柊瑞希は青春コンプレックス

黒姫百合

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10話

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 基本、亜美は穏やかで滅多なことで怒らないのだが、瑞希の話になるとまた別である。
 覚えていないのだが、亜美が高校生の時、瑞希を馬鹿にした女子高生たちが亜美にお説教され泣いて土下座した逸話が残っている。瑞希はもちろん、眉唾だと思っているがあながち全部作り話だと思えないのが怖い。この姉ならそれぐらい本気でしそうである。

「ごめん嘘。尚美ちゃんは悪くないから落ち着いて」
「……瑞希ちゃんがそう言うなら良いけど、もし尚美ちゃんになにか嫌なこと言われたら私に言うのよ。二度と瑞希ちゃんにそんな口を聞けないように言い聞かせるから」

 本当に瑞希のことになると怖い姉である。
 過保護の亜美は瑞希を守るようにハグをする。
 女の子の良い匂いや柔らかさがダイレクトに伝わってくる。
 もし血の繋がった姉でなかったら、少し興奮していただろう。

「姉さん、恥ずかしいから離れて」
「あぁ、瑞希ちゃんの良い匂い。ずっとこのままでいる」
「それじゃー学校に行けないから。姉さんも仕事にいけないでしょ」

 瑞希を抱きしめながら瑞希の匂いや体温、感触を堪能する亜美。
 瑞希はそんな亜美を振りほどこうとしたが全然離れてはくれなかった。
 その後、亜美が離れるまで十分の時間がかかり、ようやく解放されたのであった。



「……なんで朝から疲れなきゃいけないんだろう」

 学校の廊下を歩きながら瑞希は思わずため息を吐く。
 廊下には登校して来た生徒たちが歩いているが、別に瑞希の友達でもなければ知り合いでもないため、別に愚痴を聞かれようがため息をこぼそうが関係ない。
 亜美は重度を超して病的なブラコンである。
 一度は弟の身にもなってほしいものである。

「おはよう」
「おっはー」
「昨日のドラマ見た?」
「見た見たー。まさか最後あんな結末になるなんて思わなかったよね~」
「ちょっと待って。あたしまだ見てないんだからネタバレ禁止」

 廊下で友達にすれ違った学生たちが、あいさつを交わしたり昨日放送していたドラマの話をしながら盛り上がっている。
 もちろん、それはその人たちにとっての友達であり、瑞希の友達ではない。
 だから瑞希に話しかけてくる人もいなければ、あいさつをしてくる人もいない。

「なんだ、朝から辛気臭い顔をして」
「おはようございます黒川先生。別に朝からどんな顔をしてようが私の勝手だと思いますが」

 少しだけ訂正をしよう。
 瑞希にもあいさつをしてくる人ぐらいはいた。
 学校の先生でもあり、幼馴染でもある黒川尚美である。
 朝から辛気臭い顔をしている瑞希が心配だったらしい。
 本当に昔からお節介な女性である。
 思春期真っ盛りであり、学校にいる以上生徒と先生という関係上、あまり仲良くするのは得策ではないと思い、わざとぶっきらぼうに答える。
 TPOは大事である。
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