滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

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03 洞窟と剣と宝石と

ドワーフの職人

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 ノックの音で目が覚めた。

「お客さん、もう朝だよ。まだ寝てる?」

 昨日の受付の少年の声がする。


 わたしは薄く目を開けた。

 キースがパタパタ飛び立って、天井の梁にぶら下がる。


「あ、ううん……起きます」

 体を起こして窓の外を見ると、カーテンも閉めていない窓から日の光が差し込んでいた。

 わたしは体を起こし、扉を開けた。


 少年は掃除道具を持って立っていた。
 昨日も思ったけど、無愛想だ。

「シーツを変えに来たんだ。ずっと寝てたの?」
「え、ええと。はい。毎日変えるんですか?」

「7日に一度。疲れてたみたいだったけど、大丈夫?」

 少年は部屋に入って、慣れた手つきでシーツを剥ぎ取り、新しいのに取り替えた。


「オレはテウォン。聞いてもいい?」

「え、何を……? あ、わたしはスズネです」

「なんで敬語なの、お客なのに。普通に喋ってよ。あのさ、冒険者なんでしょ? どこから来たの?」

「んと、コムギ村から……ここへは、高原のギルドから」

 テウォンは剥ぎ取ったシーツを、手に持った袋に放り込んだ。


「今日は何をする予定?」
「特に……決まってないです。武器を見に行こうかと思ってて」

「ならオレ、いいところ知ってるよ。ドワーフがやってるとこ」

 彼は少し考えながら、袋の口を縛った。


「これから洗濯に行くからさ。一緒に行こう。最近はお客が来なくてつまらないんだよ。冒険者なら、面白い話もあるんだろ」

 黒い髪を三角巾でまとめたテウォンは、無愛想ながら、期待のこもった目をしていた。

「うん、いく」

 断る理由もなかったし、わたしはその提案を飲むことにした。



 着替えたわたしが部屋を出ると、テウォンは既に待っていた。

 あのシーツを入れていた袋を持っている。


「やっと来た。行こうぜ」

「その袋、どうするの?」
「洗濯屋に持って行くんだ。武器屋はその途中だよ」


 高原ではほとんど遺跡にいたし、ギルドの近くも花畑や牧場こそあったものの街はなかった。

 だから、こんなに大きな街は初めてだ。

 人は多かったけど、慣れたのか、気分は悪くない。


「テウォンは宿の手伝いをしてるの?」

「そうだよ。ま、大したことはしないけど。それより、スズネの話聞かせろよ」

「わたしの話?」
「冒険者なんだろ? ドワーフでもないし、エルフでもない、ただの子供なのに。一人旅なんてさー、楽しそうじゃん?」

 テウォンはそう言って後ろ向きに歩き出した。


「お客さんも大人ばっかで、急いで坑道に行っちまうからさ。全然話が聞けないんだよ」

「どんな話が聞きたいの?」
「んぁー、魔物退治の話とか」

「キー!」

 突然、頭の上にいたキースが鳴いた。

「自分の話をしてほしいんだって」
「白いもふもふ、目立ちたがりだな」


 はは、とテウォンは軽快に笑って、わたしの頭の上のキースに手を伸ばす。

 しかしキースは飛び上がって逃げてしまった。


「変わった魔獣だなー、高原にいたの?」

 気を悪くすることもなく、テウォンはわたしに尋ねる。

「うん。幻獣だって。わたしもよく知らない」


 人通りの多い中、キースは人の頭の上を悠々と飛びながらついてきていた。

 空を飛べるって便利だなぁ。


「名前は?」
「キース。キーキー鳴くから」

「ふーん。オレもカッコいい相棒がほしいんだけどなー。姉さんがダメって言うんだ」

「魔獣が飼いたいの?」

「魔獣は無理だろ。テイマーなしじゃ大暴れするし。だから普通のさぁ……あー、クソ。もう着いちゃったな」


 確かに、目の前には工房があった。

 なんかテレビで見たことがあるようなないような、火の入った炉とか作業台とか。

 それらは屋根と壁に覆われていて、半分屋外半分屋内みたいな感じになっている。
 

 正直あまりお店には見えない。
 販売店というよりは、生産工場って感じだ。

 その上なんか人気もないし。

「えっ、ここ?」

「ドワーフの工房だよ。クルクルクルルー! お客さん連れてきたぞー!」


 テウォンは、そんな人気のない工房に遠慮なくずんずん入っていく。

 わたしもおそるおそる後に続いた。

「ね、ねえ、お店の人って、テウォンの知り合いなの?」

「友達だよ。いい奴だけど、ちょっと変わってる。……おかしいな、まだ坑道に行く時間じゃないのに」


 テウォンはあっちを見たりこっちを見たり、裏手に回ったりして探し回る。
 
 でも、やはり見つけられなかったらしく戻ってきた。
 

「ちょっと待ってれば戻ってくると思うよ。なんでいないのか、分かんないけどさ……」

「テルテルテウォン! 勝手に工房に入るなって、何度言ったら分かるの!?」

「うぎゃっ!」

 突然、テウォンが後ろから突き飛ばされたみたいに前のめりに倒れた。
 
 キースもびっくりしたらしく、「キー」と鳴いてパタパタ飛び立ち、工房の天井にぶら下がった。


「いってーな! こっちはお客さんを連れてきたんだよ!」

「客? そうならそうと、さっさと言ってほしいの。騒ぐ必要は全くないの!」


 突き飛ばしたらしいのは、わたしよりさらに小さい、女の子だった。

 3歳、いや4歳くらいだろうか。自分の体くらい大きなツルハシを持っている。


「ククル、ドワーフのクルルというの。小さいお客さん、クルルの工房にようこそ! 何を探してるの?」


 ニコニコしながら、クルルと名乗った女の子はツルハシを下ろした。

「え、こ、子供……?」

「ムッ! 失礼な、ククルは誇り高きドワーフの末裔。全然子供じゃないの! 立派な大人!」


 そう言われても、クルルは子供にしか見えない。

 でも、握手を求めて差し出した手には、その年齢が現れていた。
 
 煤で汚れていたけれど、小さな手の平の皮はとても厚い。


「じゃ、オレは洗濯に行くよ! 帰りはお使いがあるからさ。また今夜ね、スズネ!」

「あ、うん!」

 テウォンは走って行ってしまった。どうやら忙しいらしい。


「それでお客さん、ククルに何を作ってほしいの?」

「え、えっと……武器とか……防具を探してるんです。わたし、冒険者で」

「冒険者! そうだと思ったの。体が小さいと、装備が合わない。気持ちはよーく分かるの」

 クルルは遠い目をしながらそう言った。
 小さな体には不満があるらしい。


 クルルは体こそ小さいけど、髪はしっかりオレンジ色で背中で1つの三つ編みでまとめられて髪留めつき、服装もなかなか可愛くっておしゃれだ。

 ところどころに、キラキラ光るアクセサリーなんかも見える。


「どんな武器がいいの? 今は暇だから、いくらでも作るの」

「……あーっと、難しくない武器がいいです。その……どんなのがいいと思いますか?」

「ふむふむ。近接武器なの?」
「あ、はい。そうです……」

 丸投げしたら怒るかと思ったら、オーダーメイドには慣れているみたいだった。


「魔術を使うのは得意なの?」

「はい。魔力戦術で……武器に魔法をかけて」

「魔力戦術。なるほどなの。で、素材は何があるの?」
「え、素材?」

「素材、持ってないの? ククルの工房、メイン素材の持ち込み、お願いしてるの」

 クルルは首を傾げてペコッと頭を下げた。かわいい。


「素材って、鉱山で取ってくるってことですか?」

「ギルドで買うってことなの。もしかして、お客さん、この街来たばかりなの?」


 クルルはまた首を傾げる。可愛い。

 わたしが頷くと、「なるほど」とか言って頷いた。


「それなら、ついでに一緒に行くの」
「え、いいんですか?」

「ククル、その予定だったから構わないの。小さくて可愛いお客さん、スズネっていうの?」

「あ、はいそうです」


「ククルの上客、歓迎するの。いっぱい稼いで、いっぱい使ってほしいの! きしし!」

 きしし、というのがクルルの笑い声らしい。

 やっぱりなんか、めっちゃ可愛い。
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