だから人間が好き

韋虹姫 響華

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第四章 〜足りない時間〜

足りない時間①

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 朝から探偵事務所に電話がかかって来た。
 吾輩は電話に出る寄凪よりなを見て、何となく察した。これは抜け出したのだろう、依頼人が病院を──。

「分かりました!行き先なら、おそらく例の女性の居る病院だと思いますので直ぐに向かいます!」
「待って……」

 時同じくして、ご主人の方にも電話がかかって来た。相手は黎創りそうのようであったが、顔色からして今起きている出来事に拍車はくしゃをかけてくる内容と見た。
 ご主人は電話を切って、寄凪の方へ向いて口を開いた。

「病室に居ないって、あの女性……。今朝から姿が見えず……、看護婦さん達、大慌て……」

 なんてこった。吾輩でも流石に驚く。
  病室だけでなく、病院を抜け出した?それも二人とも。まだそれだけの体力があったとは、いやそうじゃない。
 連絡を取ったわけでもない二人が揃って飛び出したとして、何処へ向かうというのだ?待ち合わせを事前にしていた?それとも、吾輩達が関わる前から二人だけにしか分からない、落ち合う場所があるとでも言うのだろうか。うぎゃぁ!?

「行くよ、ファシィ……」
「それじゃ、アタシは依頼人のご両親の方へ行ってくる。黎創君に、病院で女性のことについて聞いてもらってるから、怜美鵺れびやは病院間の一帯を探してちょうだい」
「……分かった」

 こりゃあ、本格的にヤバくなって来たんじゃないだろうか。
 吾輩もまだ、推理の途中なんだけどな。まぁ、考えても仕方なし。ここは一先ず、二人を探すことに専念するとしよう。

 この街のことは、吾輩もよく知っている。うちには「この街はオレの庭さ」なんて言う、頭の中に地図が入っているやつも居るんだが吾輩も負けてない。今回の病院間を結ぶ区域には、デートスポットと呼べるものは片手に収まる分しかない。
 ご主人が取り出したスマホのマップに向かって、爪で指し示してそこへ向かうことにする。一件目のデートスポットは、大型ショッピングモールだ。ここにはゲームコーナーもフードコートもあるだけでなく、映画館やカラオケなども充実している。
 家族やカップルが入っていくところを、ひっきりなしに見ている場所だ。

「でも……うるさ過ぎ……」

 確かにご主人の言うとおりだ。
 こんな機械音と大衆で賑わっている空間に、病室で安静にしていないといけない患者が来れるだろうか。まず来れないとみるのが自然だ。吾輩はそれを考慮出来ていなかった、不覚……。
 気を取り直して、次の目的地を定めて街を走った。

 次に来た場所は水族館だ。ここなら静かな空間なので、騒がしい音もなく過ごせる。
 それに建物自体も大きく、待ち合わせ場所にするにしたって打って付けの場所だろう。吾輩は魚を捕まえて食べるなんて習慣ないので、水槽の魚を見ても何の食欲も湧かない。だから魚達を観てみたいものだ。

「ダメ……」
「そうだな、あの体じゃあここを通れない。他を探そう」

 リクガメのヤツが言っている《ここ》とは、ゲートのことだ。
 身体障害者用のゲートもあるが、車椅子を押しているわけでもない二人では自力でここを通る必要がある。
 杖をついているかは不明である以上、組員の手を借りないと中へは入れないであろう。

「そもそも、病院から抜け出したってことは2人とも、病院服のままだろう?そんな目立つ格好してて、こんな場所にこれっかよ」

 ぬぐっ。いちいちかんに障るリクガメだ。
 しかし、コイツの言っていることも一理ある。人に見つからずに抜け出せていること自体、夜のうちから行動していると見ていい。
 それでいて、他人の手を借りることなく出歩いているとすれば、そこまで遠くへは行けていないのではないだろうか?だとして、何処に向かうのが一番二人にとって負担にならないのか。そう考えれば、デートスポットにはまず行かない。

「電話……」

 ご主人は電話に出る。
 連絡相手は黎創のようだ。どうやら、女性が入院していた病院で得た情報で有力なものがあったらしく、ご主人に伝えるために連絡して来た。吾輩はご主人の肩によじ登り、スピーカーから漏れ出てる黎創の声に耳を澄ます。

 事務所へ依頼に来る前のこと、少年は女性が入院している病院で精密検査を受けたことがあった。その時が、二人が初めて出会った日。これは女性から聞いた、飲み物を取ってあげたという時のことと一致していた。
 精密検査の結果について、看護婦が噂しているところを女性は聞いていたかもしれないと、黎創が聞き込みをした看護婦が答えた。内容は病状的に余命が長くないということ、それだけでなく少年が笑顔で言ったことを哀れんだ言い方をしていたのだそうだ。

「いつか好きな人が出来たら、家族と最初に花見をした並木道に行きたいんだって、そう言っていたらしい。しかもその並木道は、ここから近いんだって。と言っても───」

 話の最中だが、ご主人は電話を切り走り出した。
 振り落とされた吾輩も、置いていかれないようについて行く。この辺で桜の咲く並木道なんて、一つしかないのだ。それを知っているご主人は、無表情のままひた走るのみ。
 病院から近いと言ったって、徒歩では数時間はかかる距離だ。それも最悪なことに、あの辺は人通りが少なければ車道とも隔離かくりされた歩道街になっている。

 極めつけはマップを見て、その並木道を通ることで二つの病院を行き来する事が可能であることが、今更になって判明してしまったのである。
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