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03 洞窟と剣と宝石と
クルルの工房
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「ククルのクルル工房はククルが作ったの。この街でやっていくのは大変だけど、楽しいの!」
子供にしか見えないクルルさんだけど、年齢はもう大人らしい。
ドワーフは、人間に比べると長寿なのだそうだ。
「スズネは体が小さいし、装甲は限界があるの。装備は軽い方がいいの」
「あ、えっと、はい。確かに」
「なるほどなるほど。自動修復のオプションはいるの?」
「自動……自動修復?」
「魔力で装備が治るの。完全に破壊されなければ、なの」
「あぁ……じゃあお願いします」
「了解なの。きしし!」
工房の奥にある小屋みたいなところで、話し合う。
めちゃくちゃ生活スペースが露出している。
こういう雰囲気のところは苦手だったはずなのだけど、クルルさんだとなんか平気だ。
子供だからかな……
「じゃ、防具のデザインはこんな感じなの。スズネはまだまだ大きくなるから、将来性を考えて……」
「あ、将来性はいいです。一年くらいで」
どうせ世界滅ぶし、と思ってそう言ったら、クルルさんがみるみる悲しい顔になった。
「できれば……長く使ってほしいの」
すごい悲しい顔だった。申し訳ない。
「違うんですその……ほら、その。色々試したいじゃないですか。スタイルとか、ファッションとか」
「ふむむ、女の子はそういうもんなの? じゃあ伸縮性はいらないの……よし、装備のデザインはイメージできそうなの。次は武器の続きを聞くの」
キースは暇そうに天井にぶら下がって寝てみたり、わたしの頭の上で寝てみたりを繰り返している。
静かな部屋には音がないはずなのに、不思議と静寂とは程遠い。
「ククルは刃物がいいと思うの。鈍器より扱いは難しいの。でも、軽い力でダメージが与えられるから、小さいスズネにはそっちの方がいいの」
「わたし、手入れとかできないですよ。それに剣とか、下手に扱ったら折れたりしそうだし……」
「ドワーフの火、舐めてはいけないの。ククルは剣が得意なの。秘伝の合金を折り混ぜて、魔力を込めて研ぎ澄ます。
「石を斬っても折れないし、傷ついたとしても獲物の力を取り込んで修繕する。むしろ強くなるの」
クルルは自慢げに胸を張った。かわいい。
「それから、片刃の半月剣、両刃の直剣、両方あるの。魔力戦術が上手く使えるなら、両刃をおすすめするの。
「剣の重量、硬度、速度、鋭さ、自在に変えられるなら切り返し不要の両刃の利点が活きるの。スズネは魔獣と鍔競り合いになったらどうせ負けるの、両刃がいいと思うの」
「あ、あぁ、はい……」
「スズネに剣はとっても似合うと思うの! 応援するの!」
確かに、フェンネルさんを見て剣士はかっこいいなと思ったし、わたしの体格ではそっちの方がダメージありそうだし、それは間違ってないと思う。
「剣、かぁ……」
「適当に振り回すだけでも十分なの。ククルの剣は、使う人を選ばないのー」
達人は道具を選ばないというけど、道具は達人を選びそうだけどなぁ。
なんて思ってはみたけども、異世界だし、そういうこともあるかもしれない。
「得意な属性は特にないの……身体強化は使わないの?」
「あぁ……まだできないんです」
「じゃあ使う可能性もあるの。剣は2本がいいの? それとも1本?」
「あ、ああえと、1本で。わたし、そんなに強敵に立ち向かう予定ないし……」
「了解なの!」
クルルはまた素早く何かをメモする。
それから、天井を見上げて手を振った。
「キース、オマエの依頼も受けてやるの! こっちに降りてくるの!」
「キー!」
キースはパタパタ降りてきて、机の上にベチャッと潰れた。
もうちょっとスマートに着地できないのかな、この子……
「素材は持ってるの?」
「キー、キー!」
キースは、コンコンと高い声で咳き込む。
すると、口の中から例のコインが出てきた。
「飲み込んでたの!?」
「キー、キー」
これは高原で、あのよく分からない黒いスライムから回収したものだ。
どこかにやったのかと思ったら、飲み込んでいたらしい。
「確かに持ち歩くには邪魔そうなの。このくらいならすぐに加工できるから、明日のお昼には渡せるの!」
「キー、キー!」
キースは嬉しそうにテーブルの上で鳴いている。
「えっと、キースは何を頼んでるんですか?」
「これをペンダントにしてほしいみたいなの。大きくなってもいいように設計するから、安心してほしいの!」
「キーキー」
「足につけるの? 確かに、首に引っかかったりしたら危ないの……ナイスアイデアなの!」
キースは満足げに「キー」と言って、わたしの頭の上に乗った。
「ふむむ……なるほどなの。だいたいイメージが湧いたの! キースのペンダントは明日の夕方までに仕上げるの。スズネにはそのとき、一緒に設計図と見積もりを出すの。また来るの!」
「ああ……はい。えっと、お金は?」
「前金は今日の採掘分から差っ引いておくの。かなり儲けたから、前金には十分だったの! 残りはまた今度なの」
ということで、わたしは工房を後にした。
夏の日が傾き崖に隠れ、そして街に影が落ちる。
「なーんか、濃い一日だったなぁ……」
「キー」
朝テウォンに教えてもらった道を、キースと一緒に歩いて戻る。
人は相変わらず多かった。
見る限り、この辺りはテウォンのところ以外にも宿がある。
ホテル街だ。……なんか違うか。
明日はギルドに行こうかな。
こんな風に、気ままに行動するのも悪くないな、とか考えた。
子供にしか見えないクルルさんだけど、年齢はもう大人らしい。
ドワーフは、人間に比べると長寿なのだそうだ。
「スズネは体が小さいし、装甲は限界があるの。装備は軽い方がいいの」
「あ、えっと、はい。確かに」
「なるほどなるほど。自動修復のオプションはいるの?」
「自動……自動修復?」
「魔力で装備が治るの。完全に破壊されなければ、なの」
「あぁ……じゃあお願いします」
「了解なの。きしし!」
工房の奥にある小屋みたいなところで、話し合う。
めちゃくちゃ生活スペースが露出している。
こういう雰囲気のところは苦手だったはずなのだけど、クルルさんだとなんか平気だ。
子供だからかな……
「じゃ、防具のデザインはこんな感じなの。スズネはまだまだ大きくなるから、将来性を考えて……」
「あ、将来性はいいです。一年くらいで」
どうせ世界滅ぶし、と思ってそう言ったら、クルルさんがみるみる悲しい顔になった。
「できれば……長く使ってほしいの」
すごい悲しい顔だった。申し訳ない。
「違うんですその……ほら、その。色々試したいじゃないですか。スタイルとか、ファッションとか」
「ふむむ、女の子はそういうもんなの? じゃあ伸縮性はいらないの……よし、装備のデザインはイメージできそうなの。次は武器の続きを聞くの」
キースは暇そうに天井にぶら下がって寝てみたり、わたしの頭の上で寝てみたりを繰り返している。
静かな部屋には音がないはずなのに、不思議と静寂とは程遠い。
「ククルは刃物がいいと思うの。鈍器より扱いは難しいの。でも、軽い力でダメージが与えられるから、小さいスズネにはそっちの方がいいの」
「わたし、手入れとかできないですよ。それに剣とか、下手に扱ったら折れたりしそうだし……」
「ドワーフの火、舐めてはいけないの。ククルは剣が得意なの。秘伝の合金を折り混ぜて、魔力を込めて研ぎ澄ます。
「石を斬っても折れないし、傷ついたとしても獲物の力を取り込んで修繕する。むしろ強くなるの」
クルルは自慢げに胸を張った。かわいい。
「それから、片刃の半月剣、両刃の直剣、両方あるの。魔力戦術が上手く使えるなら、両刃をおすすめするの。
「剣の重量、硬度、速度、鋭さ、自在に変えられるなら切り返し不要の両刃の利点が活きるの。スズネは魔獣と鍔競り合いになったらどうせ負けるの、両刃がいいと思うの」
「あ、あぁ、はい……」
「スズネに剣はとっても似合うと思うの! 応援するの!」
確かに、フェンネルさんを見て剣士はかっこいいなと思ったし、わたしの体格ではそっちの方がダメージありそうだし、それは間違ってないと思う。
「剣、かぁ……」
「適当に振り回すだけでも十分なの。ククルの剣は、使う人を選ばないのー」
達人は道具を選ばないというけど、道具は達人を選びそうだけどなぁ。
なんて思ってはみたけども、異世界だし、そういうこともあるかもしれない。
「得意な属性は特にないの……身体強化は使わないの?」
「あぁ……まだできないんです」
「じゃあ使う可能性もあるの。剣は2本がいいの? それとも1本?」
「あ、ああえと、1本で。わたし、そんなに強敵に立ち向かう予定ないし……」
「了解なの!」
クルルはまた素早く何かをメモする。
それから、天井を見上げて手を振った。
「キース、オマエの依頼も受けてやるの! こっちに降りてくるの!」
「キー!」
キースはパタパタ降りてきて、机の上にベチャッと潰れた。
もうちょっとスマートに着地できないのかな、この子……
「素材は持ってるの?」
「キー、キー!」
キースは、コンコンと高い声で咳き込む。
すると、口の中から例のコインが出てきた。
「飲み込んでたの!?」
「キー、キー」
これは高原で、あのよく分からない黒いスライムから回収したものだ。
どこかにやったのかと思ったら、飲み込んでいたらしい。
「確かに持ち歩くには邪魔そうなの。このくらいならすぐに加工できるから、明日のお昼には渡せるの!」
「キー、キー!」
キースは嬉しそうにテーブルの上で鳴いている。
「えっと、キースは何を頼んでるんですか?」
「これをペンダントにしてほしいみたいなの。大きくなってもいいように設計するから、安心してほしいの!」
「キーキー」
「足につけるの? 確かに、首に引っかかったりしたら危ないの……ナイスアイデアなの!」
キースは満足げに「キー」と言って、わたしの頭の上に乗った。
「ふむむ……なるほどなの。だいたいイメージが湧いたの! キースのペンダントは明日の夕方までに仕上げるの。スズネにはそのとき、一緒に設計図と見積もりを出すの。また来るの!」
「ああ……はい。えっと、お金は?」
「前金は今日の採掘分から差っ引いておくの。かなり儲けたから、前金には十分だったの! 残りはまた今度なの」
ということで、わたしは工房を後にした。
夏の日が傾き崖に隠れ、そして街に影が落ちる。
「なーんか、濃い一日だったなぁ……」
「キー」
朝テウォンに教えてもらった道を、キースと一緒に歩いて戻る。
人は相変わらず多かった。
見る限り、この辺りはテウォンのところ以外にも宿がある。
ホテル街だ。……なんか違うか。
明日はギルドに行こうかな。
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