幼なじみ公爵の伝わらない溺愛

柴田

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「ダリアはわかっていないようだけれど、僕にこんなことができるのはダリアだけなんだよ?」
「変態ヘンリーは誰にでも腰を振るんでしょ」
「僕のこれは生涯ダリア専用だよ。ダリアにしか勃起しない。それに僕を縛っていいのも、弄んでいいのも、僕におあずけさせられるのも、僕の上に乗っていいのもダリアだけだ」
「…………」

 ダリアはヘンリーの言葉を信用していないのか、目を半分に細めて訝しげに見てくる。

 ほかの誰かがダリアと同じことをしようものなら、ヘンリーはきっと相手の首を捻って殺してしまうだろう。それを見せれば納得するだろうか。とびきり妖艶な裸の女性を目の前にしても萎えきった陰茎を見せれば、ダリア以外には反応しないと信じてくれるだろうか。

 ダリア以外に笑顔を見せるなと言われればそうする。笑っていたほうが何かと円滑に進むというだけで、ヘンリーとてどうでもいい相手に笑顔を向けたいわけではない。
 ダリア以外と話すなと言われれば、皇帝であろうと口を利かないという選択をするのがヘンリーだ。
 誰の目にも晒されぬよう閉じ込めておきたいと言うのなら、対外活動用に影武者やそのための側近を用意すれば叶えられない願いではない。

 どこまでだってしてあげられる。なんだってさせてあげられる。
 ダリアにそれを実感させるためには、どうするのが一番効果的か、ヘンリーは考えていた。一つの結論が出ているには出ているのだが、問題はダリアが了承してくれるか否かだ。
 これまでならきっとダリアは跳ねのけていただろうそれを、今であれば受け入れてくれる気がした。

 想定外のことではあったものの、クレマンティーヌとの結婚を皇帝が打診してきたのは、とてもいいタイミングだったと言えよう。そのせいでダリアが不安に陥ったあまり、邸宅から逃げ出すような状況にさせてしまったことについては、皇帝もクレマンティーヌのことも許していないけれど、きっかけをくれたことには概ね感謝している。

「ねえダリア」
「……何よ」
「僕がほかの女性に興味を惹かれるんじゃないかと不安なら、僕を縛りつけていいよ」
「もう縛ってるじゃない」
「物理的じゃない、もっと確実ないい方法があるんだ」
「いい方法?」
「僕と結婚しよう、ダリア」
「…………え?」

 ダリアはこぼれ落ちてしまいそうなほど目を見開いていた。
 正式なプロポーズはきちんと場を整えてからするとして、今はダリアの気持ちを捕まえておくほうが先決だ。また何かの拍子に逃げ出されてはたまらない。どうせ逃げ出すことはできないのだが、「逃げなければ」とダリアに思わせてしまうことをなくしてあげたかった。

「え、なにそれ、何言っているの? だって、あんたはクレマンティーヌ皇女と……」
「今日、ちゃんと断ってきたよ」
「……断れるものなの?」
「僕にできないことはないんだよ、ダリア」

 クレマンティーヌとの結婚を拒否するのは、それほど難しいことではなかった。

 今のロド帝国は、どちらかといえば皇族よりも貴族たちの勢力のほうが強くなっている。ハイデル公爵家とそれに連なる家々が取り潰されたおかげで天秤はやや皇族寄りに戻ったものの、もう一つの公爵家が貴族派のため、まだ貴族の力のほうが大きい状況が続いていた。
 イングリッド公爵家はずっと中立を保っている。

 今回の求婚の件に関しては、クレマンティーヌが皇帝を動かしたかたちには違いない。けれど皇帝にも、皇女であるクレマンティーヌをヘンリーの妻とすることで、イングリッド公爵家を味方に引き込みたい意図があったはずだ。
 しかしヘンリーは強い反発を見せた。望まぬ結婚をさせられるくらいなら、ロド帝国から独立する意思があることをちらつかせれば、皇帝はたちまち求婚を撤回したのだ。

 イングリッド公爵家はロド帝国内にも広大な領地を持ち、諸外国にも領地を有している。貿易をほぼ一手に担う巨大な港もイングリッド公爵家の領地内だ。またさまざまな種類の鉱山をいくつも所有し、ほかにも手広く事業を行うイングリッド公爵家の資産は皇家をも凌ぐと噂されている。
 そんなイングリッド公爵家が帝国から独立してしまうのは、皇家にとってひどい痛手だった。
 ヘンリーとの結婚を望む娘の気持ちと、天秤にかけるまでもない。

 ヘンリーは、皇帝を説得し求婚を取り下げさせる自信があったから、ダリアに待っているよう言ったのだ。ヘンリーは自分が到底叶えられないことであれば、ダリアに夢を見させるようなことはしない。

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