嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐

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聖女さん、帝国へ行く

私、交渉します!

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 ポクポクポクと歩いていると、やがてお日様が昇り始めました。
 地平線から徐々に漏れ出る光。暗き闇の帳を祓う光。
 徐々に暗くなる紫がかった夕日も好きですが、やっぱり明るくなっていく朝日を見るのは良いものです。

「朝だな、嬢ちゃん」

 ちょっと疲れた顔をしている商人さんが、私に声をかけます。

「そうですね。朝日が綺麗です。それより、あとどれくらいで街に着くでしょうか?」
「もうじきだな。ただ、街に着いても、半日ほど休んだら出発するからな。それは覚えておいてくれ」

 なんでも、今まではこうも魔物に襲われる様なことは無かったらしいです。でも今回の旅では、王都から隣の街に移動するだけで、既に二回も襲われたそうです。

 ……二回?

 一回目は私が消滅させましたけど……夜の間に襲撃なんてあったでしょうか……? 少なくとも私は知りません。

 疑問が顔に出ていたのか、商人さんが答えてくれました。

「あー、嬢ちゃんは一回目の時は寝てたからな。いや、でも、嬢ちゃんは寝ていて良かったよ。……かなりの地獄絵図だったからな……」

 力無くどころか、顔を青白くさせながら「はは……は……」と笑っています。そんなに酷かったのでしょうか? 出てきたのなら、恐らく雑魚魔物ですよね。低ランクの冒険者たちが死力を尽くして……、ってことでしょうか? よく分かりません。

「大変だったんですね。街に着いたら、ゆっくり休みましょう」
「……そうだな」

 地獄絵図と言うくらいの光景を見たくらいですから、きっととても疲れているのでしょう。商人さんに向かって、私はそっと《回復魔法》を使ってあげました。

 すると、ちょっとだけ元気になったように見えます。顔色はもう、青くないです。よかった。

 またしばらく歩くと、やっと街のシルエットが見えてきました。朝日に照らされて逆光になっているので、少しだけ分かりにくいですが、確かに街を囲む壁が見えます。

「商人さん! あれ、街ですよねっ?」
「んー? おー、そうだな。見えにくいが、確かに街だ」

 その言葉に、私はワクワクが隠せません。初めての自由な旅です。誰にも縛られず、文句も言われない。自分の足で歩いて、考えて、道を決めて進んでいく。そんな旅。

 やっと、初めての街に到着です!

 朝の時間帯だからか、門の前へ行っても並んでいる人は誰もいませんでした。
 簡単なチェックだけを済ませて、街の中へと入ります。

 チェックの時には、やけに髪色を気にしていたので、恐らく私を探そうとしているのでしょう。残念でしたね! 今の私の髪色は、おじいさんのおかげで黒色ですよー! ほぼほぼ真逆の私の髪に気が付けるものなら、気が付いてみるがいい! ふはははは!

 どうやら私は、王国の事を思うと途端に性格が悪くなるみたいですね。

 それはまあ、いいです。

「商人さん、商人さん! これからどうするんですかっ? 自由行動ですかっ?」

 初めての縛られない時間に、ワクワクが隠せません。
 跳ねる心をそのままに、商人さんに訊ねます。

「とりあえず宿をとって、半日ほど休んだら出発だ。次の街まではそれほど時間も掛からんからな。
 嬢ちゃんは……まあ、元気なら遊んできてもいいぞ」
「ほんとですかっ? やったー!」

 商人さんの許可も得ましたし、今から街の探検へレッツゴー! です!

 まずはどこへ行きましょうか。
 全く知らない道、全く知らない風景、全く知らない空気。私にとっては全てが新鮮です。

 この街は王都の隣ということもあって、何度か訪れたことがありますけど、やっぱり今みたいな自由時間はありませんでしたしね。

「ふふふ~ん♪」

 鼻歌を奏で、スキップをしながら道を行く。

 道行く人々は、こうして一般人視点で見ると、とても普通に見えます。
 でもなぜか、私が一度ひとたび聖女になると、途端に冷たくなるんですよね。この国の人達は『聖女』に親でも殺されたのでしょうか? 嫉妬?

 こんなクソみたいな立場、邪魔なだけですけどね。お金も貰えませんし、自分にとってはなんの役にも立たないどころか、害悪ですよ。

「あっ、おじさんおじさん、これいくらですか?」

 赤色の小さな石が付いたネックレスが、ふと私の目に止まった。
 こう言うのは、思い立ったが吉日! 即断即決! で購入するのが良いのだ。これこそ旅行の醍醐味だろう。私が今定めたので間違いない。

「おっ? 可愛いお嬢さんは見る目があるね! そりゃあ銀貨一枚だ」

 銀貨一枚……うーむ・・・。
 ご飯代などの護衛にかかる費用は、商人さんたちに出してもらえることになっていますけれど、私は正式に雇われている訳じゃないから無報酬ですし、資金調達の目処が立っていない今では、やはりあまり無駄使いは出来ません。

 なので、やったります! セレスティアさんの、初めての値下げ交渉です!

「……おねがぁい♡ もうちょっとお安くして?」

 自堕落な騎士が、以前お喋りをしているのを聞いたことがあるのですが、その時に言っていたのです。
「彼女に上目遣いでお願いされると、どうも断れないんだよなぁ……」と。もう一方も、
「分かるわぁ……大きな胸を押し上げるようにして手を組まれると、谷間ばかりに目がいって、いつの間にか頷いてるんだよな」と。

 残念ながら、私には谷間を作れるほどの大きな胸はありませんが、上目遣いと胸の前で手を組むことくらいは出来ますからね! いざ実践です!

「……へいへい、降参だよ。やれやれ。お嬢さんには敵わんな。じゃあ、八枚で? なんちゃってな。ガハハハ」
「はい! それでお願いします!」
「あいよ! 毎度あり」

 ……すごく上手く行きました。なんとなんと、銅貨二枚分も浮きましたよ! 銅貨二枚と言ったら、腐りかけの粗末なパンくらいなら余裕で買えるくらいです!

 これ、すごく楽しいです。

 そこからの私は、とにかく『おねだり』目的で『おねだり』を繰り返しました。
 意味が分からないですが、楽しかったですよ。

「お願いおじさまぁ♡ もう少しお安くして? ねっ?」
「し、仕方ないなぁ……」

「お・じ・さ・ま♡ お願い♡」
「こ、今回だけだからね……」

「お姉様♡ お願いしますぅ!」
「全くもう。しょうがない子ね……♡」

 と、このように。
 ぶっちゃけると全く要らないガラクタでも、『おねだり』が楽しいからと、買ってしまいました。

 だから私の手元には今、ガラクタと、粗末なアクセサリーがたくさん。
 アクセサリーは、ネックレス、指輪、指輪、指輪、ブレスレットです。指輪買いすぎです。
 おかげで、私の残金は銅貨一枚。腐りかけすら買えません。

「あー! やってしまいました!」

 今ここで商人さんたちに捨てられてしまったら、私は食いっぱぐれることに!
 これは何としても、媚びを売らなければ……ッ!

 そう思っていると、猫さんを発見しました。可愛らしい白黒の猫です。
 追い掛けていると、路地裏に入ってしまいまして、そこには何だか怖そうな人達がいました。
 絡まれない内に退散退散~……。

「ニャーオ」

「……ん? おっ、よォネェちゃん。俺らと楽しいコトしねぇか?」

 猫ぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 な、何とか逃げれないかな~……ドン

「なんだァ? 俺と遊びてぇのかい?」

 ……にげることが できない!
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