44 / 143
05 試練と挑戦
体調不良
しおりを挟む
やっぱりAランクはすごい。
アリスメードさんは王都に屋敷を持っていて、王都にいる間はそこを拠点に生活しているそうだ。
ギルドと王城の間にある高級住宅街の一角で、獣舎も備え付けられている。
「久しぶりだな、スズネ」
わたしはそこでロイドさんと再会した。
レイスさんの言う通り、ロイドさんはレイスさん以上に様子が変わっていた。
片脚が義足になり、顔にも大きな傷がある。
いつもローブを羽織っていたけれど、もうそれは着ていないみたいだ。
髪は真っ白になり、そして片腕には、獣の腕がくっついていた。
でもホーンウルフたちとは相変わらず仲良さげで、それだけは変わらなかった。
「おー、キースも久しぶりだな。なんかずいぶん毛が生えたんじゃないか? 大きくなったし」
「キー」
「スズネとも仲良くやれてるみたいだな。良かった良かった」
「キー、キー」
「可愛くなったなぁ、お洒落なストラップももらって、嬉しいなー?」
「キー!」
ロイドさんはキースを見て嬉しそうにする。
キースも覚えているのか、ロイドさんには心なしかよく喋っているような気がする。
言葉は発さないけど。
「あ、あのロイドさん……それ……」
「この傷だろ? 見た目より大したことはないんだよ」
わたしが言葉を失っているのを見て、ロイドさんはそう言った。
「調教に失敗して、襲われたんだ。油断してたな、正直。その隙を、向こうは見抜いてた。完全に俺のミスだ」
「その腕は……? なんかの呪い……?」
「あー……出血がひどくて、ダメ元でレイスが……うん、まあ、レイスに任せた時点で覚悟はしてたし、再生したのが奇跡みたいなものだろ?」
そういえばレイスさん、回復はダメだって言ってたなぁ。
ダメってこういうことだったのか……
「あの、エリクサー? とかって使えなかったんですか。なんていうか……なんでも治るんですよね?」
「エリクサーが使えるかどうかは体質によるんだ。俺の場合、ポーションの類はほとんど効かない」
ポーションって、体質によるんだ……知らなかった。
「でもまあ、ホーンウルフとしては、気に入ったみたいだからな。俺も気に入ってる。デメリットはロクな服が着られないのと、街中を歩けないのと、細かな作業ができないのと、魔術精度が下がったくらいだ。片腕がないよりはマシだよ。ないよりは」
結構なデメリットに苦しんでいるようだったが、ロイドさんは自分を納得させていた。
「もう一回切り落として生やすのは無理なんですか?」
「……試してはみたんだけどな、このザマだ」
ロイドさんは、義足でコンコンと地面を叩いた。
「左右で長さが違ったんで、再生に賭けて、専門の回復魔術師に頼んだんだけどな。結局、まともに使えるようになったのは膝下までだ。もう一度同じ賭けをする気にはならなかった」
「……」
「それに、さっきも言っただろ? この腕も、体も、愛するこいつらとお揃いなんだ。気に入ってるんだよ」
オオカミが1匹、わたしの方に寄ってきた。
そして濡れた鼻をわたしに押し付ける。
ロイドさんはそんなオオカミの頭を撫でて、静かに語りかけていた。
「覚えてんだよ、こいつも……ああ、そうだ。スズネだよ。白玉の森から走ったよな……うん。可愛い女の子だ……うん、うん……」
「ロイドさん……? 言葉が、分かるんですか……?」
ロイドさんは虚ろな目で、ホーンウルフを撫で回す。
「え? ああ、まあ、なんとなくな。ホーンウルフは、今や俺の全てだから。こいつらさえいてくれれば、俺は何もいらないんだよ。ああ、うんもちろん。そうだな、そうだな、うん、うん。ありがとう。ありがとう、うっ、うぅっ、うぅ……」
「……」
わたしはそっと獣舎を後にすることにした。
フェンネルさんは、中庭で木刀を振っていた。
やっぱりストイックな人だ。
「フェンネルさん、こんにちは」
「うん」
わたしが憧れるフェンネルさんそのままだ。
良く見ると、細く見える手足もしっかり鍛えられて筋肉質。
「ロイドと会ったの」
「あ、えと……はい」
「どう?」
「え、どうって……」
「おかしいでしょ」
フェンネルさんは何の遠慮もなくそう言う。
わたしは苦笑いして、「ちょっとだけ……」と言った。
「何があったんですか? その……あんまり、聞かない方が?」
「人間関係」
「人間関係?」
「そう。王都、嫌いらしい。貴族とか、王族とか。王都出れば、治る」
なるほど、ロイドさんが精神に異常をきたしているのは、少なくともフェンネルさんにとってはいつものことらしい。
「ところでフェンネルさん、スードルはどこにいるんですか? お屋敷にもいないですよね?」
「学園」
「学園?」
「そう」
「王都の北の……学園ですか?」
「そう」
「……どうして学園に?」
「生徒」
「生徒?」
「魔導士の適性、あるらしい。ずっと勉強してる」
「スードルが?」
「うん」
魔導士といえば、自然の魔力を操れる、魔術師さんの魔力量の補助をしてくれる人だったっけ。
スードルはそれの適性があったってことだ。
すごいなぁ……
「キー、キー」
キースが小さな声で鳴く。どうやらおねむのようだ。
「フェンネルさん。わたしたち、疲れてるので今日は先に休ませてください」
「そうすれば。部屋は聞いた?」
「あ、はい。キースは獣舎に入れた方がいいですか?」
「キー!?」
「……別にいいよ。そのままで。おやすみ」
「おやすみなさい!」
「キー!」
フェンネルさんは、また剣を振り始めた。
ひゅん、ひゅん、と風を切るような音が聞こえる。
アリスメードさんは王都に屋敷を持っていて、王都にいる間はそこを拠点に生活しているそうだ。
ギルドと王城の間にある高級住宅街の一角で、獣舎も備え付けられている。
「久しぶりだな、スズネ」
わたしはそこでロイドさんと再会した。
レイスさんの言う通り、ロイドさんはレイスさん以上に様子が変わっていた。
片脚が義足になり、顔にも大きな傷がある。
いつもローブを羽織っていたけれど、もうそれは着ていないみたいだ。
髪は真っ白になり、そして片腕には、獣の腕がくっついていた。
でもホーンウルフたちとは相変わらず仲良さげで、それだけは変わらなかった。
「おー、キースも久しぶりだな。なんかずいぶん毛が生えたんじゃないか? 大きくなったし」
「キー」
「スズネとも仲良くやれてるみたいだな。良かった良かった」
「キー、キー」
「可愛くなったなぁ、お洒落なストラップももらって、嬉しいなー?」
「キー!」
ロイドさんはキースを見て嬉しそうにする。
キースも覚えているのか、ロイドさんには心なしかよく喋っているような気がする。
言葉は発さないけど。
「あ、あのロイドさん……それ……」
「この傷だろ? 見た目より大したことはないんだよ」
わたしが言葉を失っているのを見て、ロイドさんはそう言った。
「調教に失敗して、襲われたんだ。油断してたな、正直。その隙を、向こうは見抜いてた。完全に俺のミスだ」
「その腕は……? なんかの呪い……?」
「あー……出血がひどくて、ダメ元でレイスが……うん、まあ、レイスに任せた時点で覚悟はしてたし、再生したのが奇跡みたいなものだろ?」
そういえばレイスさん、回復はダメだって言ってたなぁ。
ダメってこういうことだったのか……
「あの、エリクサー? とかって使えなかったんですか。なんていうか……なんでも治るんですよね?」
「エリクサーが使えるかどうかは体質によるんだ。俺の場合、ポーションの類はほとんど効かない」
ポーションって、体質によるんだ……知らなかった。
「でもまあ、ホーンウルフとしては、気に入ったみたいだからな。俺も気に入ってる。デメリットはロクな服が着られないのと、街中を歩けないのと、細かな作業ができないのと、魔術精度が下がったくらいだ。片腕がないよりはマシだよ。ないよりは」
結構なデメリットに苦しんでいるようだったが、ロイドさんは自分を納得させていた。
「もう一回切り落として生やすのは無理なんですか?」
「……試してはみたんだけどな、このザマだ」
ロイドさんは、義足でコンコンと地面を叩いた。
「左右で長さが違ったんで、再生に賭けて、専門の回復魔術師に頼んだんだけどな。結局、まともに使えるようになったのは膝下までだ。もう一度同じ賭けをする気にはならなかった」
「……」
「それに、さっきも言っただろ? この腕も、体も、愛するこいつらとお揃いなんだ。気に入ってるんだよ」
オオカミが1匹、わたしの方に寄ってきた。
そして濡れた鼻をわたしに押し付ける。
ロイドさんはそんなオオカミの頭を撫でて、静かに語りかけていた。
「覚えてんだよ、こいつも……ああ、そうだ。スズネだよ。白玉の森から走ったよな……うん。可愛い女の子だ……うん、うん……」
「ロイドさん……? 言葉が、分かるんですか……?」
ロイドさんは虚ろな目で、ホーンウルフを撫で回す。
「え? ああ、まあ、なんとなくな。ホーンウルフは、今や俺の全てだから。こいつらさえいてくれれば、俺は何もいらないんだよ。ああ、うんもちろん。そうだな、そうだな、うん、うん。ありがとう。ありがとう、うっ、うぅっ、うぅ……」
「……」
わたしはそっと獣舎を後にすることにした。
フェンネルさんは、中庭で木刀を振っていた。
やっぱりストイックな人だ。
「フェンネルさん、こんにちは」
「うん」
わたしが憧れるフェンネルさんそのままだ。
良く見ると、細く見える手足もしっかり鍛えられて筋肉質。
「ロイドと会ったの」
「あ、えと……はい」
「どう?」
「え、どうって……」
「おかしいでしょ」
フェンネルさんは何の遠慮もなくそう言う。
わたしは苦笑いして、「ちょっとだけ……」と言った。
「何があったんですか? その……あんまり、聞かない方が?」
「人間関係」
「人間関係?」
「そう。王都、嫌いらしい。貴族とか、王族とか。王都出れば、治る」
なるほど、ロイドさんが精神に異常をきたしているのは、少なくともフェンネルさんにとってはいつものことらしい。
「ところでフェンネルさん、スードルはどこにいるんですか? お屋敷にもいないですよね?」
「学園」
「学園?」
「そう」
「王都の北の……学園ですか?」
「そう」
「……どうして学園に?」
「生徒」
「生徒?」
「魔導士の適性、あるらしい。ずっと勉強してる」
「スードルが?」
「うん」
魔導士といえば、自然の魔力を操れる、魔術師さんの魔力量の補助をしてくれる人だったっけ。
スードルはそれの適性があったってことだ。
すごいなぁ……
「キー、キー」
キースが小さな声で鳴く。どうやらおねむのようだ。
「フェンネルさん。わたしたち、疲れてるので今日は先に休ませてください」
「そうすれば。部屋は聞いた?」
「あ、はい。キースは獣舎に入れた方がいいですか?」
「キー!?」
「……別にいいよ。そのままで。おやすみ」
「おやすみなさい!」
「キー!」
フェンネルさんは、また剣を振り始めた。
ひゅん、ひゅん、と風を切るような音が聞こえる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
542
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる