人生和歌集 -風ー(1)

多谷昇太

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海を渡る風

バーゼル

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※本ページは時系列的には数ページ先の、話のタイトルが「カぺル橋」にある2首目以前の和歌群です。また当アルファポリスの私の掲載作品群で云えば「エッセイ・フランクフルトの別れ」直後のことを謳った和歌群ともなります。

駅前に公園ありて生垣に隠れ潜みぬ胸とどろかせ
※ドイツ・フランクフルトからSBB(スイス国有鉄道)に切り替わった車両で独・瑞国境近くの町バーゼルに到着しました。当然国境検問があるものと思っていたのが(確か)改札場のような所で切符確認があっただけで、そのまま嘘のようにバーゼル市内に入ることが出来た。まさか後ろから国境警備員が追いかけて来はしまいか、取り敢えず目に入った駅前の公園中に、その生垣に囲まれてあったベンチに隠れるように腰掛けて、一人快心の笑みを浮かべたことでした。心中では『やった!やったぞ!スイスに入れた!』と快哉を叫んでいたのです。

【バーゼル中央駅。往時は駅前に小さな公園があったのです。今はないようですが…】


バーゼルのユースは愛しかりアラブ人数多気の置けぬ家
※駅から遠からぬ所に古びた(確か)四階建てのユースホステルがありました。入ってみると受付けのカウンター内にはインド人の青年が(恐らく)スイス人と思しき娘を膝の上に乗せていちゃついていて、片手間のようにチェックインの手続きをしてくれた。何だこいつと呆れたが「welcomeバーゼル。来訪の目的は仕事捜しだろ?だったら此処はいい所だぜ」などと片ウインクをするように教えてくれる。なるほど指定された階上の部屋に行ってみると中はアラブ人だらけで、彼らは皆仕事捜しの身とあとで知れた。そこは(確か)30人ほどもいるような大部屋で始めは圧倒されたが幾許もなく馴れて、俺と同様なる連中ばかりが居る、気の置けない、我が家のような所と以後は相なったことでした。

【これはphoto acからピックアップした(恐らく)欧州における難民の身上の青年2人でしょうが、このような感じの、目のきついアラブの青年たちで部屋は満たされていたのです】


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