人生和歌集 -風ー(1)

多谷昇太

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海を渡る風

相見互い

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鷹揚にパイプくゆらせ聞く男青臭き話笑みつつ聞くも
※『生きてもたかがン十年、永遠の時と比べれば線香花火のようなもの。死後無に帰すならば(公務員の)職などどうでもよかった。(傾倒していた)ランボーの生き方に殉じたかった』や、あるいは『ドイツでバイトに就こうとしたがそもそも恥ずかしくて格好悪くて、勤め先とすべきホテルやレストランに入って行くことさえ出来なかった』という私の述懐を上の掲載歌のごとき雰囲気で聞く彼。『おもろいやっちゃあ』(これ彼の口癖)などと思ってくれたかも知れないが、私の(情けない)人となりは瞬時に摑みとったようです。比べて彼のここまでの経緯は私と真逆で、出国以来すでに2年ほどが経ち、その間ハワイ~アメリカ本土~アフリカ~欧州と経て来たのだとか。身分は未だ大学生であり留年中の身の上だそうです。関西の某大学で、スポーツ系の名の知れた大学、そこの空手部員とのこと。米国の道場かどこかで黒人と乱取りをし出血させてやったとか、「身辺警護の職求む」なる広告を新聞に掲載したとか、勇ましい話ばかり。その泰然とした様子は懐具合とスイスの寒さに縮む私とはいかにも対照的ではありました。しかしそんな彼が相身互いとばかり、今後のバイト捜しにおける同一行動を申し入れてくれたことは、私にとって本当に助かったことでした。

フランキー、ルディにパゴス、来喚く遠慮配慮は一切なき輩
※3人のマレーシア人たちがあとから来館し私を日本人(か同じアジア人)と見るや一斉に寄って来て、その後はまあ喋るは喋るは、聞きもしないことまで互いに冗談を交えながら大声で喋りまくる。訪欧の目的は何か。「仕事か?遊びか?女か?」等フランキーの名前ではないがフランクに且つぞんざいに聞いてくるのです。フランキーとルディは中国系でパゴスはマレー系。私がここまで一人旅で欧州人たちの差別に萎縮していたのと比べ、そんな風情は一切皆無、私が萎縮を云おうものなら恐らく大声で笑い出したでしょう。彼ら3人とはこの数ヶ月後に同じバイト先で再会するのですが、少なくもここバーゼルのユースにいる間は、ことバイト探しに関しては一切私や松山氏に情報を漏らさなかった。これはアラブ人たちも同じでお互いがバイトを獲得する上でのライバルだったのです。しかしともかくも、彼らの出現とその有り様は少なからず私を感化し、些かでも気強くしてくれたものです。
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