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1、目覚め
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「ぁぁああああ!!」
声が出た。
身体を這う生々しい感触が残っている。
「はっ…はっ…」
視線が定まらない。ぐるぐると勝手に動き回る。
心臓はドクドクと激しく動いている。軋む。痛い。
体は鉛のように重い。動かすことができない。
でも、縛られているわけでもない。やわらかい、何かに包まれている。
ここはどこだ。
唯一、動かすことができる目に力を込め、しっかり左右に動かし状況を把握する。
外ではない。家の中。
どこか見たことがあるような壁模様。視界の端に、白い布。
消毒液などの匂いはわずか。医療施設に運ばれたわけではない?
民家か? それにしてはーーー
「だいじょうぶ?」
高い、少年の声。不思議とその声に聞き馴染みを感じた。
「いま、お医者さまを呼んだから、安心してね」
視界に入り込んできたのは、クリストフによく似た子供。
「く……リ……」
うまく言葉が発せない。
「だいじょうぶだよ。水は?」
ほかに誰かがいるらしく、その子供は、俺に優しく声をかけながら、どこからか受け取った水差しを口元に近づけてくれる。
「んっ……」
「ゆっくり飲んで。もう、誰も、君を傷つけたりしないよ」
まるで子供に言い聞かせるように、穏やかに笑う子供。
それなのに、なぜか安心するよう固まった体から力が抜けていくことに戸惑う。
「お、まえは……?」
「僕は、クリストフ・ハイマン。ここは、メテオリティ領だよ」
「くり…ふ…メテオ……」
なにを言っているのか、理解できなかった。
どういうことだ。
でも血縁ではないとありえないほどに似た、顔の造形。
そんな子供の名前が、まったく同じ。
「ハイマン家はこの土地で、一番、強いんだ。だから、大丈夫。安心してね」
俺の動揺を不安と受け取ったらしく、幼子に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を区切る。そして、手をぎゅっと握られる。
俺はそこで、やっと自分の手を視界に入れることができた。
幼い少年ーークリストフに握れられている自分の手が、すっぽりとおさまるほど小さく頼りなく、骨と皮だけの、枝切のような腕になっている。
「あ……あぁ……」
そう言えば、自分の声がうまく出ていないから変な声になっていると思っていたが、声変わり前の幼い音が自分の口から出ていた。
頭の中の情報が混乱で渦巻く。次々と起こる、目の前の出来事。
死ぬ間際が見せる、まやかしか。
呼吸もうまくできない。
「そうか……し、ぬ……のか……」
そうならば、もっと、穏やかな日々あったはずだ。
こんな見すぼらしい自分ではなく、鍛え上げた自分でありたかった。
でもーー結局、守りきれなかったじゃないか……。
悔しくて、苦しくて、目元がじわじわと熱くなった。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。僕がついているよ」
そっと握り直された手はあたたかった。
ポンポンとゆっくり刻まれるリズムに引っ張られるように呼吸が落ち着いていく。
まぶたが重い。視界が、暗くなっていく。
「泣かないで、僕がーー」
声が出た。
身体を這う生々しい感触が残っている。
「はっ…はっ…」
視線が定まらない。ぐるぐると勝手に動き回る。
心臓はドクドクと激しく動いている。軋む。痛い。
体は鉛のように重い。動かすことができない。
でも、縛られているわけでもない。やわらかい、何かに包まれている。
ここはどこだ。
唯一、動かすことができる目に力を込め、しっかり左右に動かし状況を把握する。
外ではない。家の中。
どこか見たことがあるような壁模様。視界の端に、白い布。
消毒液などの匂いはわずか。医療施設に運ばれたわけではない?
民家か? それにしてはーーー
「だいじょうぶ?」
高い、少年の声。不思議とその声に聞き馴染みを感じた。
「いま、お医者さまを呼んだから、安心してね」
視界に入り込んできたのは、クリストフによく似た子供。
「く……リ……」
うまく言葉が発せない。
「だいじょうぶだよ。水は?」
ほかに誰かがいるらしく、その子供は、俺に優しく声をかけながら、どこからか受け取った水差しを口元に近づけてくれる。
「んっ……」
「ゆっくり飲んで。もう、誰も、君を傷つけたりしないよ」
まるで子供に言い聞かせるように、穏やかに笑う子供。
それなのに、なぜか安心するよう固まった体から力が抜けていくことに戸惑う。
「お、まえは……?」
「僕は、クリストフ・ハイマン。ここは、メテオリティ領だよ」
「くり…ふ…メテオ……」
なにを言っているのか、理解できなかった。
どういうことだ。
でも血縁ではないとありえないほどに似た、顔の造形。
そんな子供の名前が、まったく同じ。
「ハイマン家はこの土地で、一番、強いんだ。だから、大丈夫。安心してね」
俺の動揺を不安と受け取ったらしく、幼子に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を区切る。そして、手をぎゅっと握られる。
俺はそこで、やっと自分の手を視界に入れることができた。
幼い少年ーークリストフに握れられている自分の手が、すっぽりとおさまるほど小さく頼りなく、骨と皮だけの、枝切のような腕になっている。
「あ……あぁ……」
そう言えば、自分の声がうまく出ていないから変な声になっていると思っていたが、声変わり前の幼い音が自分の口から出ていた。
頭の中の情報が混乱で渦巻く。次々と起こる、目の前の出来事。
死ぬ間際が見せる、まやかしか。
呼吸もうまくできない。
「そうか……し、ぬ……のか……」
そうならば、もっと、穏やかな日々あったはずだ。
こんな見すぼらしい自分ではなく、鍛え上げた自分でありたかった。
でもーー結局、守りきれなかったじゃないか……。
悔しくて、苦しくて、目元がじわじわと熱くなった。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。僕がついているよ」
そっと握り直された手はあたたかった。
ポンポンとゆっくり刻まれるリズムに引っ張られるように呼吸が落ち着いていく。
まぶたが重い。視界が、暗くなっていく。
「泣かないで、僕がーー」
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