幼なじみ公爵の伝わらない溺愛

柴田

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28ー1.毎晩、君の目の前で ※

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 おなかが少し目立つようになってきた頃には、つわりもほとんど落ち着いていた。たまににおいで気分が悪くなることはあれど、吐くまではいかない。

 心のほうもかなり安定してきた――とは、まだ言い切れなかった。
 夜中の寝室。ヘンリーの寝息が聞こえてくる一方、ダリアはなかなか寝付けずにいた。
 寝返りをうったヘンリーが背を向けている。ダリアはその広い背中を見つめては、はあ、とため息をついた。

 妊娠が判明してからというもの、ヘンリーと一度も関係を持っていない。つわりがひどかったときは仕方がなかったとはいえ、落ち着いてからも一切そういう雰囲気にはならなかった。自分たちがほとんど身体で繋がっているような関係だと考えているから、ダリアは不安でたまらない。
 このままでは、ヘンリーがほかの女性に目移りしてしまわないかと。

 自分が言うなといったくせに、ダリアは今になって、ヘンリーがあれから一度も「愛してる」を言わないことを気に病んでいた。愛してると言われたところで、今の己がどう感じるかもまだわかっていないというのに。
 ヘンリーの態度や言葉の節々からも愛を感じられる。それでも不安でたまらなくなるのはどうしてだろうか。ヘンリーを好きだと自覚したのに、信じてあげられる自信がダリアにはまだなかった。

 男性は定期的に精を吐き出さなければならないと聞いたことがある。ヘンリーがそうしている素振りはない。ダリアは、ヘンリーがそれはもう性欲が強いほうだと思っている。きっと今は、ダリアの体調を慮って遠慮しているのだろう。
 もしかしたら、妊娠中の膨らんだおなかのせいで興奮しないのかもしれない――とは考えたくなかった。

 そのうち、ヘンリーが性欲を持て余してしまったらどうなるのだろうか。
 もし娼館を利用すると言い出したら、ダリアは許してあげなくてはならない? そこに愛がないなら、と受け入れてあげるべき?
 ――そんなの嫌だ。

 ダリアはヘンリーの背中にぴとりと寄り添った。手を前に回して抱き着けば、さすがにヘンリーが目を覚ます。掠れた声で名を呼ばれ、ダリアはドキドキと弾む自身の胸の音を聞きながら、ヘンリーのおなかのあたりから手を下ろしていった。
 すり、と股間を撫でると、ヘンリーに手首を掴まれる。

「ダリア? どうしたの?」
「こっち向かないで」
「…………」

 振り返ったヘンリーに見つめられ、ダリアは押し黙った。なんと言いだせばいいのか迷って、言葉が喉でつかえてしまう。

「最近……シてないから……久しぶりにどうかなって思っただけよ」
「本当に? それだけ?」
「…………ええ」
「お誘いはうれしいけれど、子どもが生まれるまではしないって決めてるんだ。ダリアにもおなかの中の子にも、何かあったらいけないからね」

 予想どおりの返答を受け、ダリアは下唇を噛み締める。それじゃあヘンリーはどうするの? だなんて、聞いたらさすがにまずいだろうか。疑われて気分がいい人などいないだろう。

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