その悪女は神をも誑かす

柴田

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第一皇子の生誕パーティー(2)

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 図らずも注目を浴びることになってしまった兄のマイルズは、うんざりした様子だ。
 パーティーに参加するためにはパートナーが必須である。メリーティアは誰にお願いしようかと悩んでいたが、結局マイルズをパートナーとして伴うことにした。
 マイルズは支度を終えたメリーティアを目にした瞬間パートナーを辞退しようとしたが、妹のためだと苦渋を飲んでこの場に立っている。しかし早くも後悔しているようだ。

「メリーティア、ほかにドレスがないなら買ってやったのに……!」
「あらでもきれいでしょう? わたしによく似合うわ」
「そりゃあきれいさ! きれいなのは認めるよ! でも兄のパートナーとしては派手すぎる」
「入場のときだけ我慢して。わたし、今日はほかに踊りたい男性がいるの」

 メリーティアがそう宣言すると、マイルズは目を丸くした。
 グウェンダルにぞっこんだったメリーティアが、彼との婚約を解消したことだけでもまだ信じられていないのに、さらにほかに踊りたい男がいるということに混乱する。それならその男をパートナーに誘えばよかったじゃないか、という文句も咄嗟に出ず、マイルズは口を噤んだ。

 侯爵家の入場が済むと、今度は公爵家だ。
 ヴェドニア帝国には皇后の生家とホールトン家を含め、公爵家は三つ存在する。

 二番目に入場したグウェンダルの姿に、どよめきが起こった。
 メリーティアもまた呆気にとられる。

 グウェンダルの隣に、見知らぬ女性の姿がある。パーティーへの出席にはパートナー同伴が必須なのだから、当然と言えば当然なのに、メリーティアは今の今まで彼の隣に別の誰かが立つことを想定していなかった。
 パツッと切り揃えられた雪色の髪が、息を呑むほど美しい女性だ。真っ白な肌やほんのりと血色が滲んだ頬は儚げで、庇護欲をそそられるほど華奢な身体をしている。その美貌はグウェンダルの隣にいても引けを取らない。
 一度見たら忘れられないだろうに、ホールトン家の領地でも、帝都でも見たことがない。それはメリーティア以外も同様のようで、「あの方は誰なの?」と囁く声が絶えなかった。

 メリーティアと婚約解消をしてもう三カ月も経ったのだから、新しい婚約者がいても不思議ではない。グウェンダルが幸せになることを祈っていたのだ。そこにメリーティア以外の女性と幸せになる、という選択肢も当然あるだろう。
 それでも胸が痛むのはどうしようもなかった。
 グウェンダルからフイと顔を背ける。

 するとちょうどそのとき、皇族の入場が高らかに告げられた。
 ケイリクスと皇后、それから皇子たちが入場する。今夜の主役である第一皇子が挨拶する間、メリーティアはじっと彼を見つめていた。


 皇族の入場が終わると、ダンスの前に歓談の時間が設けられた。
 第一皇子と皇后の周りには人だかりができており、そのすぐ隣には第二皇子の姿もある。第二皇子のそばには、挨拶をしているのだろうグウェンダルとパートナーの女性もいた。ケイリクスはというと、ひとり玉座にかけてメリーティアの動向をただ眺めているようだ。

 早速第一皇子に接近を試みようとすると、突然マイルズに腕を引かれる。

「どこ行くんだメリーティア。みんなで第二皇子に挨拶をしに行くよ」
「ちょ、ちょっと待ってってば」

 皇子たちは近くにいるとはいえ、第二皇子のところにはグウェンダルがいる。抵抗してもマイルズに力で勝てるはずはなく、母や父からも「観念しなさい」と言われた。もしや彼らの目的は第二皇子ではなくグウェンダルだな? とメリーティアが気づいた頃にはもう遅かった。

「第二皇子殿下、ご機嫌麗しゅう」

 父の挨拶に合わせて頭を下げる。

「ハイゼンベルグ侯爵。ご婦人。それにマイルズと妹君も。ひさしぶりに会えてうれしいよ」

 第二皇子ユージーン・リオル・ヴェドニアは、ケイリクスによく似た顔立ちなのに、父親とは真逆の人の好さが滲み出た笑顔を浮かべていた。
 たしか、まだ16歳のはずだ。子どもの柔らかさが残る骨格をしていながら、ケイリクス譲りの整った容姿はすでに完成されている。プラチナブロンドを顎の高さで切り揃えた奇抜な髪型も、彼の涼しげな雰囲気にはよく似合っていた。瞳の色もケイリクスと同じ碧眼だが、汚い大人とは異なり光り輝くように澄んでいる。

 メリーティアが覚えている彼の姿とは随分違った。足元に跪いて何度も「すまない」と頭を下げていた記憶が霞むほど、本来の彼はきらきらしい美少年だったようだ。
 外見のとおり性格もよく、頭脳のほうも稀にみる優秀さで、賢王になる器だと彼の教育係が鼻高々に語っているとか。
 そのためユージーンを支持する貴族家は多い。だが、皇妃の出身が彼の足かせとなっていた。

 ユージーンの母は、聖国ハイネとヴェドニア帝国の同盟のためにケイリクスと結婚した。当初は王女として嫁いできたのだが、あとから私生児だと判明したのだ。正当な王家の血筋でもなく、祖国での立場も弱いため、到底ユージーンの後ろ盾にはなり得なかった。また身体も弱かったようで、彼が幼い頃に亡くなっている。

「マイルズ、この間は補佐官試験おつかれさま」

 微笑んだユージーンは、マイルズに顔を寄せてこそこそと耳打ちした。

「ここだけの話、君は無事合格だよ」

 マイルズ本人だけではなく父や母にも聞こえていたようで、こっそりと大喜びしている。そのあとに待ち受けていた悲劇を思うと、メリーティアは心配が勝ってしまい手放しに喜べそうにはなかった。

「――第二皇子殿下、私はそろそろ失礼いたします」

 間に割って入ったのはグウェンダルだ。

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