遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?

黒月天星

文字の大きさ
108 / 202
第四章 町に着いても金は無く

三人目はモフりたい

しおりを挟む

 無事商談も終わり、俺達は商人ギルドの外に出る。ちなみに俺の魔石の事も忘れていない。ジューネはギルドに掛けあい、値上げ交渉をして四千二百デンでの売却に成功した。

 普通に売ったら三千デンくらいの所をそこまで値上げさせたのだから流石だ。まあ交渉の相手はネッツさんではなく一般職員だったが。

「それじゃあお客様! こちらが私の取り分になりますね!」
「ああ。ありがとなジューネ。おかげで儲かったよ」

 約束通り、値上げした分の一部である二百デンを取り分として持っていくジューネ。商人としての交渉だったからまだ商人モードが抜けきっていない。

「……儲かったみたいね。じゃあ私への払いも少しずつ出来るのかしら?」
「それはもうちょっと待ってくれると嬉しいというか何と言うか」
「私も、稼いで渡す?」
「セプトは俺の為と言うよりまず自分の為に稼ごうな」

 エプリの軽い催促を両手を合わせて拝みながら回避し、セプトが無表情ながらもやる気を見せるのを何とか宥める。

 商人ギルドにも冒険者ギルドと同じく商人向けの依頼等があるのだが、俺やセプトが出来そうなものも幾つかあった。それに刺激されたらしい。

「まあ今はそれは置いておいて、早速次の商談に向かいますよ」

 そりゃそうだ。先にそっちを片付けないとな。俺達は外に待たせている雲羊の所に向かった。……だが、そこには先客がいた。

「よしよ~し。良い子だ。実にもふもふだねぇ。流石高級衣類の材料にも使われるというクラウドシープの毛並み。癖になりそうだ」
「メエェ~!」
「……誰だアレ?」

 妙な人物が雲羊の毛並みを撫でまわしていた。

 頭にターバンを巻き、服もダブっとした布製の物で体型等がまるで分からない。声からすると女性のようだが、やや声の高い男性かもしれない。

 そして雲羊は嫌がっている訳ではなく、寧ろ気持ち良さそうな顔をしている。適当に撫でまわしているように見えて的確に気持ちの良い所に触れているらしい。……姿と言い動きと言い、これは只者じゃない。

「……予想外でしたね。まさかそちらから来るとは」
「たまたまさ。丁度近くにいたから寄っただけ。クラウドシープを撫でまわす機会でもあったしね」

 年齢性別共に不明のその誰かは、そこでやっと雲羊を撫でまわすのを止める。なんかこっちの方が目的だったっぽいな。

「ジューネ。知り合いか?」
「知り合いと言うか、このヒトがこれから会いに行こうとしていた三人目。情報屋のキリです」
「お~っとこういうのはもう少し焦らしてくれても良いんじゃないかい? 只今ご紹介に与りました情報屋のキリですよっと。お代と時間さえ頂ければ、大抵の事は調べてみせるよ。以後よろしく!」

 この妙なテンションの人が三人目の商談相手!? ヌッタ子爵といいネッツさんといい、何か濃い~面子ばっかりじゃないか?




「キリ。商談の前に、まず前回の依頼の件についての報告をお願いします」
「はいは~い。もちろん調べてありますよ~。……だけど」

 ジューネのその言葉と共に、目の前のキリと名乗る人物はこちらの方を見る。顔の部分もターバンに隠れて表情が読めない。

「そっちのトキヒサ君達の前で報告しちゃって良いのかな~って、ボクとしては一応確認をとっちゃったりするんだけど」
「……!? なんで俺の名前を?」
「そりゃあ情報屋だからね。ヒトよりちょ~っと耳が早くて広いと自負しているよ。勿論君の後ろの二人の事や、君の服の中にへばりついているスライム君の事だってよ~く知ってますとも」

 まだ名乗っていないはずなのに、さも当然とばかりに知っているキリ。おまけにエプリやセプト、ボジョの事も言い当てられた。

 カマかけにしては的確だし、これは流石情報屋と言うべきか。……ちょっとエプリの警戒度が上がった感じだけど。

「そんなに警戒しないでよエプリん。少~し宣伝を兼ねて驚かそうと思ったお茶目じゃない」
「エ、エプリん?」

 おっ!? エプリが珍しくあっけに取られているぞ。しかしエプリんって。俺もその内呼んでみ……何でもないですはいっ! フードの下から鋭い視線を感じたので素早く思い直す。

「そうですね。個人的なものやアシュの依頼内容までは話すつもりはありませんが、それ以外なら構いませんよ」
「へぇ~。これは少し驚いたね。以前の君なら全部隠そうとしていたのに。アシュさん以外にも信用できる相手が出来たようで何よりだよ。じゃあ……これを。君が居ない間にここで新しく出来た店のリスト」

 キリはどこか楽しそうな声でそう言いながら、服の下から書類をジューネに手渡した。表紙は地図のようになっていて、ジューネは表紙に軽く目を通すとどこか満足げに頷く。

「良く調べてありますね。流石キリ。高い情報料を払っただけはあります」
「ちなみに所感とか評価はね! まあ見立ては商人のジューネの方が正確だろうから、あくまで参考程度に留めておいてよ」
「店や店員の情報まで調べておいてサービスですか。追加報酬でも吹っかける気で?」
「いやいや。本腰入れて調べるまでもなく、現地を見て分かった事を纏めただけなのよっと。そこまで大した事じゃないからサービスね」

 片手間だから気にするなって事か。それにしたってジューネがここまで言うってことは余程だけどな。

「それでこっちがジューネの個人的な依頼とアシュさんの依頼の分。こっちはきちっと本腰を入れたからね。追加報酬なんか頂けるとと~っても嬉しかったりするんだけど……どう?」
「それは内容次第ですね」

 自分の方が背が高いくせにわざわざ屈んで上目遣いをするキリに、ジューネはすげない態度で受け取った書類をリュックの中に仕舞いこむ。

 ちなみにこっちの書類は先ほどの物よりも分厚くてちょっとした本並だ。本腰を入れたというのは間違いないらしい。

「ちぇっ! そう簡単には報酬上乗せは無しか。まあいいや。ところでトキヒサ君達は何か依頼とかあったりしちゃう? 今なら初回サービスでお安くしておくよ!」

 キリは一瞬落ち込んだように顔を伏せたかと思いきや、すぐに立ち直ってこちらに向き直った。どうしようかな。腕は確かみたいだけど。

「ちなみに依頼料っておいくらだったりするんですか?」
「別に敬語じゃなくて普通に話してくれて良いよ~。内容や期限にもよるけど、この都市の事で簡単な依頼だったら銀貨十枚くらいかな。今なら出血大サービスで更に半額で引き受けちゃうよ!」

 ってことは半額の銀貨五枚。五百デンか。探偵や興信所に頼むよか断然安いな。しかし調べてほしいものと急に言われても出てこない。

「う~ん。今は特に調べてほしいことは特にないな。イザスタさんの事は気になるけど……こういうのは自分で調べる方が好きって言うか」
「あ~ららそういうお方? それは残念。じゃあエプリんやセプトちゃんはどう? 誰か気になるヒトのあ~んな事やこ~んな事も知りたくはない?」

 俺が断るとキリは一瞬残念そうな声色に変わるも、すぐに立ち直って今度はエプリとセプトの方に依頼の確認をする。

「私は、トキヒサに自分で聞くからいい」
「エプリんって言わないで。……個人的に知りたい事はあるけど、こんな場所で言うものじゃないわね」
「え~っ! エプリんでいいじゃん。こっちの方が可愛いと思うよ。それと、フムフムなるほど。セプトちゃんは望み薄だけど、エプリんは何かありそうだねぇ」

 エプリの鋭い視線も意に介さずにエプリん呼びを続けるキリ。命知らずな人だ。そして「もし連絡を取りたくなったらこちらまで」とエプリに連絡先を書いた紙を渡す。俺も後で見せてもらおう。ところで……。

「セプトは俺に何か聞きたいことがあるのか?」
「うん。トキヒサはどうしたら喜んでくれるかなって」
「とりあえず、その気持ちだけでお腹いっぱいなんで今は良いよ」

 ホントにどうしてこんなに好感度が高いんだか。魔力暴走の件で恩に着ているんだったらそこまでしてもらわなくても良いんだが。……やっぱり以前のナデポが原因か? よく分からん。




「さてと。では前回の依頼も終わった所で次の商談……と言うより依頼に移りましょうか」
「お仕事だねっ! 一体どんな情報をご所望かな?」
「……個人的な件なら少し距離を取っても良いわよ」
「いえ。エプリさん。これは寧ろ聞いておいてほしいものですから。トキヒサさん達も一緒にね」

 情報屋に頼らないといけないとなるとかなり重要な案件だ。俺達が聞いても良いものなんだろうか? 

 エプリが俺の言いたい事を見透かしたようにそう訊ねると、ジューネは視線をこちらに向けながらそう返す。つまり俺達にも関係がある事だな。

「キリ。調べてほしいのはある指輪の事なんです。闇夜の指輪という」
 
 闇夜の指輪。俺が持っている箱の中に入っていた物。破滅の呪い(特大)が付与されながらも二十万デンという高値を叩き出すお宝だ。

 しかし分かっているのは査定で表示された名前だけ。以前それとなく調査隊の面々に聞いてはみたけれど、誰も知っている人はいなかった。

 直接見せたらまた違うかもしれないが、下手に呪いが振り撒かれでもしたらと思うと危なっかしくて出すに出せない。という訳で分からないままになっていたのだ。

「闇夜の指輪……ねぇ。残念だけど聞いたことないな。お宝なの?」
「お宝であり厄介事でもあります。トキヒサさんが言うには破滅の呪いが付与されているようです」
「な~るほど。それは確かに厄介事だね~」

 破滅の呪いと聞いてもキリの態度は変わらない。肝が据わっているというべきか。

「現物を見たいけど……呪い付きとなると色々マズいか。じゃあ形状とか手に入れた経緯とかを教えて」
「分かりました。まず手に入れた経緯ですが……」

 ジューネは指輪についてを出来る限り説明する。以前アシュさんと立ち寄った場所で偶然手に入れた箱の事。それを俺が買って中身を確認した事。大きさや宝石の形状等だ。

 キリは取り出した紙に内容をメモしていく。なんだかこっちが情報屋みたいだな。

「大体分かったよ。それじゃあこれらを基に調べてみる。期限はいつ?」
「そうですね。ひとまず十日後を目途に。その頃にはこちらの件も多少進展しているでしょうから」
「十日ね。あんまり時間はなさそうだ。早速行動しないとね。……話は変わるけど、報酬の方はどんなもんなのかな~って思っちゃったり。依頼内容から考えるとそれなりに奮発してくれるのかな~?」

 キリの期待するような言葉に対し、ジューネはキリの耳元に顔を寄せてぼそりと何かを呟く。すると、

「おおっ! ジューネ太っ腹! じゃあボクも気合入れて頑張っちゃおうかな。やる気出てきたよ~!」

 なんか凄くやる気が漲っている。一体ジューネはどれだけの報酬を約束したんだ?

「なあ? キリになんて言ったんだ? ジューネが値段交渉もせずに即決なんて珍しい」
「フフッ。実はキリはもふもふの毛並みに目がないんですよ。だからこう言ったんです。都市長様に口利きして、キリ好みのもふもふをたっぷり堪能出来る機会を用意するってね」

 う~む。この世界でももふもふの力は偉大らしい。あとジューネ。それ自分の懐一切減ってなくないか? そういう視線を向けると、ジューネはニヤリと小悪魔のような笑みを浮かべるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...