合流するまでの経緯を簡潔に説明する。

 一名、いや一匹だけ裸エプロンを着たぬいぐるみ野郎が私の真下でうんうんと首を縦に振りながら話を聞いていたのでとりあえず顔面を踏み潰しておいたが、見渡す限り概ね話した内容は理解してくれたようだ。

「ふぅ……なるほど。要するに澄男すみおの奴がウンコ漏らしちまったってことか。やるじゃねぇかアイツも」

「……一ミリも合ってないんですが、それは」

 理解してくれたようだ、と言ったと思う。アレは嘘だ。

 人の目の前で堂々と野糞をしやがっている子熊のぬいぐるみ―――ナージは、尻を拭くことなく捻り出した排泄物の前で仁王だつ。

「冗談を言っている暇はありません。早急に澄男すみおさまの援護に行きませんと」

 糞の前で決めポーズするナージをよそに、逸れそうになる話の軸を引き戻す。

 澄連すみれんは外見や立ち振る舞いこそふざけているが、その実力は本物だ。正直認めたくはないが、一対一でも私より強いだろう。束になられたら尚更だ。

 現状、黒百足と一体化したブルー・ペグランタンと戦えるのは、澄男すみおを除けば澄連すみれんのみ。目には目を、歯に歯を、人外には人外をと至極単純な戦力配分だが、それ以外にやりようがないのだから、仕方ない。他にも手段はあるにはあるが、パオングやあくのだいまおう、久三男くみおが保有する戦力に頼るのは、最後の手段だ。

「援護に行きたいのは山々なんすがね……」

 カエルはぽりぽりと頭を掻き、地面に落ちている小石を蹴り上げる。カエルだけではない、澄連すみれん全員が困った表情でその場から動こうとせず、どうしたものかと首を傾げ合っている。

「まさか……勝てないとか?」

「いや、そんなことありやせん。正々堂々と戦えば、オレらが勝ちやすよ。正々堂々と、ならね」

 背中を焦りが強く押す。嬉々として迎え撃ってくれるとばかり思っていただけに、そのリアクションは予想外だ。

「黒百足と戦うとなると、まず``闇の不確定方程式シュレーデインガー``をどうにかしなければならないな」

 いつものことながら、頭からパンツを被っているミキティウスは真剣な面差しで顎に手を当てる。

 パンツを被っているせいでふざけているのかと思ってしまうが、パンツ越しの表情は真剣そのものなのを改めて認識する。

「あなたがたの力でどうにかならないのです?」

「無茶言わんでくださいよ。いくらオレたちでも無策で突撃したら、黒百足の位置なんざ分かりやせん。位置が分からんことには攻撃のしようがありやせんし」

「それに例の大鋏まで持ってんだろ? どれぐれぇ扱えんのか知らねぇが、下手に触れたらウンコする暇もなく瀕死だぜ?」

 いつもふざけている澄連すみれんだが、真剣なときの彼らの言葉に嘘はない。澄男すみおを見捨てる選択肢なんてありはしないし、そもそもこの戦いを放置するのは論外。どうするべきか、思考の海に投じようと飛び込み台に立とうしたそのとき。

「安心してくだせえ、御玲みれいさん。作戦さえありゃあ、どうとでもできやす」

「そうそう! ち◯こをぶっ刺すにはまず下着を脱がさないとさ!」

「何を言っている!! 下着を脱がすなんてとんでもない!! 下がダメなら上から被ればいい!!」

「黙りなさいミキティウス」

「あ。はい……」

 現在進行形で上からパンツを被っている馬鹿が興奮し始めたので、蓋をする。今は一刻を争うのだ、悪ふざけに付き合っている暇はない。

「それで、作戦とは?」

「パオングさんを呼びやしょう。話はそれからっす」

「……は?」

「いやだから、パオングさんを呼んで突破口開きやしょうぜって話っすよ」

 パオングを呼ぶ。個人的にはなるべく切りたくなかった手札なだけに、思わず聞き返してしまった。

 我欲の神パオング。神を自称する彼は、見た目こそ象のぬいぐるみだが、魔法の技量は私の想像を遥かに超えている。ゆえに私たちにとって切り札の一つに数えられる存在だ。澄男すみお弥平みつひらもいない今、私個人の判断で切ってもいいものか。

「いや……迷っている暇はない、か」

 事後報告になってしまうが、事態が終息した後に、澄男すみお弥平みつひらには経緯を説明しよう。迷っていたところで、どっちにしろ私たちだけでは駐車場を飲み込まんとする闇の霧をどうにもできないのだし。

 霊子通信を繋ぎチャンネルをパオングに定めた。

「パァオング! 我を呼んだかな」

 五秒も経たずして、突如虚空から姿を現した。太陽光が頭に乗っている金冠に乱反射し、冠の金色の部分がより一層強く光り輝く。

「……む? これは……``闇の不確定方程式シュレーデインガー``か」

「コイツのせいで迂闊に突っ込めやせん。どうにかできやせんかね」

「パァオング! 任されよ。その我欲、叶えてしんぜよう」

 あっさりとした承諾。あまりにも簡単に引き受けるので、疑問符が思わず顔を出す。

「あの闇の霧は、それほど単純なものなのですか?」

「否。解呪はおろか、干渉すら困難を極める魔法ぞ」

 きっぱりと矛盾したことを言われ、唖然とする。そのままパオングの魔法講義を聞くことにした。

 私たちが闇の霧と呼ぶもの。アレは``闇の不確定方程式シュレーデインガー``と呼ばれる、闇属性系の黒百足独自魔法である。

 物理法則に干渉して意図的に世界の揺らぎを引き起こすことで、自身の空間座標を不定化させ、敵を撹乱する戦闘用の魔法なのだとか。

「も、ものすごいですね……」

「不確定性原理を意図的に利用する魔法ゆえ、その効果は強大である。並の阻止系魔法を凌駕する闇魔法よ」

 不確定性原理だとか世界の揺らぎだとか、専門知識が不足している私には理解の範疇を軽々と超えている内容だが、物理法則を利用して初めて体現する魔法を、ただの戦闘にのみ費やしているのがなんともしがたい。本来研究目的に使われていたと言われた方が、まだ納得できる魔法だ。

「``闇の不確定方程式シュレーデインガー``は災悪……ウォッホン!! 我と同じ、神代かみよの大魔導師が創造した大魔法でな……本来であれば、今の我では解析すらできぬ代物なのだ」

 さりげなく言われたその言葉に、さっきまでの驚きが消え失せ、更なる驚愕で塗り潰される。

「焦るでない。本来であれば、と言うたはずだぞ」

 太陽光を反射して輝く金冠が、得意げに頭上で揺れる。かの神の瞳は、光をもろともせず黒く澱んだままだが、その瞬きは妖しげで、胸中に湧いて出た焦燥が、溶けてなくなっていくのを感じ取る。

「件の魔法を使っておるのは百足娘であろう? 外部からの対策が万全ではないようだ。これならば、今の我でも解析は可能よ」

 パオングはなおも冷静に、淡々としている。

 魔法を戦闘に用いる際、相手に解析や妨害をされる前提で使うことが最低条件である。魔法の威力や命中精度などよりも、如何に敵の解析や妨害を躱し、相手に対策を取らせず、自分が使う魔法を確実に発動させることができるか。そこに魔導師の力量が問われるのだとか。

「如何なる魔法も、習得なんぞ基礎中の基礎よ。実用するならば、応用を利かせなければな……さて、終わったぞ」

「何がです?」

「対策魔法の構築だ。いつでも霧を払えるぞ」

 得意げに揺れる金冠が、その事実を物語る。

 状況を忘れて、ついつい聞き入ってしまったが、まだ話し始めて三分程度しか経っていないはずなのに、もう対策を施せる状況を作り出したのか。詠唱すらしていなかったし、呪文も魔法陣も何も表れていないから、得意げに講義しているだけかと思っていただけに、もはや開いた口が塞がらない。

 そもそも魔法って、喋りながら創れるほど簡単なものではないはずなのに。

「驚き呆れて言葉も出ぬか? もっと讃えるがいいぞ御玲みれい殿!! この我欲の神パオングが、貴殿の我欲を叶えてやったのだからなァ!!」

 細長い鼻を空高く上げ、山彦でも聞こえてきそうなほどの高笑いで周囲を支配する。

「で、では早速……」

「待て。その前に」

 高笑いの表情から一変、真剣な面差しで身を翻す。黒く澱んだ瞳で見つめるその先に、北支部正門の柱が立っていた。柱そのものに何の変哲もなく、何の違和感もないはずだが、パオングが醸す雰囲気にカエルたちがソワソワしだす。

「そこな青年。柱に隠れておるのは分かっておるぞ、姿を現すがいい」

 柱に話しかける象のぬいぐるみの絵は、なんとも奇妙な絵面だが、象のぬいぐるみだからこそなのか、珍妙な景色は不可思議なぬいぐるみによって中和される。

「……気づいてたかよ。気配消すの、意外と自信あったんだがなぁ」

 柱の影から出てきたのは、私たちがよく知る人物だった。

 まず目に入ってきたのは、特徴的な金色の髪。太陽光に照らされてより一層その輝きを力強くし、より良い髪質を演出する。輝きの強さからして、毎日手入れを欠かしてはいないのだろう。

 次に目立つのは服装だ。くたびれた装備を着込んでいるのが日常の武市もののふしで、彼の服装は一際異彩を放っている。煌びやかで皺一つないそれは、名のある暴閥ぼうばつに属する高官を思わせる。

 彼の名はレク・ホーラン。北支部監督官の一人にして、請負人の手本となる存在である。

「レクさん、大変なんです。ご助力願えませんか」

 戦力に数えられる者の頭数は、多いに越したことはない。声色とは裏腹に打算に塗れていると思ったが、状況が状況だ。なりふり構っていられない。

「言われなくてもそのつもりだぜ。北支部監督官とあろうもんが、新人相手に全力殺意振り撒いてるんだからな」

「では現地に……」

「待て。そろそろ、はっきりさせときてえことがある」

 身を翻し、急いで澄男すみおの所へ行こうとしたその足は、鼓膜によく通る声音に阻まれる。

 彼の声色にいつもの陽気な感じはほとんど感じられず、むしろ怒気が含まれているんじゃないかと思うぐらい低い。一瞬、敵対色にも感じられたその声に、思わず体が反応してしまったのが、運の尽きだった。

「出会ったときから違和感はあったんだよ。高すぎる身体能力、世間知らずにしちゃあ、あんまりにあんまりな無知さ、そして使い魔を自称する澄連すみれんとかいう謎生物……」

 嗚呼。これは。いつか、この時が来ると思ってはいたのだ。

「どうせ教えてくんねえだろうし、実際教えてくんなくても任務に支障はなかった。そもそも請負機関じゃあ、気になったとしてもお互いのプライベートを詮索しねえってのが暗黙の了解だしな」

 私だって気づいていた。今までの誤魔化しに、無理があったことぐらい。最もらしいとはいえど、それで北支部の監督官というベテラン請負人を納得させられるわけがないことぐらい。

 お互いにお互いの事情に深入りしない。その暗黙の了解に、いつもいつも助けられていたことぐらい。

 でも、今はもう、その暗黙の了解を律儀に守っている状況ではない。いつも助けてくれたヒーローは、今回ばかりは駆けつけない。

「お前ら、一体何者なんだ?」

 もう、誤魔化しは無理だ。ブルー・ペグランタンが、何の理由もなく澄男すみおと争うなんてありえない。彼女はのほほんとした口調からして知能が低そうに見えるが、その実は聡明だ。自分の立場が何たるかを的確に理解しており、一度やると決めた任務は必ずやり遂げる。ただ報酬に貪欲なだけで、それは任務請負人として、報酬で生計を立てる者として、至極真っ当な態度だ。

 レク・ホーランと同じ北支部監督官の地位にある彼女が、己のキャリアを捨ててまで新人請負人を殺す道理があろうか。一抹の感情で禁忌を犯すほど、耄碌していないはずである。

「答えろ。お前の苗字を。お前の……真の名を!」

 そうか。そこまで察していたのか。ならば取るべき行動は、一つだけだ。

 私はゆっくりとレク・ホーランへ振り向く。パオング以外の澄連すみれんはソワついていた態度を鎮め、各々パオングとともに意を決した表情で、レク・ホーランを見つめた。 

「私の真の名は……水守すもり御玲みれい水守すもり家現当主にして、``五大``の一柱ひとり、``凍刹とうせつ``の名を冠する者」

 彼は目を見開き、沈黙。しばし微風だけが吹き通るが、右手で額を覆い、乾いた笑い声をあげた。

「……そうか、お前が……いや、貴女が``凍刹とうせつ``だったのか」 

「ええ。ならばもう、澄男すみおさまの正体も分かるのでは?」

水守すもり家っていやぁ、流川るせん本家の直系……つーこたぁ、新人は……``禍焔かえん``かよ」 

``禍焔かえん``。それは、今代の流川るせん本家派当主に名付けられた二つ名。``四強``の一柱ひとりにして、人類世界最強の一角。

 レク・ホーランの呟きに、私は沈黙で答えた。

「正直現実味がないが……貴女がたの正体については理解した。教えていただけて、感謝する」

 レク・ホーランは案外落ち着いていた。驚き呆れ疲れ、一周回って冷静になれただけなのかもしれないが。

「あの霧……アイツ、アレ使いやがったな……」

「アレ……?」

「ん? ああ、そうだな。貴女が話してくれたんだし、俺からも話しておくか。無理を聞いてくれたわけだしな」

 お返しと言わんばかりに、レク・ホーランが情報を開示する。それは、今ブルー・ペグランタンが陥っている状態についてだった。

 ブルー・ペグランタンには、レク・ホーランによって一切の使用を禁じられた手札が存在する。黒百足との融合だ。

 ブルー・ペグランタンが黒百足を体内に取り込むことで、黒百足が持つ全ての力を使うことができるようになる彼女の切り札。非常に強力で、ただでさえ強大な黒百足のフィジカルと、黒百足が持つ膨大な知識と経験を独占することができ、その気になれば中威区なかのいく程度、瓦礫だらけの荒野にしてしまえるほどの災厄と化すのだが、一つだけ大きなデメリットがあった。

「アイツは、あの形態を制御できねえ。一度むーさんを体内に取り込んだら最後、自分の意志で元の状態に戻れなくなる」

 レク・ホーラン曰く。黒百足と融合したブルー・ペグランタンは黒百足そのものであり、ブルー・ペグランタンそのものでもある。どっちでもあり、どっちでもない存在らしい。

 ブルー本人ですら黒百足と融合している自分が、客観的に見て誰なのか。認識できていないとのことだ。

「思うんですが、それだけ知っているということは……最低でも一度は、あの状態になったことがあるのですね?」

「なにせ初めて会ったブルーの姿が、まさしくあの状態だったからな。またなられても困るし、色々聞いたのさ。あの状態から元に戻すの、大変だったんだぜ?」

 だからこそレク・ホーランは彼女本人よりも、あの形態に詳しい。

 ブルー・ペグランタンは黒百足融合形態になると自分の意識が希薄になった分だけ黒百足の意識で濃縮される形になるため、客観的に把握するのは不可能に近いことなのだとか。

 それゆえ彼は、彼女に黒百足を体内に取り込む行為を、禁じ手に指定したのである。その気になれば中威区なかのいくそのものを滅ぼしかねない厄災、北支部監督官として、混ぜるな危険という言葉が真に似合う存在になることを、良しとしなかったのだ。

「実際、むーさんを取り込む必要とか、基本的にねえんだよ。むーさん単体で強えし、支部の任務をこなすのには過剰戦力だし。むしろ元の状態に戻すのが手間すぎて、採算取れねえからな」

 アイツは取り込んでた方が楽だとか言っていたが、などと当時のことを思い出しながら、肩をすくめる。

「ならレクさんなら……」

「いや悪いが、今回は無理だぞ。前と同じ方法じゃ止められん」

 活路が開いた、その瞬間、閉められる。あまりに一瞬で割り込む隙がなく、押し黙ってしまった。

「ブルーとのファーストコンタクト……俺に言わせりゃあ波瀾万丈奇想奇天烈、語らずにはいられねえ、俺の人生三本指には入る大長編だぜ? でもな、その物語の主役がな、ここにいねえし、呼べもしねえんだよ」

 かつてブルー・ペグランタンは同じ状態になった、しかしそれは一度止めることができたこと。ならば止められた何者かがいる。私はその人物をレク・ホーランだと予想していたのだが、実際は違うらしい。

「いや呼べねえ。呼びたくねえ……後始末が面倒だ、労力の無駄遣いはしたくない、明日も仕事だし……」

 レク・ホーランの様子がおかしい。いつもは凛としていて、支部に務める請負人たちを束ねる、れっきとした北支部監督官として相応しい度胸と能力を兼ね揃えた人物だというのに、まるで足元のおぼつかない生まれたての子鹿の如く小刻みに身体を震わせて、顔を手で覆った。

「レクさん……?」

「んああ、悪ぃ悪ぃ。ちとタチの悪い幻影がよぎっちまってな。持病みたいなもんだ気にすんな」

「はあ……」

「とりあえず、今回はその主役抜きでアイツを止めなきゃなんねえ。だが俺だけじゃ無理だ。つーわけでよ」

 彼は深く、深く腰を曲げ、頭を下げた。

 私は新人で、彼は北支部監督官で。暴閥ぼうばつやギャングスターほどではないにせよ、荒くれ者が大半を占める任務請負機関で、格下相手に格上が頭を下げるなど、面子が問われる悪手な行いだ。今は北支部の外、誰が見ているか分からないこの状況で描く絵にしては、あまりにも危険である。

 しかしレク・ホーランは周囲になど彼我にかけている様子はない。彼の瞳に映るはただ一人。肘から下を失くした、全身黒色のポンチョに身を包む、正体不明の黒百足とともにあるもう一人の監督官―――ブルー・ペグランタンだけである。

「頼む。お前らの……いや貴方方の、流川るせんの力を、俺に貸してください。ブルーを、助けたいんです」

 任務請負機関での立場は、私が下で、彼が上だ。経験としても役職としても、彼の方が請負人としてその全てを上回っているからであり、私とてその事実に異存はない。

 しかし、その実態は逆だ。任務請負機関での、という前置きを取り外し、武市もののふしでの、を改めて置き直したら、私が上で彼が下になる。社会的には、逆転する。私の返事は、既に決まっていた。

「じゃあ、お願いするわ。あの化け物たちの戦いを、止めましょう」

 私は水守すもり家の当主。流川るせん本家の直系として、澄男すみおを助けなければならない。たとえ、相手が私より強くとも。

 パオングに首を縦に振る。闇の霧が、天から降り注ぐ優しい光に穿たれた。
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