21 / 143
03 洞窟と剣と宝石と
到着
しおりを挟む
道中雨に降られてちょっと足止めされたのと、徒歩移動に不慣れなせいで、街に着くまで1週間もかかってしまった。
たまに馬車とか使って来たからやや散財気味だったけれど、異世界感を体験できたし楽しかったのでよしとする。
そして到着したときには晴れていて、鉱山の全部を見下ろすことができた。
「……うん」
自分の足で歩いてきたから疲労がすごかったけど、同時に成し遂げたんだという達成感もあった。
登山家って、こんな感じなのだろうか。今回は上りじゃなくて下りだったけど。
山に囲まれた盆地に位置するこの街は、ズドンと空いた巨大な円筒形の穴の中に作られている。
おかげで場所の割に高度は低いし、その地形から気温が高く、初夏のこの時期ではやや暑い。
絶壁に張り付くように設置された通路と、わずかに見える坑道の入口が見える。
今も忙しく人が出入りしていた。
「キース、着いたよ」
「キー……」
コウモリのくせにというかだからというか、キースは眠そうに頭を上げた。
「キー!」
そして飛び上がり、パタパタと飛び回る。
興奮しているようだ。
「まずはギルドに行くから。ほら、あんま飛び回らないでよ。目立つでしょー?」
鉱山ギルドは、半分岩壁に埋め込まれたような形をしている。
なんていうか、機能性重視で見た目二の次、増改築を繰り返したような感じだ。
入るとすぐに受付なのはこのギルドも変わらない。
ここの受付の人はお兄さんだった。
「こんにちは」
「お、こんにちは。お使いかな? 可愛いペットだね」
「えと、わたしは冒険者です。宿を紹介してほしくて」
「冒険者?」
「はい。わたし、コムギ村の方から来たんです」
「一人で?」
「一人で……まあ、今はそうです」
お兄さんは、わたしの照合をとった。
こうしてギルドで記録することで、自分が訪れた街とかを記録できるし、何かあったときに捜索してもらえる可能性が高くなる。
それから、お兄さんはわたしが本当に冒険者だと知って驚きながらもわたしに宿を探してくれた。
それから、街の地図を見せてくれて、それらの場所を教えてくれる。
「冒険者ってんなら、この街は初めてか?」
「えと、はい。そうです」
「やっぱりそうか。坑道には行かないな?」
「坑道?」
「金属や宝石を採掘する場所があるんだ。過酷な場所だけどな」
金属、と聞いてキースがモゾモゾ動き出した。
うん、ちょうどカナリアもいることだし、せっかくだから後で行ってみようかな。
でもとにかく、今は宿に行って休みたい。
「今は大丈夫です。疲れてるので、宿に行きます」
「ああ、そうだな。もし行くんだったら、また声をかけてくれ」
わたしはギルドを出て、案内された宿に向かった。
お兄さんに頼んで探してもらった、安いけど個室の宿だ。
この街は、コムギ村とは全然人数の規模が違うので、大部屋相部屋で一緒くたに雑魚寝なんていうのが当たり前。
でもさすがに疲れた体には堪えるし、お金には余裕があったので、ギルドから少し離れた個室を頼んだ。
「いらっしゃい」
「あの、ギルドの紹介をもらったんですけど。泊めてもらえますか?」
ギルドからはやや離れているので、周囲も静かでゆっくりできそうだ。
立地のせいか、他に客はいない。
「ギルドの紹介……そうなんだ」
応対してくれたのは無愛想な少年だった。
わたしと同じくらいか、一回り年上に見える。少なくともスードルよりは幼い。
この宿の主人の息子だろうか。
「ああ、空室はあるけど。何泊する予定?」
「あぁ……えぇと、とりあえず1週間くらい」
「分かった。7日分ね。銀貨21枚」
素泊まり一泊3000円か。この世界だと安くはない。
「えっと……もう少し安くならない……かな?」
「オレに言われても困るよ。……持ち合わせ、ないの?」
訝しむというよりは、やや憐れむような感じで聞かれた。
もしかして、また家出少女だと思われてる?
「ちょっと……微妙かなってところです」
わたしは曖昧に言った。今は勘違いを解くよりも、とにかくベッドで寝たい。
「なら、7日じゃなくて2日とか3日にしたら? どうせ部屋は埋まらないよ。別の部屋になるかもしれないけど」
わたしはとりあえず3日分だけ支払って、部屋に入ることにした。
部屋には、ベッドと鍵付きのクローゼットがあった。
広さは正直狭いけど、十分落ち着ける。いい部屋だ。
「はー、疲れたぁ!」
移動の疲労がすごくて、わたしはベッドにダイブする。
お世辞にもいいスプリングというわけではなかったけど、シーツは清潔だ。十分すぎる。
なんていうか、いかにホーンウルフの移動が楽で速かったのか、というのを思い知った旅だった。
途中天候に恵まれなかったのを差し引いても、自分の足で歩くのはしんどい。
「あーあ、キースがわたしを乗せて飛んでくれればいいのに」
「キー?」
こんなに小さい体じゃ無理そうだけど。と言ってわたしは笑う。
キースは部屋の中を飛び、天井の梁に逆さま状態で留まった。
「あはは、コウモリみたい」
「キー、キー」
「まあいいや。わたし、疲れたからちょっと寝るね……」
「キー?」
うつ伏せになって目を閉じると、頭の横に重みを感じた。
キースも一緒に寝るようだ。
こういうところはネコみたいだなぁとか考える間もなく、わたしは眠りについた。
たまに馬車とか使って来たからやや散財気味だったけれど、異世界感を体験できたし楽しかったのでよしとする。
そして到着したときには晴れていて、鉱山の全部を見下ろすことができた。
「……うん」
自分の足で歩いてきたから疲労がすごかったけど、同時に成し遂げたんだという達成感もあった。
登山家って、こんな感じなのだろうか。今回は上りじゃなくて下りだったけど。
山に囲まれた盆地に位置するこの街は、ズドンと空いた巨大な円筒形の穴の中に作られている。
おかげで場所の割に高度は低いし、その地形から気温が高く、初夏のこの時期ではやや暑い。
絶壁に張り付くように設置された通路と、わずかに見える坑道の入口が見える。
今も忙しく人が出入りしていた。
「キース、着いたよ」
「キー……」
コウモリのくせにというかだからというか、キースは眠そうに頭を上げた。
「キー!」
そして飛び上がり、パタパタと飛び回る。
興奮しているようだ。
「まずはギルドに行くから。ほら、あんま飛び回らないでよ。目立つでしょー?」
鉱山ギルドは、半分岩壁に埋め込まれたような形をしている。
なんていうか、機能性重視で見た目二の次、増改築を繰り返したような感じだ。
入るとすぐに受付なのはこのギルドも変わらない。
ここの受付の人はお兄さんだった。
「こんにちは」
「お、こんにちは。お使いかな? 可愛いペットだね」
「えと、わたしは冒険者です。宿を紹介してほしくて」
「冒険者?」
「はい。わたし、コムギ村の方から来たんです」
「一人で?」
「一人で……まあ、今はそうです」
お兄さんは、わたしの照合をとった。
こうしてギルドで記録することで、自分が訪れた街とかを記録できるし、何かあったときに捜索してもらえる可能性が高くなる。
それから、お兄さんはわたしが本当に冒険者だと知って驚きながらもわたしに宿を探してくれた。
それから、街の地図を見せてくれて、それらの場所を教えてくれる。
「冒険者ってんなら、この街は初めてか?」
「えと、はい。そうです」
「やっぱりそうか。坑道には行かないな?」
「坑道?」
「金属や宝石を採掘する場所があるんだ。過酷な場所だけどな」
金属、と聞いてキースがモゾモゾ動き出した。
うん、ちょうどカナリアもいることだし、せっかくだから後で行ってみようかな。
でもとにかく、今は宿に行って休みたい。
「今は大丈夫です。疲れてるので、宿に行きます」
「ああ、そうだな。もし行くんだったら、また声をかけてくれ」
わたしはギルドを出て、案内された宿に向かった。
お兄さんに頼んで探してもらった、安いけど個室の宿だ。
この街は、コムギ村とは全然人数の規模が違うので、大部屋相部屋で一緒くたに雑魚寝なんていうのが当たり前。
でもさすがに疲れた体には堪えるし、お金には余裕があったので、ギルドから少し離れた個室を頼んだ。
「いらっしゃい」
「あの、ギルドの紹介をもらったんですけど。泊めてもらえますか?」
ギルドからはやや離れているので、周囲も静かでゆっくりできそうだ。
立地のせいか、他に客はいない。
「ギルドの紹介……そうなんだ」
応対してくれたのは無愛想な少年だった。
わたしと同じくらいか、一回り年上に見える。少なくともスードルよりは幼い。
この宿の主人の息子だろうか。
「ああ、空室はあるけど。何泊する予定?」
「あぁ……えぇと、とりあえず1週間くらい」
「分かった。7日分ね。銀貨21枚」
素泊まり一泊3000円か。この世界だと安くはない。
「えっと……もう少し安くならない……かな?」
「オレに言われても困るよ。……持ち合わせ、ないの?」
訝しむというよりは、やや憐れむような感じで聞かれた。
もしかして、また家出少女だと思われてる?
「ちょっと……微妙かなってところです」
わたしは曖昧に言った。今は勘違いを解くよりも、とにかくベッドで寝たい。
「なら、7日じゃなくて2日とか3日にしたら? どうせ部屋は埋まらないよ。別の部屋になるかもしれないけど」
わたしはとりあえず3日分だけ支払って、部屋に入ることにした。
部屋には、ベッドと鍵付きのクローゼットがあった。
広さは正直狭いけど、十分落ち着ける。いい部屋だ。
「はー、疲れたぁ!」
移動の疲労がすごくて、わたしはベッドにダイブする。
お世辞にもいいスプリングというわけではなかったけど、シーツは清潔だ。十分すぎる。
なんていうか、いかにホーンウルフの移動が楽で速かったのか、というのを思い知った旅だった。
途中天候に恵まれなかったのを差し引いても、自分の足で歩くのはしんどい。
「あーあ、キースがわたしを乗せて飛んでくれればいいのに」
「キー?」
こんなに小さい体じゃ無理そうだけど。と言ってわたしは笑う。
キースは部屋の中を飛び、天井の梁に逆さま状態で留まった。
「あはは、コウモリみたい」
「キー、キー」
「まあいいや。わたし、疲れたからちょっと寝るね……」
「キー?」
うつ伏せになって目を閉じると、頭の横に重みを感じた。
キースも一緒に寝るようだ。
こういうところはネコみたいだなぁとか考える間もなく、わたしは眠りについた。
121
あなたにおすすめの小説
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~
うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」
探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。
探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼!
単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。
そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。
小さな彼女には秘密があった。
彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。
魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。
そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。
たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。
実は彼女は人間ではなく――その正体は。
チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる