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第二十五局 ランチタイムでも矢倉さんの守りは固い
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二回戦。東高校との対決は矢倉さんといちご先輩が問題なく勝利して、僕が負けた。
予想通りといえばそれまでなのだけれども、ここまで僕は一つも勝てていない。勝負はいい感じだったとは思う。
相手は居飛車の雁木囲いだった。僕は四間飛車。攻防は一進一退だったけれど、僕が詰み筋を見逃して負けた。
簡単な三手詰めだったのだけれど、僕は気がつく事が出来なかった。
がっくりと肩を落とす。
「まぁまぁ。美濃くんもちゃんと力をつけてきているよ。詰み寸前までもっていけたのだから、次こそ勝てるって。ボクが保証するよ」
いちご先輩はサンドイッチをつまみながら、僕の肩をぽんとたたいた。いまは昼休憩中だ。
矢倉さんがお弁当を作ってきてくれていた。
「験を担いでカツサンド、作ってきましたから。美濃くんも食べてくださいね」
手作りのかわいらしいサンドイッチの間にトンカツにチキンカツ、ハムカツが挟まっていた。いろいろ作ってきてくれたらしい。
せっかくなので僕もいただく。ぴりっとするのはマスタードだろうか。キャベツとカツの組み合わせがとてもおいしい。
矢倉さんの手作り弁当。普段ならそれだけで僕の心は舞い上がったはずだけれど、今は何の力にもなれていない自分が悔しくて歯がゆい。
「すごくおいしいです」
なんとか笑顔を見せる。
でも無理矢理に作った笑顔は矢倉さんにはお見落としだったようで、僕の方をじっと見つめてくる。
「お口に合いませんでしたか?」
「いえっ。そんなことはないです。ほんとにすっごくおいしいです!!」
僕は思わず立ち上がって力説する。味は本当においしい。力がわいてくるような気がする。ただ僕の表情は勝てない事への焦りなのか、悔しさなのか。どうしても晴れなかった。
「ただ僕が足を引っ張っているのが、悔しくて」
「美濃くん。大丈夫です。きっと次は勝てます」
矢倉さんが僕の手をとっていた。
僕の右手を両手で包み込んで、ぬくもりが僕へと伝わってくる。
「あらあらあら。これはこれは。ボク、お邪魔だったかな」
その様子をみていちご先輩がちゃちゃを入れる。
「えっ、えっと。これはそうじゃなくて」
同時に矢倉さんは手を離して顔を真っ赤に染めていた。
たぶん僕の顔も同じように赤く染まっているのだろう。
「いちご先輩、からかわないでくださいよ」
「ふふ。ボク、しばらくあっちにいっているよ。木村先輩と菊水先輩の方も気になるしね」
いいながらいちご先輩は立ち上がる。
個人戦の方は終わっていないようだから、見学しにいくのかもしれない。
「矢倉ちゃん、サンドイッチおいしかったよ。ありがとね」
いちご先輩はウインクしてみせると、それからツインテールを揺らしながら個人戦の会場の方へと向かっていっていた。
ここには僕と矢倉さんの二人だけが残される。
「も、もう。いちご先輩ってば、変な事いうんですから」
矢倉さんが口の中でもごもごと何かをつぶやいていた。
たぶんいちご先輩への苦情を告げているのだろう。
でもこうして矢倉さんと二人でいられるのは嬉しいかもしれない。
「矢倉さん」
僕は矢倉さんの名前を呼ぶ。
「は、はいっ。美濃くん、なんでしょう」
「次は絶対勝ちますから」
「美濃くん」
矢倉さんは僕の顔をじっと見つめる。それからこくりとうなずいて、僕へとはにかむようにほほえんでいた。
「いまの美濃くんなら、きっと勝てます」
手をぎゅっとにぎって、僕へと力をわけあたえてくれる。
「そうだ。えっと美濃くん、赤ペンもってますか?」
何かを思いついたようで矢倉さんは突然赤ペンを要求してくる。
「あ、はい。どうぞ」
鞄の中から赤ペンを取り出してさしだす。
「利き手をだしてください」
「え? あ、はい」
言われるがまま右手を差し出してみる。
すると矢倉さんは赤ペンで僕の親指と人差し指の間に何かマークを描き始める。
「出来た。これ。勝利のおまじないなんです。きっとこれで勝てると思います」
手のひらにかわいらしいスペードのマークが描かれていた。
じっと僕はそのマークを見つめてみる。
なんだか本当に勝てるような気がしてきた。
「はい。絶対に勝ちます!」
僕は新しい決意を胸に勝利を宣言する。
矢倉さんの描いてくれたおまじないが、きっと僕に力を与えてくれる。
そう信じていた。
予想通りといえばそれまでなのだけれども、ここまで僕は一つも勝てていない。勝負はいい感じだったとは思う。
相手は居飛車の雁木囲いだった。僕は四間飛車。攻防は一進一退だったけれど、僕が詰み筋を見逃して負けた。
簡単な三手詰めだったのだけれど、僕は気がつく事が出来なかった。
がっくりと肩を落とす。
「まぁまぁ。美濃くんもちゃんと力をつけてきているよ。詰み寸前までもっていけたのだから、次こそ勝てるって。ボクが保証するよ」
いちご先輩はサンドイッチをつまみながら、僕の肩をぽんとたたいた。いまは昼休憩中だ。
矢倉さんがお弁当を作ってきてくれていた。
「験を担いでカツサンド、作ってきましたから。美濃くんも食べてくださいね」
手作りのかわいらしいサンドイッチの間にトンカツにチキンカツ、ハムカツが挟まっていた。いろいろ作ってきてくれたらしい。
せっかくなので僕もいただく。ぴりっとするのはマスタードだろうか。キャベツとカツの組み合わせがとてもおいしい。
矢倉さんの手作り弁当。普段ならそれだけで僕の心は舞い上がったはずだけれど、今は何の力にもなれていない自分が悔しくて歯がゆい。
「すごくおいしいです」
なんとか笑顔を見せる。
でも無理矢理に作った笑顔は矢倉さんにはお見落としだったようで、僕の方をじっと見つめてくる。
「お口に合いませんでしたか?」
「いえっ。そんなことはないです。ほんとにすっごくおいしいです!!」
僕は思わず立ち上がって力説する。味は本当においしい。力がわいてくるような気がする。ただ僕の表情は勝てない事への焦りなのか、悔しさなのか。どうしても晴れなかった。
「ただ僕が足を引っ張っているのが、悔しくて」
「美濃くん。大丈夫です。きっと次は勝てます」
矢倉さんが僕の手をとっていた。
僕の右手を両手で包み込んで、ぬくもりが僕へと伝わってくる。
「あらあらあら。これはこれは。ボク、お邪魔だったかな」
その様子をみていちご先輩がちゃちゃを入れる。
「えっ、えっと。これはそうじゃなくて」
同時に矢倉さんは手を離して顔を真っ赤に染めていた。
たぶん僕の顔も同じように赤く染まっているのだろう。
「いちご先輩、からかわないでくださいよ」
「ふふ。ボク、しばらくあっちにいっているよ。木村先輩と菊水先輩の方も気になるしね」
いいながらいちご先輩は立ち上がる。
個人戦の方は終わっていないようだから、見学しにいくのかもしれない。
「矢倉ちゃん、サンドイッチおいしかったよ。ありがとね」
いちご先輩はウインクしてみせると、それからツインテールを揺らしながら個人戦の会場の方へと向かっていっていた。
ここには僕と矢倉さんの二人だけが残される。
「も、もう。いちご先輩ってば、変な事いうんですから」
矢倉さんが口の中でもごもごと何かをつぶやいていた。
たぶんいちご先輩への苦情を告げているのだろう。
でもこうして矢倉さんと二人でいられるのは嬉しいかもしれない。
「矢倉さん」
僕は矢倉さんの名前を呼ぶ。
「は、はいっ。美濃くん、なんでしょう」
「次は絶対勝ちますから」
「美濃くん」
矢倉さんは僕の顔をじっと見つめる。それからこくりとうなずいて、僕へとはにかむようにほほえんでいた。
「いまの美濃くんなら、きっと勝てます」
手をぎゅっとにぎって、僕へと力をわけあたえてくれる。
「そうだ。えっと美濃くん、赤ペンもってますか?」
何かを思いついたようで矢倉さんは突然赤ペンを要求してくる。
「あ、はい。どうぞ」
鞄の中から赤ペンを取り出してさしだす。
「利き手をだしてください」
「え? あ、はい」
言われるがまま右手を差し出してみる。
すると矢倉さんは赤ペンで僕の親指と人差し指の間に何かマークを描き始める。
「出来た。これ。勝利のおまじないなんです。きっとこれで勝てると思います」
手のひらにかわいらしいスペードのマークが描かれていた。
じっと僕はそのマークを見つめてみる。
なんだか本当に勝てるような気がしてきた。
「はい。絶対に勝ちます!」
僕は新しい決意を胸に勝利を宣言する。
矢倉さんの描いてくれたおまじないが、きっと僕に力を与えてくれる。
そう信じていた。
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