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一章:SとK
時に想い出は残酷で 05
しおりを挟む病院前でバスを降りる。
正面玄関を潜ると、午後の診察に入っているからか、午前中とは打って変わり、がらんとしていた。
沢山のソファーが並ぶ中を突っ切り、総合案内所の前に設置されている機械に診察券を通す。
再診察の手続きを済ませ、エスカレーターに飛び乗った。
精神科は2階だ。
内科や診療内科を越え、一番奥まった場所に受付はある。
受付の女性は、先日前にもいた人で、少しホッとした。
「あ、あの」
「どうも、川路さん。突然呼び立てて申し訳ありません。先生がお待ちですので、3番の診察室にお入り下さい」
書類に何やら書き付けている彼女に声を掛けると、すぐに解ってくれた。
診察券を渡し、受付の横の通路に入る。
診察室が並び、廊下にはベンチ型のソファーも備え付けられていた。
今日は待つこともなくすんなり診て貰えるらしい。
またもや、怪訝に思う気持ちがむくむくと沸き上がってくるが、その警鐘のような疑心を無視して、扉を開けた。
恐る恐る中に入ると、継生が無表情でデスクに向かっていた。
「あの、継生、先生?」
「ああ、クロさん。急にすいません。どうしてもしたいことがあったので。どうぞ、座って下さい」
いつもと様子の異なる継生に声を掛ければ、彼の前にある椅子を勧められた。
何故だろうか、今日は全ての様子が違って見える。
看護師もいない。
サンに対抗しているのだろうか、などと下らないことを考えながら椅子に腰掛けた。
「検査、って」
「昨日のことは、覚えていますか?」
「え、いえ。貧血、起こしたみたいで。その、すいません。ご迷惑、掛けましたよね?」
何をするのか聞こうとして、逆に問われる。
俯いて首を横に振った。
彼の顔が見れない。
それでも、謝罪しようとどうにか目線を上げた。
上目遣いで見た継生の顔には覇気がなく、何か思い詰めているように見えた。
じっ、と見詰められてしまい、僕はまた下を向く。
「迷惑なんて、そんなことはありませんよ。今日は、クロさんのことをお聞きしようと思って」
「僕の……こと?」
怒っているのか、と太股に置いた手を突っ張り、肩を縮込ませて、小さくなる。
だが、優しく声を掛けられ、安堵に息が出た。
その後に続く台詞に小さく声が漏れる。
「はい。22年前、何があったんですか?」
がっ、と肩を強く掴まれ、反動で顔が上がる。
22年前と聞いて自然に、ひっ、と溢していた。
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