だから人間が好き

韋虹姫 響華

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第四章 〜足りない時間〜

病弱な彼女のために

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「ねぇ……いつまで、触ってるの?」
「アタシが満足するまでに決まってるじゃない」

 突然だが、吾輩は今身動きが取れない。何故と言われたら見たまんまなのだが、後ろ足をご主人と寄凪よりなに握られている。肉球がたまらないと、吾輩の足に夢中な訳だ。
 ご主人は後ろ足が触れないからと前足を触っている。寄凪に至っては後ろ足を、太ももにかけて触って来ている。しかし吾輩も寄凪のこの触り方を、マッサージのように感じている故に抵抗出来ぬ。すまぬがご主人、今は寄凪に吾輩を任せてくれないだろうか。

「そうよねファシィ~、アタシのマッサージ好きだもんねぇ」
「……。いいよ、さっさと依頼……終わらせてくる」

 明らかに不機嫌である。そんなご主人も吾輩は好きだ。
 ベンチを立って、近くの病室へ入るご主人。今回も何とも奇妙な依頼が、吾輩の住まう何でも屋のもとに届いたものだ。

 数日前のことだ。気の弱そうな少年が、突然として事務所に押しかけてきた。そして、子どもが持ってるのは目を疑うほどの大金を取り出したもんだから、ビックリだぜ。あ、こういうのを猫に小判って言うのかね?よくは知らないけど。
 そんでもって、依頼内容が病弱で病室にいる女性に恋をしたから、彼女が元気になるために何か出来ないかというものだ。その大金で惚れた女の手術代とかに当ててやれば、一番の手助けになるんじゃないかと吾輩は思っちゃうけどね。
 とはいえ、人間世界での礼節ってもんがあるってことで寄凪とご主人が依頼を引き受けて、依頼主の気になっている人が入院している病室に来たというのが一連の流れだ。
 ん?なんで病院に猫が居るのかだって?そんなこと聞かないでくれないか。吾輩は別に依頼の付き添いで来た訳じゃない。

「はいお次、猫のファシィちゃん。診察のお時間です」
「あ、はーい。ほら、いくわよファシィ」

 ここは複合病院だったのだ。もうここまで言えば分かるだろう。今から吾輩にとって、最悪の時間が訪れようとしている。
 寄凪の手元を離れ、ベッドに寝かされるとゴム手袋のニオイがプンプンの手で体を触られる。これが健康診断というやつか。ご主人が、前のご主人から託されたわけでもない吾輩が、健康体であるのか気になると言い出してこうなったのだ。
 実は前にも一度だけ経験したことがあるのだが、触診しょくしんの後に待っているものがなんだが分かるだろうか。おそらく人間でも苦手な人はいるはずだ。ヒンヤリした布でお腹を拭かれる。首周りにつけられたエリマキトカゲのエリマキみたいなやつのせいで、吾輩には何をされているのか見ることが出来ない。

「すぐに終わるからねぇ、じっとしていようねぇ」
「がんばろうねファシィちゃん」

 もうその言葉で分かる。
 今、吾輩にアレが向けられていることが──。あまりにも嫌い過ぎて、脚をバタバタと暴れてしまう吾輩を二人がかりで押さえつけてくる。ダ、ダメだ……こ、このままでは死んでしまう!?ご主人、助けてくれ──。


──チクッ...


 ああ、終わった。体から何か吸われているこの感覚、その手前の一瞬の痛み。吾輩の人生、いや猫生も最早これまでか。

「はい、終わりましたよ。次はレントゲン行きますよ」

 こいつらに人の心はないのだろうか。
 レントゲンを撮る際も二人がかりで押さえつけ、検便に至っては事前に出せなかっただけでお尻に綿棒を突っ込まれて、吾輩に生き恥を晒させてきた。
 最後に超音波検査なんて、聞いただけも意味不明な検査をして終了。迎えに来た寄凪に爪を立て気味にしがみついて、グルルと泣く吾輩を寄凪は優しく抱きしめてくれた。
 待合室で吾輩の健康診断費用を支払う寄凪は、その金額に眉を歪ませないように耐えながらため息を漏らしていた。そんなに猫の健康診断はお高いのだろうか。であるのなら、吾輩は健康診断なんてやらなくていいとさえ思う。いや、寧ろなくすべきだ。自分の体は自分が一番知っている。

 最悪な時間を脱した吾輩は、病院を出てご主人の帰りを寄凪とともに待っていた。少しして病院から出てきたご主人が、寄凪から吾輩を奪うように抱き抱えると情報共有を始めた。

「あの子……もう長くない。手術は出来ないって……体力的に」
「そ、そうなんだ。その様子だと病室を抜けるのも?」

 ご主人は首を立て振って静かに頷いた。
 これだから病院は嫌いなのだ。自慢ではないが、吾輩達猫は人の寿命というものがなんとなくではあるが、分かってしまうものである。ご主人が入ろうとして引き戸を開けた一瞬で、中にいる患者の生命が消えかかっていることを感じ取っていた。
 もちろん、それはその病室だけに限ったことではない。健康診断を受けるまでに少なくとも五人は、残りわずかである人間をこの目で見ている。

 そんなことはどうでもいいとして、この得た調査結果をあんな子どもである少年になんて説明するつもりなんだ。吾輩から見ても、中学生くらいのガキだったからには、直接的に言うと危険な考えに走ってもおかしくはない。
 ひとまずは、家へと帰ることにする。明日以降に改めて、少年への説明を考えることにしたご主人達なのであった。
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