異世界転移したら……。~色々あって、エルフに転生してしまった~

伊織愁

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第四十話 『ハナの父親って、家族が大好きなんだね』

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 優斗たち一行は転送魔法陣で、華のウォーキングクローゼットの中へ転送された。

 転送魔法陣の光が収まり、瞳を開けると、視界には華の部屋のクローゼットが飛び込んできた。 すぐに入り口へ向かい、魔法陣を出る。 優斗たちの後にクリストフと戦士隊たちが転送されて来るからだ。

 足元を見ずに前へ出した優斗の足が何かを蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばして床に転がったのは、16分の1サイズの優斗の立体映像だった。 

 立体映像が着ている衣装は何処かで見た事がある。 成人の儀で優斗が着ていた衣装だ。

 (ああ、あれか……無駄に重くて、煌びやかな衣装……)

 華は転送してすぐに立体映像たちを魔法陣に戻していった。 フィンが華の手伝いをして、華の後ろを着いて回っているの様子が、視界の端に映っていた。

 『うわぁ、予想通りだね……』

 (……うん)

 監視スキルの声に周囲を見ると、あちらこちらに優斗の立体映像が転がっている。

 転送魔法の余波で並べていた物が転がってしまったみたいだ。 床に散らばった立体映像を眺めていると、誰かが腕を引っ張って優斗をウォーキングクローゼットから出した。 ウォーキングクローゼットは扉がなく、アーチ形の切り抜いた壁が入り口になっている。 

 寝室の奥に作られているので、優斗たちは必然的に寝室へ出た。

 華のベッドの足元に置いてある等身大の優斗の立体映像とぶつかった。

 「っ!!」

 (うおぅ、びっくりしたっ! 相変わらず……そっくりすぎて怖いっ)

 背後のウォーキングクローゼットから転送魔法陣の光が放たれた気配を感じ、クリストフたちが転送して来た事が分かった。

 寝室、居間、ウォーキングクローゼットに分かれて、一先ず、待機することになった。 

 優斗と華、瑠衣と仁奈、フィンとフィル、クリストフは寝室で集まり、戦士隊たちは居間とウォーキングクローゼットに分かれる事となった。

 作業部屋へ行こうかと思ったが、入り口が別で、一旦、外に出ないといけない。

 まだ、外の様子が分からない為、様子が分かるまで迂闊に外へは出られない。

 「斥候を出すから……」
 「いや、大丈夫です。 俺が透視するので」
 「透視? 魔力感知ではなくてか?」

 優斗は瞳を閉じ、訳が分からないと言うクリストフを無視して、脳内で広げた立体型の地図を広げた。 優斗の精神体は、立体型の地図へダイブした。

 華を映し出したモニター画面に飛び込み、華の身体をすり抜けていく。 華には優斗の精神体が見えているので、視線で追ってくる。 ドローンが飛ぶように、優斗の精神体が飛んでいく。

 『まずは6段目のログハウスだ』

 監視スキルの声に頷いて、華の部屋のログハウスを出ると、6段目のログハウスの様子を見に行く。

 『……ユウト、あれ』

 「……6段目に降りて行く階段の前に戦士隊が2人……」
 「えっ!」
 「……2人か」

 瑠衣はそう言うと、羊皮紙にメモしていく。 優斗の精神体は階段を降りて行った。 6段目の屋上に露天風呂がある。

 露天風呂には誰もいなかった。 6段目は華の専属のメイドと、護衛が詰めているログハウスだ。

 「階段を下りた所にも戦士隊が2人」
 「……これで4人だな」

 クリストフは器用に両方の眉を上げて驚いた表情を浮かべている。

 「優斗、メイドたちはどうなってるのっ? 下にいるの?」

 華の言葉に優斗は6段目のログハウスへ入っていく。 2人の戦士隊の間を通り抜け、壁もすり抜けていく。 すり抜けた先はメイドたちの部屋だったらしく、4人部屋だった。 しばらく漂ったが、人の気配はしなかった。

 「……メイドはいないみたいだ」
 「えっ……」

 表情を曇らせた華の映像が立体型の地図の空のモニター画面で映し出された。

 『あんまり、女性の部屋を見すぎたら駄目だよ』

 (わかってるよっ)

 監視スキルの声にすぐに廊下へ出て、向かいの部屋へ入ると、華の護衛の部屋へ入った。 護衛の部屋には護衛の4人の他に、本部の戦士隊だろう戦士が6人ほどいる。

 『10人だね』

 「……護衛の部屋に10人。 戦士隊が6人、護衛が4人だ」

 6段目のログハウスを出る。 階段には上がり降りの場所に2人づつ見張りが配置されている様だ。

 5段目のログハウスにも同じように戦士隊と護衛が詰めていた。

 『5段目は、12人か……思ったよりも少ないね』

 (1つのログハウスに20人以上はいると思ってたけど……)

 「階段に4人、5段目には12人……次は4段目に行ってくる」
 「……階段の人数を入れて……30人……と」

 4段目のログハウスは4つの部屋と、ウォーキングクローゼットとシャワー室とトイレがある。 真ん中の1部屋だけ飛び出していた。 飛び出している部屋の壁をすり抜けた。

 (あ、居た。 華の今の母親だ)

 『無事みたいだね。 あ、他の部屋にメイドたちの気配がするよ』

 監視スキルの声に、母親の方の部屋の居間へ移動する。 居間には華のメイドと母親のメイドが居た。 父親の部屋の居間には、執事と数人の男性使用人がいた。

 『きっと一般のエルフなんだよ。 戦力外なんだろうね』

 (なるほど、そうか)

 「華の母親は無事だよ。 それと、メイドたちも一緒に閉じ込められている。 後、執事と数人の男性使用人が一緒にいる」
 「戦力外か……」

 クリストフが優斗の話にすぐに反応を示した。 華は優斗の報告にほっと胸をなでおろした。

 「作戦通り、里長クリュタイムネストラ様の救出を決行する。 他に捕まっているメイドたちは申し訳ないが、置いていく」

 華の母親は一般的な術者で、秘術を授からなかったが、代々秘術を授かる家の出だ。 華の父と出会い、結婚した。 

 華の両親は一夫一妻なので、他に妻はいない。 グラディアス村の実務を担っているのがクリュタイムネストラだ。 

 秘術を授かった父親が、首都ユスティティアで秘術を支えている。

 クリストフの容赦のない言葉を聞き、華の表情が曇る。 悲し気に肩を落とす華を宥め、優斗はメイドたちをどうにか助けられないか試案した。

 「クリストフさん、メイドたちも助けられませんか?」
 「あまり大勢だと、移動も大変になる。 必ず追ってが来るんだ、足手まといはいない方がいい」
 「……っ」

 クリストフの言う事は正当だ。 足手まといが多いと、死亡率が飛躍的に上がる。

 「ねぇ、救出した後はどうやって逃げるの?」
 
 フィンの疑問に、優斗たちはクリストフの方へ視線をやった。 クリストフは白い隊服の懐から避難用の転送魔法陣を取り出した。

 「これで安全地帯に転送する。 その後は足でエーリスまで移動だな」

 クリストフが転送魔法陣の羊皮紙を取り出して思い出した。 優斗は無言でクリストフに手を差し出した。 クリストフは取り出した転送魔法陣を優斗が差し出した手に乗せた。

 「もう一枚、出して下さい」
 「ん? ユウトとエレクトラアハナ様、クリュタイムネストラ様の3人だから、一枚で十分だろう?」

 優斗は左右に顔を振り、違う事を示した。

 「……華の部屋へ移動する転送魔法陣です。 クリストフさんには必要ないでしょう」
 
 ずいっと手を差し出す優斗に、クリストフが引いているのは分かっているが、さっさと出せと表情で訴えた。

 「……っ、分かった。 分かったからっ」

 優斗の迫力に負けて、白い隊服の懐から一枚の羊皮紙を取り出した。 羊皮紙には転送魔法陣が描かれているが、本当に華の部屋へ転送できるのかは、優斗には分からなかった。

 「本物だぞっ、俺が偽物を渡す理由も、得する事もないだろうっ!」

 『本物だね。 ハナの部屋へ転送できるよ。 それにその魔法陣は覚えたからそれがなくても移動できるよ。 まだユウトは、転送魔法を使えてないけどね』

 (そんな事できるのか……ありがとう。 でも、これはこれで取っておこう。 何かの役に立つかもしれないし)

 『うん、だね』

 隊服の懐に転送魔法陣を仕舞う様子を皆が呆れた表情で見つめている事に、優斗は気づかなかった。

 話し合いを終え、優斗たちは玄関ホールへ移動した。 居間の出入り口から玄関ホールへ出ると、視界に入るのは大きな華の姿絵だ。 出口の扉がある壁を除き、三方の壁に華の肖像画が飾られている。 

 他には鉢植えが置かれ、水槽では観賞用の魚が泳いでいる。

 「うおっ!!」

 玄関ホールへ出た皆の第一声だ。

 「……っああぁ、もうこれだから、嫌だって言ったのにっ」

 華は恥ずかしそうに頬を染めた。

 家族の肖像画ならまだしも、自分自身の肖像画を自身の部屋で飾られるのは、『自分大好き』みたいで嫌だよな、と優斗は華に同情した。

 『でもさ、優斗の等身大の立体映像が寝室にあるのもちょっとね……だよね』

 (それは言わなくていいからっ!)

 玄関ホールは2帖ほどの広さなので、直ぐに玄関の扉へ辿り着く。 そっと扉を少しだけ開ける。

 「玄関を出て、左に行けば階段があるから、見張りの戦士隊にはすぐに見つかる」

 優斗が状況を説明する一方で華は緊張しているようだが、複雑な表情をしている。
 
 「戦闘が始まったら、6段目からも戦士隊が来る。 出たら、足を止めるなよ」

 クリストフの言葉に皆が一斉に無言で頷いた。 頷き返してきたクリストフの合図に、扉へ手をかけていた戦士隊が押し開ける。 

 皆が一斉に外へ出て、階段に向かった。

 大勢のエルフが出てきた事に見張りの戦士隊が驚いていたが、優斗たちに反応する。 先頭を走る華を見つけた見張りが大きな声を出した。

 「エレクトラアハナ様っ!! 次期里長が部屋から出て来たぞっ!!」
 「なっ、何でここにっ?! エーリスへ逃げていたんじゃっ……」

 見張りの2人を数の多さで突き飛ばし、優斗たちは階段を降りて行った。 

 突き飛ばされた戦士隊は、悲鳴を上げてツリーハウスの最上段から地上へ落ちて行った。

 階段下で見張りに立っていた戦士隊2人も突き飛ばし、6段目のウッドデッキを走り抜け、5段目へ降りる階段を目指す。

 6段目のログハウスから戦士隊たちが出てきた。

 「エレクトラアハナ様をたぶらかしている連中だ! 捕まえろっ!」

 戦士隊の1人が大きな声で非難するように叫ぶ。

 「だからっ、誑かしてないってっ言ってるだろうっ!」

 優斗は正当に招待された婚約者候補だったので、謂れのない非難を浴びる理由がない。

 優斗は木製短刀を呼び出し、謂れのない非難をしてきた戦士隊から相手をした。

 掌から出てきた2本の短刀に魔力を注ぎ、氷を纏わせる。 数人の戦士隊を飛び越え、狙った相手の前へ降り立った優斗は、下から斜め上へ振り上げ、相手の大剣を短刀で飛ばした。

 『虫よけ結界が発動されました。 戦士隊を複数人、弾き飛ばします』

 監視スキルの声の後、背後で光が放たれ、結界が発動される気配を感じた。

 華に近づいた数人の戦士隊たちが、悲鳴を上げて落ちて行った。 5段目のログハウスからも戦士隊たちが階段を上がって来ている。

 「ユウトっ! 作戦通り、先に4段目へ行けっ!」
 「……っ」

 大剣を飛ばされた戦士隊の腹に蹴りを入れ、蹴りを入れられた戦士隊は気絶して、その場に崩れた。

 クリストフの指示通り、優斗は華を連れて階段へ向かった。

 結界が発動されているので、2人に近づくだけで戦士隊たちが面白いようにツリーハウスから落ちていく。

 「優斗っ、あの人たちが言っていること……気にしないでっ。 皆、ティオスに操られてるのよっ」

 華の方へ視線をやると、華は申し訳なさそうにしていた。

 「うん、全然、気にしてないから」

 黒い笑みを浮かべた優斗を、華が頬を引き攣らせて見つめてきた。 クリストフたちと瑠衣たちの足止めのおかげと、華の結界もあり、余裕で4段目のログハウスへ辿り着いた。

 4段目の階段の前にいた見張りを蹴り飛ばし、見張りがツリーハウスから落ちていく。

 玄関の前に辿り着いた優斗と華は、息を整えてから視線を合わせて頷き合った。

 フィルが頭の上から降りて銀色の少年へ姿を変える。 フィンも既に銀色の少女へ姿を変えていた。

 フィルとフィンが玄関を開けて中へ入ると、目の前に2つの扉、左右の壁には華の母親の肖像画が飾られている。

 『ハナの父親って、家族が大好きなんだね』

 (そうなんだよっ……だから、結構、厳しいんだよっ)

 右側の扉を選んでフィンが押し開ける。

 直ぐに母親の部屋の居間になっていて、数人のメイドたちが怯えた様子で部屋の隅にいた。 テラスがあって出入り出来るガラス扉の前に座り込んでいた。

 華がメイドの名前を呼び、駆け寄る。

 「エレクトラ様っ」
 「姫様っ」

 部屋には戦士隊の気配はない。

 目の前の寝室に続く扉を押し開け、中に入ると、華の母親がベッドに腰掛けていた。 

 華の母親は入ってきた優斗を見ると、少しだけ驚いた顔をしていた。

 「あら、レアンドロスじゃない。 もしかして、助けに来てくれたのかしら?」
 「えっと、……はい、そうです」
 「ありがとう。 エレクトラは一緒なの?」
 「はい、今は……」

 華の所在を報告しようとしたが、最後まで言い切れず、華が寝室へ入ってきた。

 「クリュトラっ!」

 華は真っ直ぐに母親の元へ行き、名前を呼んで抱き着いた。

 「無事でよかったっ」
 「エレクトラっ、貴方も無事でよかったわっ。 あの人は?」

 華は言いづらそうに顔を歪めた。 

 華の様子で今がどういう状況なのか、クリュトラは察したようだ。 クリュトラは強く抱きしめると、華を宥めた。

 「エレクトラ、大丈夫よ。 きっと、レアンドロスがあの人を助け出してくれるから。 あの人もきっと、心配してないと思うわ」
 「クリュトラっ」

 メイドたちと執事たちを寝室へ集め、事の次第を話した。 メイドたちと執事たちを連れて行けない事は理解しているようだが、華が何か言いたそうに優斗の方を見つめてくる。

 『ユウト、避難用の魔法陣をメイドたちに使えばいいんじゃない?』

 「えっ、それどういう事だ?」

 『うん、避難用の魔法陣をメイドたちに使って、エーリスに飛んでもらうんだよ。 ユウトとハナは華の部屋の魔法陣を使えばいい』

 「そうかっ! その手があったか……っでも、華の部屋の魔法陣が何処へ行くのか分からないんだよな」
 「優斗?」
 「ちょっと、ちゃんと説明しなさいよっ」
 
 フィンが両腕を組んで優斗に詰め寄り、フィルもそばでうんうんと頷いている。 

 華たちグラディアス家の面々は困惑の表情を浮かべていた。 優斗が簡単に説明すると、華たちは納得のいった表情を浮かべた。 そして、話し終えた直後、ものすごい魔力と騒音が鳴らされた。 

 下から突き上げて来る様な魔力には覚えがある。

 「まさかっ、……」
 「この魔力……」
 「「パレストラっ」」
 「何で、あの女がここに?!」

 最後の言葉はフィンである。 パレストラに襲われた事はフィンの中でトラウマ級の記憶として残っているようだ。

 「エレクトラ、私たちはエーリスへ転送すればいいのね」
 「うん、でも、クリュトラたちだけだと……」
 「大丈夫よ、何とかなるわよ」
 「でも……」

 渋っている華の横でフィンが閃いた、と指を鳴らした。
 
 「あっ、そうだわ。 風神がいるんじゃない? エーリスに置いてきたんじゃなかった?」
 「ああ、直ぐにエーリスに戻ってくるつもりだったからな」
 「じゃ、風神に連絡を取ってエーリスの安全地帯に待機してもらおうよ」
 
 華も風神が守ってくれるならばと、納得してくれた。 フィルが風神と連絡を取り、風神からもすぐに連絡が来た。

 「クリュトラっ……転送されたら一角獣の風神が待機しているから、指示に従ってね」
 「ええ、貴方も気を付けるのよ。 レアンドロス、お願いね」
 「はい」

 魔法陣を床へ置くと、騒音がすぐそばまで聞こえてきた。 もう、パレストラが上がってくる。

 光を放った魔法陣と同時に、4段目のログハウスの玄関の開く音が鳴らされた。
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