トリップしたおっさん、18禁乙女ゲームの悪役令嬢を手篭めにする

柴田

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おっさん、修羅場に居合わせる。

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 人がいることに気づいた王子とヒロインが慌てて交合を解き、服を掻き合わせる。

「ロ、ローゼ……!? なぜここにっ」

 このような場所で行為に及んでおきながら、まずいことをしたという自覚はあるらしい。青褪めた王子の額には冷や汗が滲んでいる。
 露出した下半身を隠すために急いでスラックスを穿く姿に、ローゼは百年の恋も冷めたような顔だ。

「殿下。アカデミーで淫行に耽るなど王族としてあるまじき振る舞いですわ」
「違うっ、これは……」

 ローゼの指摘は真っ当だ。
 今さら言い逃れなんて出来やしないというのに、必死に言い繕おうとする王子に呆れてしまう。晴信は大きなため息をついてしまいそうになり、頬の内側を噛んで耐えた。

 注意は王子だけに留まらず、ローゼの鋭い眼光はヒロインにも向けられた。

「そこのあなた」

 跳び上がるようにして驚いた彼女は、王子の背に隠れてぷるぷる震えだす。

「特待生として学費を免除されている立場であるにもかかわらず、学内でいかがわしい行為をする不真面目な態度が許されると思っているのかしら」

 怯えるヒロインを抱き締め、王子がギロリと睨みつけてくる。
 彼はそれからふと合点がいったというように目を見開き、軋む音がなるほど奥歯を噛み締めた。先ほどよりもさらに憎々しげに眉を吊り上げ、ローゼを見据える。

「……あぁそうか。そうだったのか。見損なったよローゼ」
「何をおっしゃりたいのやら」
「ローゼ貴様、いつもそうやって彼女をいじめていたんだな!?」
「いじめ……?」
「とぼけても無駄だ! すべて彼女から聞いている!」

 唾が飛ぶほど声を荒らげる王子のせいで、校舎の窓から顔を出した生徒がこちらを覗き込んでいた。
 晴信はハラハラしながらローゼと王子たちを交互に見る。

「醜い嫉妬だな。平民でありながら誰よりも優秀で、いつも笑顔で明るい彼女にはおのずと人が集まる。それを妬んだんだろう? 今まで自分のものだった称賛がすべて奪われたのがそんなに憎いか?」
「身に覚えがございませんわ」
「言いがかりをつけては孤立を促し、公爵家の生まれであることを誇示して萎縮する彼女をキツイ言葉と態度で責め立てたのだろう! 今のように! 生徒たちの規範となるべき立場の者がいじめを煽るとは……呆れ果てる。それがいずれ国母になろうという者のすることか!?」

 晴信はつい白けた表情をしてしまった。今言ったことすべて、王子にブーメランでぶっ刺さっているような気がしてならない。
 しかし王子は自分のことを棚に上げ、野次馬に聞かせるように声高らかに主張する。

 晴信の知るローゼは、悪魔召喚を試みるまでは淑女のお手本と呼ぶべき存在だった。王子の言うような陰湿ないじめをするとは思えない。

 いまいち信じられなくて「ほんとにそんなことしたの?」とローゼに耳打ちする。

「少し注意をしただけよ。婚約者のいる殿方に気安く接してはいけないとか、基本的な礼儀を教えてあげたりとかね。ほかの生徒からも度々そのことについて相談を受けていたから、軋轢が生じる前に対処する必要があったわ。わたくし、アカデミーの治安を守る風紀委員長ですもの」
「ほーん。僕が初めて出会ったときはめちゃくちゃ治安乱そうとしてたけど」
「あれはっ、婚約者の浮気現場を見て正気でいられるわけないでしょう……」
「それもそうだ」

 黒魔法で呪い殺そうとするのはやりすぎだと思うが、未遂なのでよしとしよう。晴信はつい贔屓してローゼをかばってしまうのだった。
 このクズな王子の本性を見てしまったが最後、誰でも彼女の擁護をしたくなるだろう。

 だが野次馬が王子の発言を聞いてどう思ったのか気にかかる。まさか信じる人はいないだろうと思いたいが、ざわめく様子はどちらともとれる。
 野次馬の声を味方につけた気になっているのか、王子が皮肉な笑みを浮かべた。

「それとも、そうまでして俺の気を引きたかったのか?」
「……っ」
「図星か?」

 ローゼの気持ちを知っていて浮気したのならなおさらたちが悪い。胸糞悪かった。

 王子の立場からしてみれば、親に決められた婚約者に愛がないのは当たり前のことなのかもしれない。けれどそんな関係でも最低限の礼儀というものがあるだろう。
 ローゼがかわいそうだ。実際はヒロインにまだ何もしていないのに、どうしてここまで言われないとならないのか。所詮他人事なのにひどい憤りを感じる。頭の血管がプチンと切れそうだ。

 晴信は自分が今どのような表情をしているのかわからなかった。少なくとも、いつものようにへらへら笑っていられる気分ではない。

「嬢ちゃん、もう行こう」

 これ以上ローゼの心が傷つくのは避けたい。
 この場から離れることを促すが、ローゼの足は縫いとめられたように動かなかった。

「醜い嫉妬心で暴走するような女を王子妃にはできないな。その座に相応しいのは、思慮深く、おおらかで優しい女性だ。そう――彼女のように」
「王子様……」

 頬を赤らめるヒロインを、王子がさらに抱き寄せる。

「俺は彼女を王子妃に……そしていずれは王妃に迎えたいと思っている。だからローゼ、貴様との婚約は破棄する!」

 ――おお、テンプレ展開。


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