嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐

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聖女さん、見切りをつける

私、国を出ます!

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 夜の間ずっと音を聴いていたのですが、皆さん喧嘩ばかりしていました。
 やれ「お前のせいだ!」とか、やれ「これからどうする!」だとか。とにかくずぅーっと、怒鳴り声ばかりが届いてきました。

 バカなのでしょうか?

 今まで使えていた道具が突然使えなくなって、焦る気持ちは分からなくもないですけど、もうちょっと建設的なお話をした方がいいのでは? と思ってしまいます。

 まあ、私は人々の治癒や解呪に加えて、魔物を弱らせる結界を国の全域に張っておりましたしね。そんなことが出来るのなんて、恐らく私以外にいません。過去の大賢者と言われる人ですら、結界は精々都市一つ分程度、と記載されておりましたしね。

 向き不向きの話かもしれませんけど、私の場合は便利系魔法も攻撃魔法も使えます。
 ……あら? これってもしかして、私は最強なのでは? 魔力だって、普通の魔法に掛かる魔力量を仮に1とするなら、魔力の回復速度を考慮すれば、無限に、尽きることなく打ち続けることが出来ます。恐らく、魔法一つに500かかる、って所くらいまでなら無尽蔵です。

 ……最強なのでは?

 コホン。それはまあ、今はいいでしょう。

 それよりも。私が分析しているところの現在の王国側の状況ですが、彼らが思っているよりも、断然にヤベェです。
 と言うのも、私は国中に結界を張っていたので知っているのですが、この王国の中にある森って、その半分の半分くらいが超危険地帯なんですよね。
 魔物たちが、クソ強なんです。例を挙げるなら、最上級の強さを持った黒龍ブラックドラゴンが湧き出してくるような森が、四つに一つある、という事です。

 しかしそれでも、今まではなんとか討伐出来てきました。
 なぜって?


 私がいたからです。


 いつの日にか、国王のクソ野郎に「お前のせいで騎士が傷付いた! 結界の出力を上げろ!」、と怒鳴られましたが、私から言わせれば、魔物の力が60パーセントも弱くなっている状態で辛勝しか出来ない騎士たちが、ハッキリ言って弱すぎるのです。

 確かにブラックドラゴン級の魔物は強いですし、簡単に倒せるような相手じゃない。でも、もっと勤勉に訓練するなり、冒険者を雇って協力するなりしていれば、何とかなったかもしれないのです。

 ですが、それでも騎士たちは考え方を改めようとはせず、それは国の重鎮たちも同様。訓練時間も、ほとんど伸びないどころか、むしろ減少する始末。騎士たちは、ドンドン弱くなっていきました。それに比例するように、私が一日に飲むゲロマズデスポーションの量は増え、結界の効力も増しました。いつの日にかは、回復効果まで付くようになっていました。

 そうなるとまた、騎士たちの怠惰は加速していきました。

 今の私の結界は、魔物の能力を八割削り取り、中にいる味方には常に回復効果を与え、欠損すら再生します。それに加えて、味方の能力値を平均で三割増します。

 それでもつい先日の討伐戦では、死者の数が10人を超え、なんと23人も出ました。
 当然私への叱責は酷いものでしたが、先程の言動からも分かる通り、彼らに「正す」という考えはありません。

 つまりかなめであった私が欠けた今、彼らはもう、終わりなのです。

 高い高い山の向こうから、キラキラとした輝きが見え始めました。
 さあ、いよいよ朝日が昇ります。

 王国に住まう皆さん、この朝日の光は、しっかりと目に焼き付けておいた方がいいですよ。
 あなた達王国民は、あと何度、あの眩しい朝日を目に入れられるか分かりませんからね。
 もしかしたら、今日が最後かもしれませんよ? だから後悔しないように、まだ生きている・・・・・・・今の内にあの光を見て、眩しさに目を細めると良いでしょう。

 守護神はもう、失われたのですから。
 貴方たちの都合のいい味方奴隷は、つい先日にいなくなりましたからね。

 精々、後悔しないようにしてくださいね。
 私はもう、守らないから。


 さて、と。眩しい朝日も昇ったことですし。
 それじゃあ私は、国を出るとしましょうかね。

 隠れていた路地裏から一番近くにあった門の一つに近付くと、何やら騒がしくしていた。

「これ、何か問題でもあったんですか?」

 近くにいた人に聞いてみると、面白い話が聞けた。

「ん? あー、お嬢ちゃんも王都を出るのかい。そりゃぁ気の毒だが、見ての通りかなり混みあっているからねぇ……。かなり待つ事になるかも。
 おっといけねぇ。
 コレの原因だけんど、この国から『聖女』様が姿をくらませたらしい。それで能ある連中は、みんなこの国から脱出・・しようとしてるんだな」

 ほー。なるほどなるほど。
 お城にしか《音届おとどけ》の魔法を使っていなかったから気付かなかったけれど、ちゃぁーんと分かってる人は分かってたみたいですね。

 この方も「脱出」と表現しておりますし、今の王国のヤバさを理解しているのでしょう。

「全ての門がこの状況なのでしょうか?」

 こうなっている以上、私へのロックは緩くせざるを得ないでしょうし、変装もあります。だからそれほど急ぐ必要はないのですが、気持ち的な問題で、やはり早めに出てしまいたいです。

「そうだなぁ。部下からの報告では、全ての門で似たような状況になってるらしいぞ。
 なんでも、王都に席を置いていた冒険者や商人は、そのほとんど全てが逃げ出そうとしているみたいだからな。
 俺もそうだが、商人たちの中には店に商品を残してでも、って連中もかなり多いな。
 お嬢ちゃんも気に入ってる店があるなら、今行けばタダだぜ?」

 そう言ってガハハと笑っているこの方には、気持ちの良さを感じます。きっと、ちゃんと心を知っている方なのでしょう。

 だからでしょうか。私は、気付けば護衛を買って出ていました。

「もし良ければ、護衛として私を雇いませんか? 新人な者ですが、腕は立つんですよ?」

 ふふ、と笑えば、相手の方も笑ってくれました。
 そして、

「じゃあ、お隣のロンディーヌ帝国までよろしく頼むぜ? 新人さんよ」
「ええ、任せてください。安全な旅をお約束しますとも!」

 そうして私は、商人をやっているというその方の馬車に乗って、門を潜り抜けました。

 私は王都の方を振り向きながら、握った拳の右親指だけを下へ向け、左中指を立てながら言ってやります。

「これから、たっくさん後悔していってくださいね!」

 自分の中だけで完結させてしまうには、私の中にある彼らへの恨み辛みは、少し大きすぎたようですね。ですから私は、これから彼らの滅びを見ていきたいと思います。
 王国の人たちがいくら困ろうと、私の知ったことではありません。
 仮に滅んだとしても、それはあの人たちの自業自得。

 もしその時になったら、私が喉に直接ぶち込まれたゲロマズクソクソポーションを飲ませながら、「ざまぁwwww」とでも笑ってやりましょうか。

 楽しみですね!

    ああでも、滅んでしまう前に、あのおじいさんだけは助けに来ましょう。初めて私に良くしてくれた瞳ですからね!


    ……そう言えば、魔法で眠らせるなりすれば、余裕で門を抜けられたかもしれませんね……。なんなら私、空飛べますし……。ボケが始まったとは、思いたくは無いですね……。
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