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08 異世界
地面の下の空の上
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「……上って、空の上に? 空中都市? あの空は限りがないように見えるかもしれないけど、実際は違うんだよ。母なる大樹っていう、巨大な木の枝なんだ。だから空中都市はないよ」
「違います。空の上ではあるんですけど。つまりその枝の上に、世界があるってことです。土があって、草があって、木が生えて。山があって、海があります」
ディーさんとエフさんはもとより、エナさんまで不思議そうに首を傾げる。
「ふーん、そうなんだ。まあ確かに、天井がある以上、その上があっても不思議じゃない……かな。僕の記憶も不完全みたいだね。醤油はそこにいるんだよね?」
「醤油さんだけじゃないですよ。たくさんの人がいます。たくさんの動物がいて」
「動物? 動物って、昆虫や獣のこと?」
エフさんが尋ねる。
「え、そうですけど……やっぱりこの都市にはいないんですか?」
「ミュー地区の保護施設に収容されてたよ。マナと食料の不足から、切り捨てられちゃったけど……だから、もう残ってないのかな」
エフさんはディーさんに同意を求めたようだった。ディーさんは頷く。
「それって、皆さんの食べ物とかどうしてるんですか? 動物のお肉は?」
「そちらの世界では、動物を殺して肉を食べるのか?」
ディーさんが「信じられない」という風に頭を振った。
「お肉、食べたことないんですか?」
「植物由来の栄養ブロックがあるから、それを食べるよ。動物性の食べ物ってなんだか野蛮だし……食べる気にならないよね」
と、エナさんが言う。
野蛮って、戦争で人間を殺すのは野蛮じゃないのかな。微妙に感覚の違いを感じる。
これが価値観の違いってやつかー。
「そこにはどうやって行けばいいの? 空に穴を空けるとか?」
「その前に、この世界のことを教えてください。話はそれからです」
「ちぇっ、しぶといなぁもう。分かったよ。教えてあげる」
エナさんは「やれやれ」と言って、わたしに「まずは前提として説明するけど」と言った。
「このあたり、つまりあの大樹の幹近くの地域をアルファ地区っていうんだ。最近は色々な地区がそれぞれの主張を持って争ってたんだけど、最後に生き残ったのはアルファ地区ってことだね。ガンマ地区も上手くやってたけど、結局は負けちゃった。正確にはアルファ地区の部隊は既に壊滅してて、僕が乗っ取ったっていう形が一番正しいのかな? 本来のアルファ地区の部隊は、今残ってるのは……ビーだけだね。そのほかの人はみんな、別の地区を故郷にしてる。例えばそこにいるディーとエフはベータ地区の出身だよ」
「わたしみたいに、上から来た人はいないんですか?」
「そもそも上っていう概念がないからなー。僕の記憶も案外あてにならないね、今回は割といい感じだと思ってたのに。あー、えっと、質問に答えると、上から来た人はいないかな」
エナさんはそう言って、やれやれという風に首を振った。
「それで、今はエネルギーがすごくなくなっちゃってるんですよね? その理由とかって分かるんですか? やっぱり、使い過ぎ?」
「マナは真の再生可能エネルギーだよ。それは常に循環してるだけで、減ることはあり得ない。水と一緒だね。大樹に吸収され、大樹から吐き出される。不足した原因は、大まかに言えば、吸収量が増え、吐き出す量が減ったこと。それは徐々に極端になった。さっきも言ったように、人工的に生産することも少しはできるだけど、せっかく作っても大部分は吸収されちゃう」
「それ、仮にわたしからマナを取り出せたとしても、根本的な解決にはならないんじゃないですか? もっと吸収量が増えたりしたら……」
「その心配はしなくていいよ。君から取り出せるマナは無限だから。今まで大樹が吐き出していたマナを、君が吐き出すってだけだよ。よく言うじゃない、『満開のサクラの下には、人の死体が埋まってる』って。サクラが何か知らないけどさ。ああ、そうだ。言い忘れてたけど、別に君が死ぬ必要はないんだよ? 僕らのために、一生働いてくれるって約束してくれるなら、その間は生かしてあげられる。でもそれって、やっぱり非人道的でしょ?」
やっぱり殺人だって十分すぎるくらいに非人道的だと思うのだけど、エナさんはまったく悪びれる様子もなくそう言った。
「違います。空の上ではあるんですけど。つまりその枝の上に、世界があるってことです。土があって、草があって、木が生えて。山があって、海があります」
ディーさんとエフさんはもとより、エナさんまで不思議そうに首を傾げる。
「ふーん、そうなんだ。まあ確かに、天井がある以上、その上があっても不思議じゃない……かな。僕の記憶も不完全みたいだね。醤油はそこにいるんだよね?」
「醤油さんだけじゃないですよ。たくさんの人がいます。たくさんの動物がいて」
「動物? 動物って、昆虫や獣のこと?」
エフさんが尋ねる。
「え、そうですけど……やっぱりこの都市にはいないんですか?」
「ミュー地区の保護施設に収容されてたよ。マナと食料の不足から、切り捨てられちゃったけど……だから、もう残ってないのかな」
エフさんはディーさんに同意を求めたようだった。ディーさんは頷く。
「それって、皆さんの食べ物とかどうしてるんですか? 動物のお肉は?」
「そちらの世界では、動物を殺して肉を食べるのか?」
ディーさんが「信じられない」という風に頭を振った。
「お肉、食べたことないんですか?」
「植物由来の栄養ブロックがあるから、それを食べるよ。動物性の食べ物ってなんだか野蛮だし……食べる気にならないよね」
と、エナさんが言う。
野蛮って、戦争で人間を殺すのは野蛮じゃないのかな。微妙に感覚の違いを感じる。
これが価値観の違いってやつかー。
「そこにはどうやって行けばいいの? 空に穴を空けるとか?」
「その前に、この世界のことを教えてください。話はそれからです」
「ちぇっ、しぶといなぁもう。分かったよ。教えてあげる」
エナさんは「やれやれ」と言って、わたしに「まずは前提として説明するけど」と言った。
「このあたり、つまりあの大樹の幹近くの地域をアルファ地区っていうんだ。最近は色々な地区がそれぞれの主張を持って争ってたんだけど、最後に生き残ったのはアルファ地区ってことだね。ガンマ地区も上手くやってたけど、結局は負けちゃった。正確にはアルファ地区の部隊は既に壊滅してて、僕が乗っ取ったっていう形が一番正しいのかな? 本来のアルファ地区の部隊は、今残ってるのは……ビーだけだね。そのほかの人はみんな、別の地区を故郷にしてる。例えばそこにいるディーとエフはベータ地区の出身だよ」
「わたしみたいに、上から来た人はいないんですか?」
「そもそも上っていう概念がないからなー。僕の記憶も案外あてにならないね、今回は割といい感じだと思ってたのに。あー、えっと、質問に答えると、上から来た人はいないかな」
エナさんはそう言って、やれやれという風に首を振った。
「それで、今はエネルギーがすごくなくなっちゃってるんですよね? その理由とかって分かるんですか? やっぱり、使い過ぎ?」
「マナは真の再生可能エネルギーだよ。それは常に循環してるだけで、減ることはあり得ない。水と一緒だね。大樹に吸収され、大樹から吐き出される。不足した原因は、大まかに言えば、吸収量が増え、吐き出す量が減ったこと。それは徐々に極端になった。さっきも言ったように、人工的に生産することも少しはできるだけど、せっかく作っても大部分は吸収されちゃう」
「それ、仮にわたしからマナを取り出せたとしても、根本的な解決にはならないんじゃないですか? もっと吸収量が増えたりしたら……」
「その心配はしなくていいよ。君から取り出せるマナは無限だから。今まで大樹が吐き出していたマナを、君が吐き出すってだけだよ。よく言うじゃない、『満開のサクラの下には、人の死体が埋まってる』って。サクラが何か知らないけどさ。ああ、そうだ。言い忘れてたけど、別に君が死ぬ必要はないんだよ? 僕らのために、一生働いてくれるって約束してくれるなら、その間は生かしてあげられる。でもそれって、やっぱり非人道的でしょ?」
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