39 / 97
一章:SとK
仲直り 01
しおりを挟む【仲直り】
診察を終えた頃に、携帯を確認して真っ先に目に飛び込んで来たのは、クロのメールだった。
家に継生を呼んでもいいかと言うもので、案の定、彼は断れないようだ。
ボクは一言返事を返し、研究室に向かった。
ホテルなどに連れ込まれるよりは、家の方が何倍も安全だ。
それだから、許可するような内容で送った。
喧嘩の最中だ。
文は素っ気なくなったかもしれないが。
今のところは大丈夫そうなので安心したが、油断は出来ない。
残りの仕事を早く終わらせようと、研究室に向かう足を速めるのだった。
あれから、2時間程が経過した。
ボクは仕事を終わらせ、既にマンションの前にいた。
部屋の前まで向かい、鍵を取り出す。
時刻はいつもよりも早い17時ぐらいであった。
鍵を解除して家に入った時だ。
クロの呻き声と、慌てている継生の声が聞こえてきた。
ああ、やっぱりこうなったか。
と思考が働く。
ボクは靴を脱ぎ捨ててダイニングまで進んだ。
クロが倒れている。
俯せで表情は見えないが、恐らくは苦悶のそれであろう。
継生はそんなクロの背中を撫でて声を掛けているが、クロにはその声は届いていない。
いつものことだ。
過呼吸を起こしている。
クロは過去にトリップしているのだろう。
あの悲劇の日を、見ているのだ。
彼の意識は、此処にはない。
「敷家君。折角、忠告したのに。ボクの仕事を増やさないでくれるかい?」
ボクの存在に気付いていない継生に声を掛ける。
継生は今にも泣き出しそうな顔で振り返る。
対処出来ぬのならば、忠告通りに手など出さなければいいものを。
と憎々しく思う。
「か、河東先生! クロさんが、急に。過呼吸のようで。でも、訳の解らないことを」
慌てている継生を尻目に大きく息を吐き出した。
ボクはカバンを床に置いてクロに近寄る。
過呼吸で死ぬことはない。
クロの場合、過呼吸+αでフラッシュバックを起こしているのだ。
それを知っているのは、ボクだけだった。
「大丈夫だよ。ただのフラッシュバックだ。いつものこと。落ち着きたまえよ、敷家君。後はボクがやるから、君は帰りなさい」
「でもっ!」
継生の肩を叩き、彼の隣にしゃがみこむ。
頷かない継生を無視し、クロの頭を撫でた。
「クロ君。ボクだよ、サンだ。もう大丈夫。何も、怖くないよ」
頭から背中へと、撫でる手を落としていく。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる