滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

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05 試練と挑戦

体調不良

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 やっぱりAランクはすごい。

 アリスメードさんは王都に屋敷を持っていて、王都にいる間はそこを拠点に生活しているそうだ。

 ギルドと王城の間にある高級住宅街の一角で、獣舎も備え付けられている。


「久しぶりだな、スズネ」

 わたしはそこでロイドさんと再会した。

 レイスさんの言う通り、ロイドさんはレイスさん以上に様子が変わっていた。


 片脚が義足になり、顔にも大きな傷がある。

 いつもローブを羽織っていたけれど、もうそれは着ていないみたいだ。

 髪は真っ白になり、そして片腕には、獣の腕がくっついていた。


 でもホーンウルフたちとは相変わらず仲良さげで、それだけは変わらなかった。


「おー、キースも久しぶりだな。なんかずいぶん毛が生えたんじゃないか? 大きくなったし」
「キー」
「スズネとも仲良くやれてるみたいだな。良かった良かった」
「キー、キー」
「可愛くなったなぁ、お洒落なストラップももらって、嬉しいなー?」
「キー!」


 ロイドさんはキースを見て嬉しそうにする。

 キースも覚えているのか、ロイドさんには心なしかよく喋っているような気がする。

 言葉は発さないけど。


「あ、あのロイドさん……それ……」
「この傷だろ? 見た目より大したことはないんだよ」

 わたしが言葉を失っているのを見て、ロイドさんはそう言った。


調教テイムに失敗して、襲われたんだ。油断してたな、正直。その隙を、向こうは見抜いてた。完全に俺のミスだ」

「その腕は……? なんかの呪い……?」

「あー……出血がひどくて、ダメ元でレイスが……うん、まあ、レイスに任せた時点で覚悟はしてたし、再生したのが奇跡みたいなものだろ?」


 そういえばレイスさん、回復はダメだって言ってたなぁ。

 ダメってこういうことだったのか……
 

「あの、エリクサー? とかって使えなかったんですか。なんていうか……なんでも治るんですよね?」

「エリクサーが使えるかどうかは体質によるんだ。俺の場合、ポーションの類はほとんど効かない」

 ポーションって、体質によるんだ……知らなかった。
 

「でもまあ、ホーンウルフとしては、気に入ったみたいだからな。俺も気に入ってる。デメリットはロクな服が着られないのと、街中を歩けないのと、細かな作業ができないのと、魔術精度が下がったくらいだ。片腕がないよりはマシだよ。ないよりは」

 結構なデメリットに苦しんでいるようだったが、ロイドさんは自分を納得させていた。
 

「もう一回切り落として生やすのは無理なんですか?」

「……試してはみたんだけどな、このザマだ」

 ロイドさんは、義足でコンコンと地面を叩いた。

「左右で長さが違ったんで、再生に賭けて、専門の回復魔術師に頼んだんだけどな。結局、まともに使えるようになったのは膝下までだ。もう一度同じ賭けをする気にはならなかった」

「……」
「それに、さっきも言っただろ? この腕も、体も、愛するこいつらとお揃いなんだ。気に入ってるんだよ」


 オオカミが1匹、わたしの方に寄ってきた。
 そして濡れた鼻をわたしに押し付ける。

 ロイドさんはそんなオオカミの頭を撫でて、静かに語りかけていた。

「覚えてんだよ、こいつも……ああ、そうだ。スズネだよ。白玉の森から走ったよな……うん。可愛い女の子だ……うん、うん……」


「ロイドさん……? 言葉が、分かるんですか……?」

 ロイドさんは虚ろな目で、ホーンウルフを撫で回す。

「え? ああ、まあ、なんとなくな。ホーンウルフは、今や俺の全てだから。こいつらさえいてくれれば、俺は何もいらないんだよ。ああ、うんもちろん。そうだな、そうだな、うん、うん。ありがとう。ありがとう、うっ、うぅっ、うぅ……」

「……」

 わたしはそっと獣舎を後にすることにした。



 フェンネルさんは、中庭で木刀を振っていた。
 やっぱりストイックな人だ。

「フェンネルさん、こんにちは」
「うん」

 わたしが憧れるフェンネルさんそのままだ。
 良く見ると、細く見える手足もしっかり鍛えられて筋肉質。

「ロイドと会ったの」
「あ、えと……はい」
「どう?」
「え、どうって……」
「おかしいでしょ」

 フェンネルさんは何の遠慮もなくそう言う。
 わたしは苦笑いして、「ちょっとだけ……」と言った。

「何があったんですか? その……あんまり、聞かない方が?」
「人間関係」

「人間関係?」
「そう。王都、嫌いらしい。貴族とか、王族とか。王都出れば、治る」

 なるほど、ロイドさんが精神に異常をきたしているのは、少なくともフェンネルさんにとってはいつものことらしい。
 

「ところでフェンネルさん、スードルはどこにいるんですか? お屋敷にもいないですよね?」
「学園」
「学園?」
「そう」
「王都の北の……学園ですか?」
「そう」

「……どうして学園に?」
「生徒」
「生徒?」

「魔導士の適性、あるらしい。ずっと勉強してる」
「スードルが?」
「うん」


 魔導士といえば、自然の魔力を操れる、魔術師さんの魔力量の補助をしてくれる人だったっけ。
 
 スードルはそれの適性があったってことだ。
 すごいなぁ……


「キー、キー」

 キースが小さな声で鳴く。どうやらおねむのようだ。

「フェンネルさん。わたしたち、疲れてるので今日は先に休ませてください」
「そうすれば。部屋は聞いた?」
「あ、はい。キースは獣舎に入れた方がいいですか?」
「キー!?」

「……別にいいよ。そのままで。おやすみ」
「おやすみなさい!」
「キー!」

 フェンネルさんは、また剣を振り始めた。
 ひゅん、ひゅん、と風を切るような音が聞こえる。
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