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序章:出逢い
神父見習いの場合 03
しおりを挟むそれでも構わずに、彼へ腕を伸ばす。
此処で抱き止めないと、更に遠くに行ってしまいそうで、僕は必死だった。
「離せよ。あんた等お得意の憐れみか? そんなのは」
「ちがっ……い、ます! ……僕は、君のことが愛しいのです。それだけなのです。……僕達が無責任に吐いた言葉が君を傷付けていたのなら、謝ります」
彼に何れだけの傷を負わせたのか、考えると恐ろしくなった。
彼は目を瞬かせて、理解出来ないと呟く。
顔は伏せられてしまい、僕の肩口に彼の額が触れた。
「何だよ、愛しいって。何だよ、謝りますって。……あんた馬鹿でしょ? 赤の他人に、しかも駄々捏ねてるだけの餓鬼に、そんなこと言うなよ」
くぐもった声で、怒りを堪えたような、そんな声色で告げられた。
自分の立場を解っているのだから、彼は頭が良いのだろう。
きっと僕は試された。
欲しい答えが返ってくるまで、彼は大人を試す。
其に添えられたとは思わないが、恐らく僕は例外のものを彼に与えた。
彼の動揺が其を物語っているように僕には思えた。
少しだけ誇らしくて笑ってしまった。
結局、僕の気持ちが落ち着くまで、彼はずっと同じ体勢でいてくれた。
彼を離すと急いでポケットに手を入れる。
中からハンカチを取り出し、彼の手首を掴むとハンカチで掌を払う。
黒い蟻の死骸が下に落ちていった。
綺麗になるのを見て、彼の手を離す。
手が綺麗になった、それだけのことに酷く安堵した。
自然と口許が弛む。
彼はそんな僕を遠目で眺めるように見ながら、少しだけ膨れていた。
また日曜日会おうねと、そんな彼の顔を覗き込み言うと、頭を撫でてから立ち上がり、落としたままの買い物袋を手に立ち去った。
悪魔のような愛しい彼。
弟を想う時の心情に似ている其は、僕の中に巣食っていた。
彼の名がフィンだと知るのは、もう少し先のこと。
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