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聖女さん、帝国へ行く
私、出会います!
しおりを挟むう~ん。困りました。まさか、猫さんを追い掛けたらチンピラさんたちに絡まれるなんて、思ってもみなかったです。
「……」
むー……。魔法でやっつけるのは簡単ですけど、先程の威力を見ると、どうしても使えないです。
今の私はなぜか魔法の威力が凄まじくって、下手をやるとチンピラさん達だけでなく、周りの一般人まで消滅させてしまいそうで怖いです。
……どうせ王国民ですし、別に殺してしまってもなんら問題は無いですけど……。やっぱり、自分でぶっ殺☆ しちゃうのは気が引けます。
「おいおいネェちゃん。無視すんなよォ? 寂しいじゃねぇか」
ちょっと距離が近いと言うか、臭いんですけど……。肩組むのやめてください。汚いです。てか臭いです。
胸揉むのもやめてください。消滅させますよ?
「むっ……。離していただけませんか? ……口臭い」
私がそう言うと、私に引っ付いていた人が離れてくれました。
割といい人?
「口が……臭い……?」
「ギャハハハハハ!!! お前口臭いってよ!」
「口臭いって振られてやんの! アッハハハハ!!!」
ん? 口臭いなんて言いましたっけ……? もしかして、心が読める……?
あ、ちょっとちょっと、その人怒ってますよ! 顔が真っ赤っかですよ! そろそろ笑うの、やめた方がいいんじゃないですか?
そう思っていると、案の定。
「テメェら!!!! ぶち殺す!!!」
ブボッ。ゲブッ。フゴッ。
殴り合い、取っ組み合いの喧嘩が始まってしまいました。
あー、言わんこっちゃない。私を襲おうとしてるのに、その私の前で仲間割れしてどうするんですか……。残念な人たちですね。
じゃあ私はこれで!
チンピラさんたちが喧嘩をしている内に、私はトンズラさせていただきま……「オイオイ、ネェちゃんよォ……」
あれぇ……? 四人のチンピラさん、もう倒してきたんですか? おひとりで? あはは。お強いんですね!
しかし まわりこまれて しまった
「もう臭いなんて口が聞けないように、たっぷりと味わわせてやるからなァ……」
しっかり怒ってます……。私って、ポンコツなのでしょうか……?
うーむ。仕方ないか。この街が吹き飛んだら吹き飛んだで、対策はその時に考えましょう。
そう思って魔法を発動させようとした時、その子は現れました。
「やぁっ!!!」
ポカッ
小さな体から繰り出されるのは、地で「お前何かしたか……?」と言ってしまうような低威力。と言うかむしろ猫パンチ。
当然、ガタイのいいチンピラさんには効果など見込める訳もなく。
「アァン? んだよクソガキが!」
ドガッ
チンピラさんから繰り出されたのは、今の小さな子供とは比べ物にもならないドガッとパンチ。頬を殴られたはずの子供は、しかしそのまま吹き飛び、壁に激突しました。
痛そう。
「いやいやいや!? ちょっ、え?」
しかしそれでも、その子供は諦めません。鼻と口からダラダラと血を流しながらも、自分の何倍も大きいチンピラさんに向かって殴り掛かりに行きます。
「やぁっ!!!」
その度に、先程の繰り返し。
殴られて、壁まで吹き飛び。蹴られて、地面を転がり。
殴られる度、蹴られる度に顔が青く腫れ上がり、血を流す。
目など、もう見えているのか分からないほどに腫れています。
それでもその子供は、チンピラさんに立ち向かうことをやめません。
「おねっ、じゃん! にげぇでで!」
棒立ち状態になっている私に対してそんな事を言いながら、立ち向かっていきます。
既に、右腕はあらぬ方向へと折れ曲がっている。
とても痛いだろうに、なんとか私が逃げるための時間を稼ごうというのか、殴り、掴みかかります。
いくら吹き飛ばされようとも、決して諦めずに。
少年が命を懸けて、私を守ろうとしている。
見ず知らずの他人。
恩がある訳でもなく、知り合いという訳でもない。本当に、ただの他人。
にも関わらず、体を張って頑張っている。
その輝きは、とても美しいものです。思わず、棒立ちになってしまうくらいには。
己の全てを投げ出して、誰かを助けようと必死になれる。そういう事が出来る人、私は好きですよ。
例え無謀でも、蛮勇でも。誰かのために頑張れる、尊い人。尊ぶべき人は、今の地位にふんぞり返って豪遊をする貴族でも、王族でもなく。他人を見下す国民でもなく。
真に尊ぶべき人と言うのは、今、必死になって戦っているこの子供のように、誰かのために頑張れる人だと、私は思います。
感動しました。
身なりは薄汚れた粗末なものだけど、その心は黄金よりも眩しい光を放っている。
素敵です。まだ王国も捨てたものではないと、少しだけ思えました。
だから私も、街を消滅させる覚悟を持って挑みます。
「そこまでにしませんか? それ以上やると言うのなら、本気で相手をしますよ」
抑えていた魔力の蓋を、そっと開けた。
すると、途端に私の体から白金色の魔力の奔流が溢れ出てきます。
魔力の色は人によって違うけれど、私の場合は髪色と同じなんですよね。黒髪を被ってはいますけど、バレてしまわないか心配です。
まあそれならそれで、吹き飛ばして進むだけですけどね。
ゴゴゴゴゴ
大気が唸り、地が揺れる。私の魔力だけで、蜃気楼のように空気が歪んでいく。
それほどまでの、絶大な魔力。
その波動を受け、チンピラさんは腰を抜かしてガタガタと震えています。よく見れば、股の辺りが濡れていますね。
「それで……どうしますか? 私と"殺し"合いますか?」
「ヒッ、ヒィィィィ! しゅ、しゅみましぇんでひたぁぁぁ!!!」
脅すように告げると、情けない声を上げながら逃げていきました。
魔力を収めながら、回復くらいはしてあげようと子供の方を見ると、安心したように笑いながら倒れていく所でした。
「……よかっ、た……」
おっとっと……。こんな状態で地面にぶつかったら痛そうです。この状態が既にとんでもなく痛そうではありますけどね。
「私のために、頑張ってくれてありがとう。今は少しだけ、休んでいてくださいね。《聖なる癒しの光》」
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