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一章:恋に堕ちた悪魔の子

告白された場合 01

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【告白された場合】


 いつものことだが、神父様の作る薬は不味い。
見た目にも気持ちが悪い。
それなのに、何故か効果は絶大で、次の日には熱が引いた。


 ぼんやりとする視界の中に神父様を捉える。
起きると、其処には神父様がいた。
手にはあの器がある。
不味くて気味の悪い薬だ。


 神父様と目が合う。
僕はひきつった笑みを返した。

「やあ、起きたかい? クスリの時間だ、ミル」
「あ、その。神父様、熱は下がったみたいです。もう大丈夫ですよ」

器から漂う苦い匂いが鼻に着く。
正直、飲みたくない。
片手をベッドに着き、上体を起こす。
笑顔で大丈夫だとアピールしてみせるも、神父様も引かない。

「ミル。油断が大惨事を招くんだ。飲みなさい」
「で、でもっ! 本当に大丈夫」
「ミル。飲むんだ」
「……はい、神父様」

どうにか危機を回避しようとするも、真剣な顔になる神父様に凄まれてしまえば、何も言えなくなってしまう。
渋々頷き、僕は器を受け取った。


 いつ見ても、グロい色にエグい香り、そして、気色の悪いどろどろを纏っている。
匙を手にし、一口掬う。
糸をひく様は、例えようのない光景だ。
何度味わっても慣れることのない地獄だ。
目を瞑り口に含む。
口内で纏わり付く前にと急いで飲み込む。
あまりの不味さに、一瞬意識が遠退いた。
はっ、と我に返るも、視界は器を捉え、まだまだ薬がある現実を受け入れなくてはならなかった。

「ミル。今日、夕方頃にフィンが君の見舞いに来るそうだよ。それと、ネコは土に埋めた。裏にお墓を作ったんだ」
「はい、神父様。フィン君は、お体大丈夫なんでしょうか? 彼も雨に打たれたのに」
「はて、どうだろうね。朝、フィンの母親からの電話では、元気に学校に行ったそうだよ」

匙を薬の中でぐるぐると回しつつ、フィンのことが心配になる。
神父様は首を傾げた後で、大丈夫だろうと、楽観的に笑う。
未だに薬に溺れた匙は、周りにどろどろをくっつけて回旋している。
なかなか決心が着かない。
神父様は急かすようにして僕を見ていた。
もうヤケだ、と器を持ち上げて口を付けた。
匙で、がっと掻き込んだ。
口一杯に入り込んだ物体を、生理的な拒否だろうか、うぇっと体が拒むように込み上げてくる。
それでも、鼻を摘んで飲み込んだ。


 ごほっ、と噎せながら上体を折り曲げる。
げほっごほっ、と咳が止まらない。
目からは涙が零れ落ちる。
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